特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<173>弘前学院大学
地域や国際社会で活躍を
一人ひとりに寄り添う オーダーメイド教育実践
「畏神愛人」(いしんあいじん)が建学の精神である。弘前学院大学(吉岡利忠学長、青森県弘前市)は、学生一人ひとりに寄り添ったオーダーメイド教育を実践する。昨年、弘前学院は創立130周年を迎えた。開学以来、女子教育を担い、地域や国際社会で活躍する人材を社会に送り出してきた。大学は1999年、男女共学となり、現在、文学、社会福祉、看護の3学部4学科、大学院2研究科を擁する総合大学に発展した。徹底した少人数教育によって、学生一人ひとりの学びをサポートする。セミナーや各種ガイダンスなど学内全体での充実したキャリア支援や姉妹校と提携した海外留学や研修を通じた異文化交流などが特長。「清新で専門性の高い教育と研究を通して幅広い文化の創造、保健医療福祉の向上のために、地域や国際社会で活躍できる人材を育てています」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
建学の精神は「畏神愛人」
キャンパスを入ると、正門の右側にさくら色の素敵な洋館が目に入る。外人宣教師館で、1979年に復元。米国から派遣された外人宣教師の住居で国指定の重要文化財。左側にあるステンドグラス・バラ窓が取り付けられた礼拝堂では、毎週木曜日に礼拝を行っている。
弘前学院は、1886年に青森県における最初の女子普通教育学校として、本多庸一によって創設された。校名は、当初、設立基金寄付者であるライト夫人の名前をとり、来徳女学校と称された。学長の吉岡が創設者を語る。
「本多庸一は、津軽藩士の子に生まれ、藩校で漢学と兵法を学び、のちに藩命によって横浜で英学を学びました。故郷に戻り、旧藩校の校長に就任するなど子弟の教育にあたりました。青森県議会議長になったこともあります。
また、青山学院第2代目院長、メソジスト教会初代監督としても知られています。新島襄、内村鑑三、新渡戸稲造などと並ぶ日本におけるキリスト教主義教育の先駆者でした」
建学の精神について続けた。「『畏神愛人』とは、神すなわち聖なるもの、永遠なるものを尊び敬い、愛をもって他者に仕える人間になることを目指すという意味です。このキリストの教えに基づく教育を実践しながら、常に教育・研究・施設設備の充実を図り、学生の人格形成を援助して、確かな学力と豊かな人間性を身に付けた人材の育成を通じて社会に貢献することが本学の使命だと思います」
来徳女学校は、その後、弘前遺愛女学校、弘前女学校、弘前聖愛高等女学校と改称されたが、キリスト教主義教育をずっと貫いてきた。戦後の1946年の学制改革により弘前聖愛高等学校となった。
50年、法人を弘前学院に改め弘前学院短期大学(英文科)が開学。57年に家政科、66年には国文科を増設。71年、4年制大学の弘前学院大学が開学。短期大学英文科・国文科を改組し、文学部英米文学科・日本文学科を設置した。
99年、社会福祉学部を増設、男女共学になった。2005年には看護学部を増設。大学院修士課程として03年に社会福祉学研究科、05年に文学研究科を開設した。現在、3学部に700人の学生が学ぶ。
学部・学科の学び。文学部は英語・英米文学科と日本語・日本文学科。言語・文学・文化が専門の柱で、表現力を高めるため、少人数による演習形式の授業が数多くある。「新入生は概論的な科目から始めて基礎を学び、学年が進むにつれて専門演習などを通じて専門を深めていきます」
卒業生は、中学・高校の英語・国語の教員をはじめ、教育の現場で教員や職員として活躍している。「教職についている人は、一時は青森県内だけで約450人おり、教育界における一大勢力となっています」
社会福祉学部(社会福祉学科)は、「学生の臨床実践力の向上」を目指す。学生たちは、"Think global , act local ! "のまなざしで、地域のさまざまなニーズに的確に応えるために、活発なボランティア活動の展開。「地域に根ざした大学づくり」に貢献している。
「小規模大学の良さを活かして、学生と教員が同じ目線で、福祉社会の実現に向けて学びあう環境づくりを心がけています。チューター制を採用、講義内容にとどまらず学生生活のあらゆる不安や課題等について積極的に関わっています」
看護学部(看護学科)。建学の精神は「謙虚に人と向き合い、人をいつくしむ」という看護する心に通じている。「初年次には看護実践に必要なコミュニケーション能力や基本的なマナーなども学び、看護実践能力を育成するための臨地実習は、約1000時間にわたります」
学部開設以来、地域貢献の一環として地域の臨床の看護実践者を対象にリカレント教育を行っている。「看護師の抱える疑問を研究し、看護の質を高めたいと考えました。それが、地域の看護の向上につながると確信しています」
昨年の創立130周年では、カリキュラム改編による教育改革やキャリアサポート強化だけでなく様々な改革を行った。「夢サポート20奨学金(略称夢サポ20)」もそのひとつ。
「授業料の20%免除を四年間継続する制度です。各入試の成績によって採用します。毎年、文学部が15人、社会福祉学部が10人、看護学部が20人それぞれ採用されます」
就職力。就職決定率は99.2%と高い。「東北地区でも有数の就職率を誇ります。学部の教員と就職課の職員が一体となって、学生個々の適性に応じたきめ細かなサポートを行います。卒業生のバックアップも大きな力になっています」
資格取得にも力を入れる。看護学部は看護師、保健師の国家試験合格を目指す。社会福祉学科では、本年度から社会福祉実践コースを設け、社会福祉士や精神保健福祉士、特別支援学校教師などを目指している。
グローバル力。米国、韓国、中国の九大学と協定を結び、留学生の交換などの国際交流を行っている。「留学生が日本語や日本の文化を学びに来て、様々な体験行事や一部の授業等に参加し、学生や地域の人と交流を深めています」
また、文学部では、米ウィスコンシン大学ラクロス校などと海外研修プログラムを組んでいる。「学生は英語力を磨くだけでなく、ホームステイ等を通じて貴重な異文化体験ができます」。力を込めて続けた。
「日本や自分の住む地域のことをきちんと語れるのが真の国際人です。文学部では、地域研究などのカリキュラムを通じて地域への目を養い、世界へ目を向けると共に地域を見つめる眼差しも備えた人材の育成を目指しています」
学長の吉岡は、東京慈恵会医科大学卒の医師で東海大学医学部助教授、ペンシルバニア大学医学部助教授、青森県立保健大学副学長などを歴任して2004年から弘前学院大学学長となった。08年から「ヒロガク教養講話」を始めた。学生の学習意欲向上が狙いだ。
「高校から大学へのスムーズな移行のため、新入生を対象に学習の動機づけなどを行う初年次教育は重要です。学部の垣根を越えた取り組みで大学の特色の一つになっています」。吉岡は、第1回目に「人体の小宇宙」を講演した。
大学のこれからを聞いた。「130年の歴史、伝統は重いものがあります。先輩方は学園での学びの成果を地域に還元してきました。これからも、教育、研究、学園運営など、地域から愛され安心され信用され評価され、そして慕われる大学として、あり続けたい」
最後は、建学の精神に返った。「キリスト教の精神と本多先生の信条を基に人間形成を教育の根底に据えて、高度な専門知識と技術の習得を目指したい」