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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<180>京都華頂大学
自立した素直な女性育成
現代家政学で課題解決力育む  感謝のできる社会人に

「生命の尊さを深く理解し、素直に感謝のできる社会人を育成する」。京都華頂大学(中野正明学長、京都市東山区)は、浄土宗の宗祖、法然上人の精神を現代に生きる女性に託して教育目標にしている。法然上人の700年御遠忌を記念して明治44年に創立された華頂女学院が淵源で、100年に及ぶ華頂短期大学の歴史を引き継ぎ、2011年に開学したフレッシュな大学。家政学の中核をなす衣服・食物・住居の諸問題を、人間の生活構造とライフデザインの双方からアプローチする現代家政学部(現代家政学科)を設置、2016年には、食物栄養学科を開設。生活者・職業人の視点から、社会の今を見つめる「現代家政学」を学ぶ。「自立した女性として、現代社会が抱える課題を解決へと導く人材を育成したい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。

法然上人の教えを今に 「和顔愛語」が校訓

キャンパスは浄土宗総本山知恩院の古門からまっすぐにのびる華頂道沿いに広がる。地下鉄東西線の「東山」駅で下車、白川沿いを歩いて約4分。白川は、夏には蛍が飛び交う。泰然とした自然と仏教文化の伝統が根ざした教育環境がある。
知恩院は、徳川家康、秀忠、家光らの外護により現在の壮大な伽藍が形成された。境内には、国宝の御影堂や三門、重要文化財の勢至堂、集会堂、大方丈、小方丈、経蔵、唐門、大鐘楼など文化財指定建造物が建ち並ぶ。
1911年、浄土宗総本山知恩院が、華頂女学院を開設。法然上人の教えを建学の精神として、知恩院山内の華頂宮旧邸跡に開校。「開校以来、『和顔愛語』を校訓として宗教的情操教育に取り組み、時代が求める女性を育成してきました」
『和顔愛語』は、浄土宗の浄土三部経にある言葉。「和顔は、和やかで穏やかな顔立ち、愛語は、思いやりのある優しい言葉。個人個人が常に和やかな心をもって、思いやりのある態度で他の人と接していくことが大切ということです」
1953年、華頂短期大学を創設、保育科・被服科を設置。58年、社会福祉科を設置。2001年、華頂学園創立90周年、03年、短期大学創立50周年を迎えた。華頂短大は、10年、歴史文化学科、11年、人間健康福祉学科を設置。
京都華頂大学は、華頂女学院創立100周年を記念して開学した。「100年に及ぶ華頂短期大学の歴史を引き継ぐとともに、建学の精神である法然上人の教えを現代社会に実現する大学として開学。これまでの女子教育の実績と4年制女子大学としてのメリットを活かそうという思いがありました」
現在、京都華頂大学、華頂短大、華頂女子中学・高校は、佛教大学、東山中学・高校などとともに学校法人佛教教育学園に属する。「いずれも京都市内にあって、浄土宗の宗祖、法然上人の心を心とする、浄土宗立の学園です」
京都華頂大学は、現在、現代家政学部現代家政学科(生活社会学コース、児童学コース)、食物栄養学科の1学部2学科に411人の学生が学ぶ。出身地は、京都府42%、滋賀県33%、大阪府12%で、3府県が大半を占める。
各学科の学び。現代家政学部現代家政学科は、2コース。生活社会学コースは、現代家政学をベースに、現代社会のさまざまな課題や人々のニーズに的確に対応する。
「生活に関する『衣・食・住』をキーワードに幅広く学び、専門的な知識やスキルを修得します。中学校教諭・高等学校教諭(家庭)など生活分野にかかわる免許・資格を取得することができます」
児童学コースは、同じく現代家政学をベースに、現代の児童をめぐるさまざまな問題への対応と解決へ導くことができる人材を育成している。
「実習や体験授業を重視した実践的な学びを通して、保育・教育のスペシャリストをめざします。保育士、幼稚園教諭、小学校教諭の3つの国家資格を同時に取得することができます」
食物栄養学科は、生涯を通した健康づくりを担う食・栄養・健康のスペシャリストを育成。食の安全や健康への関心が高まる中、地域の医療、介護、保育、教育、保健など様々な現場で栄養指導ができる専門的な知識と技術を身につける。
「卒業後は地域の様々な場面で活躍できる管理栄養士や栄養教諭の養成をめざします。管理栄養士国家試験合格率100%をめざした講座や個別指導を徹底して行っています」
学びの特長は、少人数教育と資格取得を重視したキャリア支援。少人数教育では、今年度から学生担任制度を導入、1回生からゼミナールに入る。「教員との距離が近く、仲間と学びを共有して成長できます」
学長の中野は「特に卒業論文指導を重視します。3年生ゼミから10人前後の各ゼミで、担当教員のもと論題選定から始まり、4年生の12月に卒業論文を提出するまで、それぞれの課題に向き合います。本学が課題探究能力の育成に力を注ぐ重点策であるこれらのことにより、多くの学生は、研究室に隣接する学生演習室に遅くまで居残って頑張ります。1月から2月にかけては提出した卒業論文に対する口答試問が行われ合否が判定されます。卒業生はこうした難題を乗り越えた自信に満ち溢れています。まさに人生を生きる糧を得たのだと思います」

就職は資格取得を重視

キャリア支援は、進路に活かせる免許や資格の取得を全面的にバックアップ。「教職教育機構は、基礎力向上から現場体験の情報提供や教員採用試験の各種対策を専門的に支援しています」
これらが、高い就職力につながる。平成29年3月の現代家政学部現代家政学科卒業生の就職率は100%。特に、公立幼稚園・保育所に11名、公立小学校教諭が10名採用となり、1期生・2期生に続き、高い就職率を達成した。
「各学科とも将来の職業に直結する資格取得が可能です。また、学生と教職員の距離が近く、一人ひとりの夢の実現のためのサポートも充実しています。食物栄養学科は卒業生を出していませんが、管理栄養士の合格率100%(新卒平均85%)をめざしたい」
地域・社会との連携。「正課外活動の機会を使い、社会人としての基礎力を身につけ、地域社会に貢献できる人材を育てています」。京都府と連携、大学生消防防災サークル「京都FAST」にKFG(Kacho Fire Girls)が加入、広く活動している。京都西川と産学連携プロジェクトでパッケージを考案、販促にも取り組む。

高い卒業時の満足度

卒業時の学生の満足度調査を行っている。「教員との距離が近い」では、43.5%と一般調査(18.1%)を上回り、「どんな能力が身についたか」では、「物事を様々な視点から考える力」や「専門分野の知識技術の習得」、「相手の意見を丁寧に聞く」が一般調査を2倍から3倍近く上回った。
学長の中野は、1954年、福井県生まれ。大正大学大学院博士課程単位取得、文学博士。専攻は日本史学。総本山知恩院顧問、同文化財保存委員長、文科省中教審大学分科会臨時委員や宮中歌会始陪聴者などを歴任、現在も文部科学省大学設置・学校法人審議会特別委員、同学校法人運営調査委員を務める。
大学のこれからを語った。「少子高齢社会を迎え労働力が減少している現在、女性の社会進出は強く求められています。しかし、女性が継続的に働く環境は整っていません。家庭・家族を取り巻く社会状況が大きく変化しているにも関わらず、家政学が従来通りの実践科学にとどまっていることも原因だと思います。
現代家政学の目的である女性が自分自身と家族・家庭の未来を切り拓くための学びを提供し、今後とも、生活者としても職業人としてもその能力を柔軟に発揮して新しい社会を実現できる女性を育成したい」
法然上人の精神で締めくくった。「慈しみと思いやりの気持ちを大切にする人間性を重視し、生きとし生けるすべてのものに感謝でき、人類の福祉と世界の平和に貢献する女性を育むことをめざしています」