特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<195>新潟工科大学
創造性豊かな技術者育成 就職率100%高い満足度
学修成果可視化に取組む
社会に貢献し、未来を切り拓く技術者を育成する。新潟工科大学(大川秀雄学長、新潟県柏崎市)は、500社を超える企業が中心となって1995年に設立された。「日本の技術を支え、発展させることのできる優秀な技術者を育成する場を自らの手で作りたい」という想いからだった。工学部の単科大学、3学系8コースで、自分の適性や将来の希望により段階的に専門分野を選択。学生一人ひとりを支えるサポート体制やタブレットを利用したICT教育など充実した教育環境がある。画期的なのは、「達成度自己評価システム」により、自分が設定した目標にどれだけ到達したかという学修成果の可視化への取り組み。二年続けて就職率100%で、就職満足度の高さが特長だ。「企業がつくったものづくり大学で学び、得意分野の深い知識や複数分野の広い知識を体得し、地域の発展に貢献する技術者を輩出したい」と語る学長に大学の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
県内企業のつくった大学
新潟工科大学は、1990年に「新潟工科大学設立同盟会」が設立されたことに始まる。当時、新潟県内の中小企業の経営者は、優秀な人材を確保できないことで将来の会社の存続と発展に強い危機感を抱いていた。学長の大川が語る。
「円高などで生産拠点の海外への移転が急ピッチで進む中、日本の技術が空洞化してしまうことを憂慮。原点に帰った実務教育をし、優秀な技術者を県内に輩出できる場を自らの手で作りたいという強い思いがありました」
この熱意に新潟県、柏崎市と新潟県内のほとんどの市町村が賛同し、一般市民の寄附もあり、130億円を超える設置財源が集まり開学。設立同盟会は、開学後に解散、新潟工科大学産学交流会がその意志を引き継ぎ、支援している。
1995年、新潟工科大学は、工学部(機械制御システム工学科、情報電子工学科、物質生物システム工学科、建築学科)1学部4学科で開学した。
「本学は、ひとりのオーナーのための大学でなく、県内の会社社長たちの想い、新潟県、県内市町村そして多くの県民の想いがひとつになって作られた大学です。産学連携を通しての産業界への貢献を理念とし、『ものづくり』の視点を重視した工学教育に基づき、創造性豊かな技術者を育成したい」
98年、地域産学交流センターを開設。99年、大学院修士課程、2001年、大学院博士後期課程を設置。07年、学習支援センター(現・教育センター)開設。09年、柏崎市、新潟産業大学と連携協定、上越市と「ものづくり支援パートナー協定」を締結。
15年、工学部4学科を工学科へ改組。新たに3学系8コース設置。▽機械・素材科学系=先進製造コース・シミュレーションコース・化学バイオコース▽知能機械・情報通信学系=ロボティクスコース・情報通信コース・医療福祉工学コース▽建築・都市環境学系=建築コース・都市環境エネルギーコース。
この改革について。「受験者が減少傾向になり踏み切りました。4学科を1学科に組み替え、学生の自由度を増やしました。入学してから適性を段階的に見つけるようにしました。自分の希望するコースで学べます。導入して3年目ですが、学生が目標を立てて講義に臨むようになり、教員との相互理解も深まり、成果を上げています」
現在、550人の学生が学ぶ。出身地は、新潟県を中心に富山、長野の3県で80%以上を占める。男女比は、男子93%、女子7%。「女子を増やしたいと手を打っているが、なかなか難しい」
工学科3学系8コースの学び。1年次では工学の基礎を学び、興味・関心により2年次で「学系」を、3年次で「コース」を選択する。
「1年次では、一般教育と合わせて、工学の基礎的な学習プログラムで学びます。多くの選択科目の中から、各学系・コースに関係する科目を選んで学ぶことができます。2年次では、工学領域を三つに分けた学系の学習プログラムで学び、3・4年次では、3学系を八つに分けたコースの学習プログラムで学びながら、深い専門性や広い知識を修得します」
手厚い学生支援体制。学生5人程度のグループに、助言教員1人が付く。「学生一人ひとりの相談相手として、授業内容や学系・コースの選択、さらには生活上の問題や就職活動までサポートします」。教育センターは、基礎科目の個別指導、資格取得支援や就職試験対策を行う。
学修成果の可視化は、文部科学省の平成26年度大学教育再生加速プログラムに採択された。二つの改善ループを構築、教育改革を実行することが事業の柱。この試みは大学関係者の注目を集めている。
「大学独自のシステムにより、学修成果の可視化を基軸とした『学修目標・キャリアプラン→学び→学修成果の可視化↓面談(きめ細かい学生指導)→学修計画の改善』という学生の学びに関するループと『三つのポリシーを基本とした教育目標・教育計画(シラバス)→教育→学修成果の可視化→FD、FSD(評価)→教育計画・教育方法の改善』と言う大学全体の教学マネジメントのループです」
学修成果の可視化は導入して3年目。「学生全員がiPadを使って取り組んでいます。学生が目標を立て、その到達度を見ることで学習意欲が増し、教員もFD研修等で教授法に工夫を凝らすなど成果は少しずつ出ています」
研究面では、風の研究(「高度シミュレーション技術による地域の『風』の課題解決と人材育成」)が文科省の平成29年度私立大学研究ブランディング事業に選定。同大では、開学時から国内最大級の風洞実験装置を設置、ビル風や防風対策に取り組んできた。
「日本海の強風に悩む地元の自治体や企業などと協力して、風・流体工学の研究を行い、より良い住環境の実現や、付加価値の高いものづくりを行いながら、社会で活躍できる人材を育てていきたい」
就職力。第1期生の卒業以降、19年間の就職率の平均は97%を誇る。平成28年度就職率は2年続けて100%を維持。「学生の就職先企業に対する満足度が高いことが特長です。28年度は満足度が97%、第1~2希望の企業への就職率は80%を超えています」
さまざまな支援プログラムに加え、専門スタッフが一人ひとりの状況を把握し、活動方法や採用試験に関して丁寧にアドバイス。新潟工科大学産学交流会と連携して行う充実した就職支援も就職力の原動力となっている。
地域貢献活動。開学以来、市民向け講演会や地域の技術者を対象とした研修会を開催。「壊す予定のアパートをシェアハウスに作り替えたり、日本酒のラベルのデザインをしたり、学生は頑張っています。今後とも、本学の知的財産に触れてもらう機会を増やすとともに、子どもたちを含む市民に科学や工学技術への関心を高めていきたい」
国際交流。環日本海地域を代表する工科大学として、これまで中国やモンゴルの大学と特色ある交流を行ってきた。「今後、欧米の大学とも提携し、教育面での交流を一層深め、アジアや世界の発展に寄与していきたい」
クラブ、サークル活動も活発。工学系大学らしくロボット、自動車やデザイン関係のサークルもある。「地元のFM局で週1回パーソナリティを務めている『にこラジィ』では、番組構成からミキシングまで学生だけで行っています」
大学のこれから。「教育面では、社会のニーズを取り入れることも大事だが、基礎教育、基本を学ぶことの大切さを教えていきたい。基礎がしっかりしていれば、思わぬ力を発揮することがある。研究面では、「ものづくり」の視点から新たな知の創造に日々挑戦し、その成果を地元地域や日本、さらには世界の発展のために活かして行きたい」
こう結んだ。「地域との関係は、地域が全て、と言っていいかもしれません。地域の自治体、産業界との連携をより緊密に保ちつつ、教育と研究を通じてこれからも地域の発展に寄与していきたい」。「地域が全て」と言い切る姿勢が新潟工科大学の凛とした立ち位置だ。