加盟大学専用サイト

特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<186>田園調布学園大学
卓越した実践家を養成
福祉の総合大学  福祉・保育・教育を担う人材

福祉の総合大学として、卓越した実践力を備え、社会で活躍できる人材を育成する。田園調布学園大学(生田久美子学長、神奈川県川崎市麻生区)は、2002年に開学したフレッシュで小さな大学。1926年に東京・田園調布に設立された調布女学校(現・田園調布学園中等部・高等部)が淵源である。建学の精神は、「捨我精進」。現在、人間福祉学部と子ども未来学部の2学部体制で、福祉現場で豊富な経験のある教員がきめ細かく指導、福祉・保育・心理・特別教育支援のスペシャリストを育成している。①学生一人ひとりとの信頼関係を大切にした少人数教育②福祉・保育系の資格や教員免許などの取得を重視した学び③97.7%という神奈川県内トップの就職内定率などが特長。「子どもから高齢者まで、すべてのライフステージにおけるリーダシップを担える人材を教育し、これからの福祉・保育・教育を担う人材を育成したい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)

建学の精神は「捨我精進」強い就職力を誇る

田園調布学園大学の前身である調布女学校は、創立者の西村庄平が、私財を投げうって設立。「捨我精進」の建学の精神は、西村に招かれて初代校長となった川村理助による。川村は、校長として20年間にわたり生徒の育成に努めた。

学長の生田が建学の精神を説明する。「捨我は、我を捨てる、自己犠牲と誤解されますが、川村先生は、『我』をつつしみ抑え、相手のことを考えて行動せよ、と言っているのです。『福祉』という言葉の英訳では、『幸せ』という意味もあります。弱者に対する支援が福祉です。人の幸せを支援することで、自分も幸せになれる、『捨我精進』を幸福の循環と解釈しています」

1967年、調布学園女子短期大学(英語科)が神奈川県川崎市の現在地に設立。90年、日本語日本文化学科を開設。98年、男女共学の人間福祉学科開設、校名を調布学園短期大学に変更。99年、全学男女共学となる

2002年、田園調布学園大学(人間福祉学部)が開学。「全国的に、大学の文系学部の応募者が少なくなりました。そこで、高齢化社会を見据え、福祉を中心にした四年制大学を創設しました」

06年、人間福祉学部に子ども家庭福祉学科開設。「保育士が足りないという社会状況があり、それまでの福祉士だけでなく、保育士、幼稚園教員養成に特化した学科をつくりました」

07年、田園調布学園大学短期大学部を廃止。10年、心理福祉学科を新設。子ども家庭福祉学科を子ども未来学部子ども未来学科に改組。田園調布学園大学みらいこども園開設。15年、大学院人間学研究科子ども人間学専攻を開設。

「大学院の目的は、省察的実践家の養成にあります。省察には、振り返り、反省という意味がありますが、それ以上に、自らの実践を『構想』する知的な能力を含みもつものです。4年制の学部では、教養を積んで専門性を磨き、卓越した実践力を身に付けますが、大学院ではさらに、省察のできる人材、つまり実践全体を再構成できる人材を育てています」

大学院では、平日夜と土曜日に講義がある。「幼稚園や保育園の副園長、主任といった保育の世界で中心的な役割を担っている方たちが学んでいます。ある公立教育大学を卒業してすぐに入学した学生は、今年修士の学位をとり神奈川県の教員に採用されましたし、一方で70歳以上の経験豊かな院生も3人いらっしゃいます」

続いて、生田は、福祉や保育・教育の四年制大学の使命について、「福祉や保育・教育の教育研究を専門とする大学として、卓越した実践家を養成すること。そして、そうした専門性の基盤になるのが幅広い教養であると考えています」と熱く語った。

「専門学校や短期大学でも福祉や保育・教育関連の資格の取得は可能ですが、4年制大学で、この分野を学ぶ意味は何なのか。本学が目指すのは質の高い実践力を有する人材の育成です。四年間の学びでは、資格取得が、その中核にあることは言うまでもありませんが、重要なのは、その学びは、広くかつ深い教養に裏打ちされた実践力の獲得に向けられたものであるということです」

現在、2学部に1200人の学生が学ぶ。男女比は、人間福祉学部は、男女ほぼ同数、子ども未来学部は男子25%、女子75%。出身地は、東京都と神奈川県が大多数を占める。

2学部3学科2専攻の学び。人間福祉学部の社会福祉学科社会福祉専攻では、指定の科目を履修すれば、社会福祉士と精神保健福祉士の受験資格がダブルで取得できる。

同学科介護福祉専攻では、介護福祉士、社会福祉士のダブル取得を目指し、幅広い福祉分野でリーダーとして活躍できる人材を育成。「そこでは、介護福祉の専門性に加えて、相談援助や関係分野との連携・調整能力などを修得します」

心理福祉学科では、全員が社会福祉士の受験資格を取得するほか、心理、教育の分野を学ぶ。「希望者は、心理学分野では認定心理士の資格取得、教育分野では中学校・高等学校の教員免許および特別支援学校教員免許を取得できます」

子ども未来学部の子ども未来学科は、学生全員が保育士資格と幼稚園教諭一種免許取得を目指す。「教員と学生とが緊密な信頼関係を築きながら、幅広い人間性や他者とのコミュニケーション力を磨いています」

きめ細かな少人数教育

少人数教育を重視している。教員と学生が密にコミュニケーションできる環境が整えられている。「1、2年次ではアドバイザー制度を設け、学習や大学生活の相談に教員が対応。また、学生は、教員が各研究室で相談に応じるオフィスアワーを利用して、きめ細かい指導を受けています」

実習に力を入れる。福祉・教育・保育の資格取得に、所定の実習を修了することが必須条件。「資格取得に必要な実習の環境を整え、実習中には教員が現場に出向いて巡回指導を行うなど、学生の取り組みを徹底してサポートします」

強い就職力は、資格取得を重視した充実の国家試験対策にある。平成29年度の社会福祉士や精神保健福祉士の合格率は全国平均を大きく上回る。公務員・教職合格者が34人。「公務員採用が増えています。資格を所持している教職員による自主的な国家試験ゼミなどが成果に繋がっているようです」

「本学の学生は入学時点で、明確な目的意識を持っています。4年間で福祉や保育の専門的な知識や資格をしっかり身につけて卒業し、幅広い分野で貴重な人材として受け入れられています。就職先での評価も非常に高いです」

グローバル化。「海外の大学と独特の海外研修プログラムを設け、国際的な視野に立って、福祉や幼児教育に携わることのできる人材を育成しています」。人間福祉学部ではオーストラリアで福祉政策に関する体験型の研修、子ども未来学部ではニュージーランドで幼児教育に関する研修を実施している。

地域貢献にも力を注ぐ

地域貢献。「地域の中で子どもから高齢者まで安心して笑顔になれるために、福祉・保育・心理・学校教育の分野でお手伝いしています」。地域の子どもたちのために開催する「ミニたまゆり」は12年続く。「子どもに社会の仕組みを学んでもらうためバーチャルな街をつくり、労働、買い物、食事などを体験させます」

大学のこれから。「2002年に開学、今年で15年目を迎え約3000人の卒業生が福祉現場などで活躍し、現在、約1200人の在学生が日夜勉学に励んでいます。福祉や保育・教育の分野での人材不足の解消は喫緊の課題で、本学の社会での役割は以前にもまして大きくなっております」と振り返ったあと続けた。

「本学園の教育は、知識の修得だけではなく、心身の調和と鍛錬を目指した学生の活動を重視しています。福祉・保育・教育の3つの領域の学びの道筋はできたので、今後は心理学の分野に目を向けたいと考えています。また、大学院でも心理学専攻の設置を検討しています。加えて、地元との連携を一層深め、地域に根差した大学を目指しています」

最後は、建学の精神に戻った。「『捨我』と『精進』が車の両輪のようにかみあって、柔軟で寛容な心を持ちつつ、物ごとに真剣に取り組んでゆく、そういう学生を教育し、地域社会や国際社会に積極的に貢献できる人材を、これからも送り出していきたい」