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大学は往く 新しい学園像を求めて

<188>金沢医科大学
レジリエンスで成長する大学
倫理に徹した 人間性豊かな良医育成

「倫理に徹した人間性豊かな良医の育成」が建学の精神である。金沢医科大学(神田享勉学長、石川県河北郡内灘町)は、1972年、医師の需要増大と無医地区解消を目的に開学。日本海側唯一の私立医科大学である。開学以来、医学部の卒業生は4009人を数え、全国で全人医療を担う医師として医療の中核を担っている。医師国家試験に臨む学習評価、FD活動などによる自己研修などとともに、編入学試験やAO入試導入などの教育改革を推進。再生医療などの研究面や、看取りを含めた在宅医療など地域医療にも傾注する。2007年、附属看護専門学校を改組して看護学部看護学科を設置した。「建学の精神である良医の育成と、高い資質と倫理性を持った看護師の育成に向け、レジリエンス(Resilience)で成長する大学を目指したい」という学長に大学の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)

日本海側唯一の私立医大

エンブレムが素敵だ。ヨーロッパ盾をデザインの基本とし、校章を中央に、その下に橘の葉、左肩に医業を象徴するケーリュケイオン、右肩に学問を意味する書物をあしらう。上部にラテン語で『Reverentia Vitae』(生命への畏敬)と記す。大学のシンボルマークでもある。

金沢医科大学の開学時の初代理事長は、衆院議長を務めた益谷秀次。開学の告辞で、「教育の基本理念は、人間形成と人格の陶冶にあります。この理念に立脚して、倫理観に徹した人間性豊かな良医を育て、わが国の医学の発展と地域社会の医療開発に寄与したい」と述べている。

当初は歯学部の設置も計画され、金沢医科歯科大学の名前で設立準備されていたが認可が下りなかった。そこで、医学部医学科のみの単科大学として開学した。

学長の神田が大学を語る。「建学の精神に掲げられた『豊かな人間性』とは、ひとつは他人への思いやりと共感です。対等の立場で相手の気持ちを理解することです。もうひとつは多様性への理解です。『倫理に徹する』は、仲間の間で守るべき秩序で、人は、他人の幸福のために存在するのだということです。これらを6年間で熟成させています」

大学開学の翌1973年、附属看護学校が開校。74年、金沢医科大学病院が開院。82年、大学院医学研究科、89年、総合医学研究所をそれぞれ開設。94年、厚生省(当時)から特定機能病院の承認を受けた。

98年、ハイテクリサーチセンターを開設。2003年、病院新館が完成、診療組織を再編。同年、大学院医学研究科改組。04年、医学部講座組織の改組。

07年、附属看護専門学校を改組して、四年制の看護学部看護学科を開設。「看護専門学校以来の伝統である看護職者となる学生自身が豊かな人間性を身につけ、生命への畏敬・人としての尊厳を基盤に置いた高い倫理観を身につけることという精神を受け継ぎました」。看護学部には、302人の学生が学び、北陸3県が79%。

看護学部は、他大学に先駆けて客観的臨床能力試験(OSCE)の導入やシミュレーション教育の充実を図っている。専門学校、看護学部を併せると、2358人の看護師、保健師、助産師を送り出し、全国の医療現場などで活躍する。

現在、医学部に693人の学生が学ぶ。出身地は、全国区だが北陸3県が18%、男女比は、男子6、女子4の割合だという。神田は同大の1期生。「私の学年は、140人のうち女子は6人でした」

建学の精神にある「良医」とは?「良医とは他人の痛みや苦しみに思いをはせ、寄り添って行動できる医師だと思います。良医の条件とは、1つは知識・技能を有すること、2つ目は健康な身体を持つこと、そして3番目は困難に立ち向かうタフな精神を有することです」

医学部の学生は勉強量が多く、長時間の実習などで一般学生よりストレスがかかりやすく、真面目な学生ほど燃え尽き症候群に陥りやすい。「現代社会は幼少期から困難や挫折を体験する事が少なく、ストレス耐性が脆弱です。このストレス耐性をレジリエンスと言います。学生のレジリエンスをもっと強めたい」

入学の初期段階から「メンター制度」を取り入れている。「上の学年の学生が下の学年の学生の面倒を見る制度です。お互いに助け合うことによって人間性豊かな人になってもらいたい。面倒見の良い大学であり続けたい」

医学部の学び。医学部課程の教育を、プロフェッショナル・キャリアパス・プランに基づき、医師となるための「基盤形成の6年」と位置付け、文部科学省の医学教育モデル・コア・カリキュラムに立脚した6年一貫統合型カリキュラムを編成。

「米国のECFMG受験資格を取るため、本学では来年度、日本医学教育評価機構(JACME)の審査を予定しています。医学部の国際基準を満たすため、臨床実習時間の拡大やカリキュラムの充実などを通じて臨床推論の思考体系と治療学の修得を強化しています」

学びでは、自ら考え調べ問題解決を導く学習や診療、参加型臨床実習などを導入、そのための環境整備に力を入れる。

「6年次の学生には、スチューデントドクター医局(SD医局)という専用のスペースを設置、学生たちは集中して自主学習や互いに教え合い、助け合うグループ学習に取り組みます。また、クリニカル・シミュレーション・センター(CSC)では、最新型シミュレータで臨床手技を磨きます」

教育改革のひとつが学習評価。「4年次では、全国共通の共用試験(CBT)と実技評価(OSCE)を用いて知識と実技を評価。患者と実際に接する臨床実習への適正も判断。6年次では、総合的な標準試験、臨床実習、Advanced OSCEの成績で卒業を判断、医師国家試験に臨みます」

医師国家試験の合格率。「留年者が少なく、年を追うごとに合格率は上がっています。また、昨年度の入試の志願倍率は、30.2倍と主要私立大学医学部のなかでは第3位で偏差値も年々、上がっています」

多様性の入試制度。今年度入試から、文系でも受験できる後期試験を導入する。「前期は英語と数学、理科ですが、後期は英語と数学(数学Ⅲを除いた範囲)のみです。医師になりたいというモチベーションの高い学生を多く確保したい」

また、AO入試の定員を昨年までの15人から27人と増やす。「AO入試の合格者は、卒業後、5年間の臨床研修を金沢医科大学病院や同氷見市民病院で行うのが条件。卒業後も、地域に定着、貢献できる学生を増やしたい」

氷見市民病院は、同大が社会に貢献する大学を象徴している。「氷見市に頼まれ、2008年から本学が運営しています。私も最初から現地で診療しました。人情味のある町で良い勉強になった。地域医療は義務教育と同様に、行政と関係者をまじえて本格的に取り組まねばならない課題だと思っています」

大学のこれから。「本学は、これまで困難や逆境を乗り越えてきた歴史があり、教職員や卒業生、先輩が困難に陥った学生に対し、良き理解者になり成長を促してきました。人間の成長は、困難を乗り越えることで打たれ強さを獲得するものです。この伝統を維持することは、他人を思いやる心の育成に繋がり、良医の育成を達成できる要素にもなります」

こう続けた。「これからも、『倫理に徹した人間性豊かな良医の育成』という建学の精神に基づき、本学が担う良き医療人養成を使命として成長していきたい。本学の伝統は、学生と教職員の距離の近さであり、アットホームな雰囲気の中で、お互いを助け合って共に育っていくことです。今後とも、学生には、レジリエンスを身に付させたい」。神田は、建学の精神とレジリエンスを最後まで力説するのだった。