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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<189>ルーテル学院大学
小さな大学、大きなネットワーク
参加型授業 充実の実習  一人ひとりを大切に

「1人ひとりを大切にする教育」を通じて「キリストの心を心として神と世に仕える」人材を育成する―がミッション(使命)である。ルーテル学院大学(江藤直純学長、東京都三鷹市)は、1909年、熊本に創設された路帖神学校が淵源。その後、東京に移転。64年、4年制の日本ルーテル神学大学を開設。87年に従来の神学部を文学部に改組して社会福祉学科を設置。96年に現在の校名に改称した。2014年に学部学科を再編。現在、総合人間学部人間福祉心理学科の1学部1学科で福祉・心理・子ども・地域・キリスト教を学ぶ。1学年定員90人の少人数教育を活かした参加型の授業、充実の実習・インターンシップなどが特長。大学図書館の学生1人当たりの貸し出し冊数は年間19冊と全国の大学でトップクラス。「小さな大学ですが、国内外のネットワークは大きい。このネットワークを活かし、『ルーテルらしい』教育を展開したい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)

建学の精神 キリストの心を心とする

キャンパスは、武蔵野の豊かな緑に包まれている。季節の花が楽しめ、四季折々の表情が美しい。映画やドラマなどの撮影に使われている。大学敷地内に、バリアフリーの女子学生寮があり、徒歩3分で教室まで行くことができる。

「大学名の『ルーテル』は、マルティン・ルター(Martin Luther)のことです。Lutherを明治の人は『路帖』と漢字で書き表し、『るうてる』と読んだそうです。人名の読み方はルターと改まりましたが、古い読み方がこの学校や教会の名前に残っているのです」と学長の江藤。

建学の精神は、「キリストの心を心とする」。大学の東門のモニュメントには、ルターの言葉「自分のためでなく、隣人のために生きて、仕える生に神の祝福があるように」が、ドイツ語と日本語で書かれている。

建学の精神を支えるキリスト教の教えは、講義ばかりでなく、キャンパス・ライフに関わる。「チャペルでは毎日、参加は自由ですが昼の礼拝があり、そこでは教職員も学生もひとつになって、聖書のことばを聞き、祈りを共にします」

ルーテル学院大学の前身の路帖神学校は、1911年、九州学院神学部となる。25年、東京都中野区に移転、日本ルーテル神学専門学校に改称。43年、戦争のため日本東部神学校(日本基督教団神学校財団)に合流。

戦後の50年、日本ルーテル神学校として再開。64年、日本ルーテル神学大学(神学部神学科)開学。69年、三鷹市の現在地にキャンパスを移転。76年、神学部神学科にキリスト教社会福祉コースを設置。

87年、神学部神学科を文学部神学科、社会福祉学科に改組。92年、神学科を神学専修、キリスト教と文化、キリスト教とカウンセリングの3コースに。

2001年、大学院人間福祉学研究科社会福祉学専攻(修士課程)設置。05年、文学部を総合人間学部に名称変更し、臨床心理学科を開設し、キリスト教学科と社会福祉学科と合わせ3学科に改組。

14年、総合人間学部を人間福祉心理学科(福祉相談援助コース、地域福祉開発コース、子ども支援コース、臨床心理コース、キリスト教人間学コース)1学部1学科5コースに改編した。

この改編について、「学科の壁を取り払いました。たとえば福祉を学ぶ学生は、福祉だけでなく臨床心理やキリスト教など、他の領域のことも学ぶことができます。学際的な学びで人間の幅が大きくなります。こうした人材を社会が求めています」

現在、360人の学生が学ぶ。小さな大学なので、学生同士はもちろん、教員とも距離が近い。男女比は男子4、女子6、出身地は、かつては全国区だったが、首都圏が7割をしめるという。

江藤が大学を語る。「社会福祉、臨床心理といった専門分野の勉強をしますが、根底にはキリスト教の教えがあります。『人のために働きたい』『誰かの役に立ちたい』という思いをカタチにするために、『一人ひとりを大切にする』教育を通して『一人ひとりを大切にする』人材を養成します」

身体に障害のある学生が全体の約7%、25人いる。「当然ですが、健常者と同じように勉強しています。市民の方や学生が、手話通訳やノートテークを担い、学びを支えています。キリスト教の精神に立つ大学として自然に映っています」

学びの特色。具体的な将来像を意識しやすい5コースで、1人ひとりの関心に応じた学際的なカリキュラムを提供。「学生は、授業の後、リフレクションペーパー(振り返り)を書きます。教員はこれを読んで、個別に応答したり、学生と対話するなどして次の授業に活かします。学生の学ぶ意欲が増します」

参加型授業や充実の実習。社会福祉士・精神保健福祉士を目指す学生はソーシャルワーク実習、臨床心理士や心理関係職を目指す学生には、学部教育レベルでは数少ない病院などで行う臨床心理実習がある。

「対人援助者には実践の場での対応力が求められるため、ゼミ形式の実践的授業や実習を通して知識や技術を身につけます。参加型授業や、プレゼンテーションを取り入れ、柔軟な思考力や自分の考えを人に伝える力や、深く考察する力を養います」

学生の進路。社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士、保育士など資格取得を重視した学びが、就職率や国家資格合格率の高さにつながる。五つのコースは、次のような職業人を養成すべく指導している。

▽福祉相談援助コースは、公的機関や病院、民間施設・機関のソーシャルワーカーなど。
▽地域福祉開発コースは、地方公務員や社会福祉協議会をはじめとする福祉現場やNPO/NGOなどで働くソーシャルワーカーなど。
▽子ども支援コースは、児童福祉施設の児童指導員や保育士、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、青少年育成団体の職員など。
▽臨床心理コースは、臨床心理学の知識や技術を活かして社会で活躍する人材。臨床心理士資格を目指す学生の基礎力と大学院進学を支援。
▽キリスト教人間学コースは、キリスト教会関連施設・機関、保育所、病院、ホスピス、一般企業など人生に深く関わるような現場で対人援助を行う人材。

また、大学院臨床心理学専攻は、2006年、日本臨床心理士資格認定協会の第1種指定校に認定され、過去10年間の試験で90.1%の高い臨床心理士合格率と、多くの合格者を輩出している。

クラブ・サークル活動は、伝統ある聖歌隊やハンドベルはもちろん、フットサルやテニスなどの運動系の活動も盛んだ。「手話サークルは70人が所属し、日常の中で手話で会話をする環境があり、聖歌隊やハンドベルは、社会や地域でボランティア活動を続けながら、人間的にも大きく成長していきます」

地域貢献。近隣三市と「地域福祉ファシリテーター養成講座」を8年前から続ける。「市民に、ボランティア活動をするための基礎的な力を育む講座です。7年間で、284人が修了し、活動しています」

今年は、ルターの宗教改革500年という節目の年。「500年前、ルターは、『九五箇条の提題』を発表し、自らの信じるところを世に問いました。神の愛と人間の自由と奉仕を強調するルターの教えは今日もなお私たちに問い続けています」。同大でも宗教改革500年記念行事が多くある。

大学のこれから。「学部学科の増設とか学生の量的拡大などは考えていません。今の本学のミッションは、日本に必要だし、堅持していきたい。そして、少人数教育の良さをこれからも打ち出していきたい」と述べたあと続けた。

「小さな大学ですが、ルーテル教会に属する学園が国内には熊本県や埼玉県などにあり、海外はルーテル教会を通じてフィリピン、ノルウェー、アメリカの大学等と交流があります。このネットワークを活かしてルーテルならではの教育を高めていきたい」

江藤は、ルーテル学院大学のミッションにこだわり、小さな大学の大きな夢を語るのだった。