特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<198>京都文教大学
「ともいき社会」の実現目指す
総合社会学部と臨床心理学部 実習授業を多く設ける
大学と地域と企業がつながり、自他ともにいきいきとする「ともいき(共生)」社会の実現を目指す。京都文教大学(平岡 聡学長、京都府宇治市)は、1996年に開学した浄土宗の宗門系の大学。母体の京都文教学園は1904年創設の高等家政女学校が淵源で、現在、幼稚園・小学校・中学校・高校・短期大学・大学・大学院を擁する総合学園に発展している。大学は、総合社会学部と臨床心理学部の2学部からなる。FSD(ファカルティ・スチューデント・スタッフ・ディベロップメント)活動で学生の意見を取り入れるなど学生と教職員の距離が近い。2007年にFRO(フィールド・リサーチ・オフィス)を設け、2014年に地域協働研究教育センターを設立し、文部科学省の地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)に採択され、地域貢献活動に傾注する。「『現場』と『実践』がキーワードで、自分で見て、体験して学ぶ実習授業を多く設け、物事を考える力や自らを表現する力、他者を深く理解する力を磨きます」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
「四弘誓願」が建学の理念
建学の理念は、仏教の教えの中でも特に菩薩の「四弘誓願」。菩薩(仏陀の生き方を模範にして人生を歩む人)の立てる四つの誓い。学長の平岡が説明する。
「かぎりなき他者貢献、たえまなき自省自戒、たゆみなき真理探究、ゆるぎなき人格完成の四つです。これは、自己研鑽して自己の目的を達成したら、その知識や経験に基づいて社会や他者の幸せに貢献し、またその社会や他者の幸せに貢献することを自らの喜びとする生き方です。この『自他共生』が本学の建学の理念であり、これを『響きあうこころ 生かしあういのち』というフレーズで分かりやすく表現しています」
京都文教大学は、法然院の獅子谷仏定上人の発願によって1904年に創設された高等家政女学校が母体である。44年、家政学園高等女学校に名称変更、女子商業学校を併置した。
戦後の1947年、新学制により家政学園中学校、48年、家政学園高等学校を開校。53年、家政学園附属幼稚園が開園。60年、家政学園短期大学が開学。61年、家政学園短期大学を京都家政短期大学に名称変更。67年、短期大学が宇治市に移転。
80年、京都家政短期大学を京都文教短期大学に名称変更。82年、京都文教短期大学付属小学校が開校。95年、家政学園高等学校を京都文教女子高等学校に、家政学園中学校を京都文教女子中学校に名称変更。
96年、京都文教大学(人間学部)が開学。「仏教精神にもとづく人間の心、行動、文化を主題とする学問・教育のトポス(場)として、男女共学の大学にすると共には、地域社会・市民に広く『開かれた大学』を実現しようと開学しました」
2000年、大学院修士課程(文化人類学研究科・臨床心理学研究科)、02年、大学院博士課程(臨床心理学研究科)開設。04年、現代社会学科を開設。
08年、日本初の臨床心理学部を開設。12年、人間学部を総合社会学部へ名称変更。13年、臨床心理学部に教育福祉心理学科)を開設。総合社会学部の文化人類学科と現代社会学科を総合社会学科へ統合した。
現在、2学部に1900人の学生が学ぶ。男女比は、ほぼ同数で、出身地は、京都、滋賀を中心に関西地区が大半だという。
「IT革命や世界のグローバル化など、現代社会は加速度的にめまぐるしい変化を遂げていますが、それに伴って人間や社会は深刻な問題や課題に直面しています」と前置きして、2学部の学びを説明する。
「人間関係のもつれ、自殺、学校でのいじめ、高齢化、コミュニティーの喪失、過疎化、格差社会など、枚挙に暇がありません。そこで、ヒューマンケアという視点から人間個人の苦悩と向かい合う臨床心理学部を設けました。
また、ソーシャルマネジメントという観点から社会の諸問題と対峙する総合社会学部を設置し、個人と社会の両面から自他共に幸せを感じられる共生社会の実現に向け、新たな価値の創造を目指しています」
総合社会学部は、総合社会学科の1学科。経済・経営、メディア・社会心理、公共政策、観光・地域デザイン、国際文化の5コースを設けている。「ひとつのコースで興味あるテーマを追究することも、コースの枠を越えて複数のテーマを学ぶことも可能です」
臨床心理学部は、臨床心理学科と教育福祉心理学科。人間の「こころ」と「行動」を深く学ぶ臨床心理学科は、深層心理、子ども・青年心理、医療・福祉心理、ビジネス・経営心理の4コース。教育福祉心理学科は、小学校教員免許や保育士資格を取得できる教育福祉心理学科2コースを設けている。
学びは「現場主義」
学びは、現場主義が特長。「2学部とも実習やボランティア活動などでフィールドを大事にしています。大学での学びと現場での学びがコラボすること、地域と大学を往復することによって学びを深めています」
FSDプログラムは、着実に成果を上げている。「学生の意見を聞いて教学マネジメントに活かしたり、授業の改善を行っています。学生は、『学生FDサミット』に参加するなど、学生目線で課題を見つけ提案してくれます」
COC+(プラス)などに採択
COCとそれに続くCOC+活動。2014年採択のCOCでは、「高・大・地・産の接続を通じた地域人材の育成と定着促進」などを、COC+では、「自治体や地元企業と協働し、企業と学生の出会いの機会の創出」などを目指した。
「学生の地域貢献の活動は、主にFROが担います。宇治市の宇治橋通り商店街の活性化や地元名産の宇治茶のブランドアップのためイベントやワークショップなどを展開、地域の課題を見つけ、その解決策を模索しています」
強い就職力は、一人ひとりの個性や希望を大切にする面倒見の良い進路指導が支える。同大は就職決定率が97.1%、進路決定率(就職と大学院などへの進学を含む)が84.1%だという(2016年度実績)。
就職でもCOC+が関わる。「地元の京都府内に就職させる比重を50%にするのが目標ですが、初年度の2016年度は40%。地域とともにある大学として、インターンシップを地元に特化するなど工夫して地元への就職を高めたい」
学生のボランティア活動も活発。「仏陀と法然に学ぶ人間学」が1年次の必修科目となっている。「仏教系の大学として、東日本大震災、熊本地震、福岡県朝倉町の水害など、災害時には教員が学生を連れて被災地に赴き、活動しています」
設備が充実したキャンパス。専門図書が充実した図書館や学生が自由に使うことができるパソコンルーム、トレーニングルームや音楽練習室を備えたクラブボックス。「学生の憩いスポット『サロン・ド・パドマ』には課外活動の発表に利用できる可動式ステージなどがあり、利用頻度は高いです」
クラブ・サークル活動。スポーツや文化・芸術など多彩なクラブ・サークルが活動しています。体育会系クラブでは、女子サッカー、軟式野球が強豪。「学生自治会に150人近い学生が参加、学園祭などイベントを企画運営するなど活発です」
第2期中期計画が始動
大学のこれから。2018年度から第2期中期計画がスタートした。目指すべき方向性として「認めあう、生かしあう、教育重点大学~学生の成長度で勝負する大学~」と教育の質的転換と充実化を挙げた。
「学生一人ひとりの個性を活かした教育を施し、アクティブ・ラーニングを徹底させ、地域社会への貢献を通して学ぶ現場実践教育によって、『ともいき社会の実現』というミッションを完成させたい」
そして、続けた。「地域から学生を預かり、きっちり教育して、地元に返すという好循環を創っていきたい。教職員との距離が近いという小規模大学の強みを活かし、前を向いて進んでいきたい」。「ともいき社会の実現」のミッションに最後まで拘りを見せた。