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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<190>大阪観光大学
観光は平和と未来を開く
少人数教育英語力磨く 観光業界のプロを養成

旅行・ホテル・航空など観光業界のプロフェッショナルや、英語力と日本に関する教養を備え世界で活躍できる人材を育てる。大阪観光大学(赤木 攻学長、大阪府泉南郡熊取町)は、2000年に観光学部1学部で開学したフレッシュで小さな大学。名称が日本で唯一の観光大学でもある。2013年に国際交流学部(国際交流学科)を設置。同学部は、ゼミナールではなく、より家族的なスタジオ制を展開する。①経験豊富な教員によるアットホームな少人数制教育②航空業界出身者が「エアラインスクール」を開講するなど実学重視③キャンパスに近い関西国際空港を利用したインターンシップ・実習―などが特長。「観光学はきわめて広い裾野を擁しています。小さな大学ですが、Small is beautifulをモットーに、少人数教育の良さを生かして有為な人材を育てたい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。

(文中敬称略)

建学の精神
「明く、浄く、直く」

学長の赤木は、自らを「和魂地球人」という。和魂地球人とは?「日本のよき文化を備え、かつ地球=世界を視野に入れ考え行動する人間です。おもてなしの心で地球全体を見る、これは日本人だけでなく外国人にも必要なことだと思っています」

建学の精神は、「『明(あか)く、浄(きよ)く、直(なお)く』の精神に則り、豊かな心と深い教養を備え、知性に輝く有為の人材の育成」。1921年、大阪市内の日蓮宗寺院団で、日蓮上人降誕700周年事業として設立された明浄高等女学校が淵源だ。

「建学の精神は、天武天皇の続日本記にも出てくる言葉で、今でも通用します。日本人の昔からの価値観、アイデンティティーです。これを体得し、日本文化を理解することです。私の言う和魂地球人に通じるところがあります。ただ、1931年に宗門を離れており、現在、教育内容に宗教色はありません」

戦後の48年、学制改革に伴い、明浄高等女学校を明浄学院高校に移行。85年、大阪明浄女子短期大学(英語科)が開学。2000年、同短期大学の教育資源等を活かして大阪明浄大学が観光学部(観光学科)の1学部で開学。

当時、1994年に関西空港が開港、2003年には、自民党・小泉政権が「観光立国宣言」をするなど、観光が脚光を浴びていた。「モノづくりや金融といった学問は限界に来ており、観光には将来性があると観光学部で出発しました」

06年、大阪観光大学に名称を変更。09年、大阪明浄女子短期大学を廃止。13年、国際交流学部(国際交流学科)を設置。17年、日本語別科を設置。

国際交流学部設置では、「観光学部がステークホルダーに認知されず、志願者数も芳しくないので新しい学部学科を検討しました。インバウンドが急増するなか、観光客誘致も大事だが、日本や日本文化をもっと知ってもらうことも必要だと判断しました」

日本語別科は、「外国人にも日本のことを知ってもらい、日本人学生との交流によって国際交流につなげたいということで設置しました」

現在、2学部に674人の学生が学ぶ。男女比は半々で、留学生が約300人いる。中国人が約200人で、ベトナム人、韓国人等と続く。「日本人学生は、数多くの海外からの留学生とともに学び、豊かな国際性を自然に磨きあげています」

グローバル化に尽力

グローバル化は、観光大学のレーゾンデートルだ。校内に国際交流サロンがある。「学生はもちろん、ネイティブの教員や留学生など誰もが自由に交流できる学内のコミュニケーション・プラザになっています」

赤木の観光論。「人間の往来が爆発的に増加し、しかも地球規模に拡大してきています。この往来こそが『観光』であり、観光学部では実務的専門知識の獲得を、国際交流学部では英語と日本文化をベースとした教養学を基本に学びます」

初年次教育を重視する。「専門知識を磨く準備として、大学の学びに慣れ親しみながら『読む・書く・話す・聞く・考える』力を養成。幅広い教養とともに社会人基礎力を磨き、コミュニケーションやプレゼンテーション力を養います」

学部の学び。観光学部は、観光分野の専門知識はもちろん、多分野で役立つ豊かな教養も磨けるカリキュラムを組む。観光業界で活躍してきた教員のもと、段階的に知識の幅を広げながら、専門性と資格を身につける。

「学生は、観光の魅力・楽しさ・可能性を自ら味わいながら、プロの専門力と社会人の実務能力を修得します。卒業後は観光分野に六割、公務員や一般企業に四割の比率で進みます」

国際交流学部は、英語力を養い、リベラルアーツ(高い教養)を身に付け、自分の考えを思いや相手に伝える能力を磨き、多様な人々と交流できる人材の育成を目指している。

今年度から▽異文化コミュニケーション▽芸術・健康スポーツ▽日本語日本文化(外国人留学生対象)の三コース制に。「1年次から専門の勉強を通じて本物の教養を身に付けます。就職では、国際分野で働く学生も出ています」

学生はスタジオに所属

国際交流学部のスタジオ制は異色。学生はスタジオに所属する。「米国の大学の制度を採用しています。学年の枠を外し、教員が学生生活や学習面も細かくサポートします。ゼミより家族的で就職まで面倒をみます。観光学部でも導入を検討しています」

就職力。日本人就職決定率91%、外国人留学生就職決定率94%(2017年3月卒業実績)。今年度、就職支援課からキャリアセンターが独立、教員・職員が一体となってサポート。「実務経験豊富な先生が観光業界のノウハウを伝授したり、プロから学ぶ実践教育や観光の現場にふれる体験型学習が役立っています」

地域連携。キャンパスのある泉州地域を舞台にした、さまざまな地域連携の取り組みを展開。▽泉州RUSHプロジェクト▽大阪外食産業協会(ORA)産学連携講座▽吹奏楽部による泉佐野青年会議所の六〇周年記念式典での演奏▽熊取町住民提案協働事業「イベント盛り上げ隊」で支援―などがある。

クラブ活動では、強化クラブを設けた。吹奏楽部は、プロ仕様の楽器が自由に扱える、贅沢な環境。「和気あいあいとした雰囲気の中で、学内外でのコンサートやコンテスト参加など、地域・社会貢献にも寄与しています」

硬式野球部が一部昇格

硬式野球部は、近畿大学野球連盟に所属、来年度から1部昇格が決まった。「創部5年目という若いチームの勢いを前面に出し、1部昇格を実現しました。一体感を重視した雰囲気で、選手たちは練習に取り組んでいます。また、独立リーグへの入団者も出てきています」

ボランティア活動も活発に展開する。大学のある泉州地域の伝統行事を支えるため、地元・熊取や岸和田の「だんじり祭り」に参加。「掃除ボランティアとして、会場の紙ふぶきやクラッカー掃除を行い、迫力あるセレモニーを盛り上げました」

学長の赤木は、大阪外国語大学名誉教授(地域研究タイ政治・社会論)で、国際交流基金・関西国際センター所長や泉佐野市特別顧問、NPO泉佐野地球交流協会顧問、日本タイクラブ代表などを務め、海外事情に明るい。

大学のこれから。「新カリキュラムの浸透、スタジオ制の充実を目指します。大学院設置も視野に入れています。留学生はまだ増えると思う。日本人、外国人と区別する時代ではなく、どこの国、どこの学生でも学べる環境を備えた大学にしたい。日本へ行き勉強したいと目を輝かす若者を教育して母国へ返すことも日本の大学の使命ではないでしょうか」

こう結んだ。「日本は、ユニークな文化を保ち続けている稀有な社会。それは、島国だからです。この島国で培養された文化(私は、『ガラパゴス文化』と呼んでいる)は世界中の人々を魅了し、引きつける力があります。日本は、これから益々、観光のメッカになるのは、間違いありません。観光は平和につながり未来を開きます」。和魂地球人の面目躍如である。