特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<238>長崎ウエスレヤン大学
学生一人ひとりをていねいに育てる
ウェスレーの教え受け継ぐ 交換留学制度など充実の国際化
「地域と世界をつなぐ地球市民」の育成を教育理念に掲げる。長崎ウエスレヤン大学(佐藤快信学長、長崎県諫早市)は、1881年に北米メソジスト教会から派遣されたキャロル・S・ロング博士が、長崎市東山手に創立した加伯利英和学校(現在の鎮西学院)が淵源である。鎮西学院創立120年を記念して、2002年に開学した。大学の名称「ウエスレヤン」は、18世紀イギリスで活躍した牧師、社会運動家、ジョン・ウェスレーの教えを受け継ぐ者をさす。現在、現代社会学部(外国語学科、社会福祉学科、経済政策学科)の1学部3学科体制。①キリスト教精神を基にした学び②教員一人あたり学生5人という少人数教育③交換留学制度など充実の国際化などが特長。来年度、社会福祉学科に特別支援教育課程を開設へ。「『個』を大切にし、一人ひとりをていねいに育て、向き合い、一緒に歩む教育をベースとして、学生の自信を引き出す学びを施しています」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
「アデルフォス」を育成
長崎ウエスレヤン大学のシンボルが、ピースチャペル。白亜の建物、壮麗なステンドグラスがキャンパスに映える。「人と人との出会いの場で、毎週行われるピースアワーのほか、クリスマスの点灯式や聖歌隊のコンサートなどのイベントも開催されます」
「ウエスレヤン」について、学長の佐藤が説明した。「ウエスレーの教えは、『人は自分自身を新しくつくり変えることができる』と言うもので、人が使命感をもって生きる秘訣として受け継がれ、世界に広まりました。ウエスレーの流れをくむロング博士は『Boys be Christian Gentlmen(青年よキリスト者紳士たれ)』と唱えて、若者たちを鼓舞激励しました」
建学の精神を続けた。「母体である鎮西学院はキリスト教精神を『敬天愛人』とし、神を敬愛し、隣人に奉仕する人を教育の目標としてきました。この校訓を大学では、さらに発展させ、神を敬愛し隣人愛に生きる『アデルフォス(兄弟姉妹)』を育成することと定めました」
加伯利英和学校は、1906年、鎮西学院と改称。45年8月9日、原爆投下により校舎全壊、教職員・生徒多数を失う。「鎮西学院では、毎年この日に恒久平和を願うとともに犠牲になった方々を覚えるための平和式典を行います。本学の学生や教職員も参列します」
46年、鎮西学院は、校地を諫早市永昌町の海軍病院跡に移して開校。50年、校地を現在地へ移転。66年、鎮西学院短期大学を設立。80年、長崎ウエスレヤン短期大学に改称。
2002年、短期大学を改組し長崎ウエスレヤン大学を設立、短期大学は募集停止。05年、現代社会学部に社会福祉学科、地域づくり学科、国際交流学科を設置。10年、経済政策学科設置。
16年、教育顧問に東京大学名誉教授、姜尚中氏を迎える。18年、姜氏を学院長に選任。「姜先生は、『グローバル化の先頭に立ち、専門職を通じて地域に貢献できる〝現場力〟を備えた人材を育てたい』と述べています。系列の幼稚園から高校、大学まで学院全体を見てもらっています」
学部・学科の学び。現代社会学部は、「グローバルかつローカルな共生社会=福祉コミュニティの実現のため、地球規模の人権の確立と平和の実現及び福祉の向上を目指し、人間開発と社会開発の担い手を養成しています」
経済政策学科(3コース)は、地域密着型の行政・ビジネスの担い手を養成。経済コースは、経済の理論、実態、実務に関する知識を体系的に学び、問題解決能力、企画立案能力を磨く。
経営コースは、経営学の専門的知識・手法と実践的な社会開発から観光や福祉、教育など身近な生活まで学ぶ。地域政策コースは、観光・商業・物流・ICTなど地域活性化から国際協力まで学ぶ。
社会福祉学科(3コース)は、資格取得を重視、豊富な実習活動を経験することで、生きた福祉を学ぶ。医療福祉コースは、病院において療養中の患者の社会復帰を支援する専門職としての医療ソーシャルワーカーを養成。
社会福祉コースは、こどもや高齢者、障害のある人などの相談支援や自立支援を担う専門職としての社会福祉士を養成。精神保健福祉コースは、精神障害のある人の自立支援を担う専門職としての精神保健福祉士を養成。来年度に設置予定の特別支援教育コースは、特別支援学校教諭一種などを取得できる。
外国語学科(4コース)は、高い語学運用能力と総合的なコミュニケーション能力を持つ、多文化共生社会の担い手となる人材を育成。外国語コミュニケーションコース(英語主専攻)は、英語を主に学習・マスターするとともに、同コース(中国語主専攻)は、中国語を主に学習・マスターするとともに、それぞれ基礎的な語学力も身につける。原則、このコースは全員、中国へ留学する。
国際交流コースは、国際交流や社会貢献に関わる国際交流領域を視野にグローバルスタディや異文化コミュニケーションなどを学ぶ。日本語・日本文化コース(留学生対象)は、日本語と日本の社会・文化に関する知識を修得する。
育てるキャリア教育
就職率は、91・5% (2018年度3月卒業生実績)。「育てるキャリア教育を低学年次から行なっています。2年次には必修科目『キャリアデザイン』があり、実践的な就職支援や就職・キャリアに関する相談業務も、有資格の職員が常駐し、幅広く、きめ細やかにサポートをしています」
資格取得にも力を入れる。社会福祉学科では、社会福祉士や精神保健福祉士取得に向け、福祉総合演習など正課内外で特色ある対策講座がある。「平成26年度の国家試験では、現役合格率長崎県内トップの成果をあげました」
教員を志望する学生に向けて特色ある教育課程を編成。「学生が地域と児童生徒をめぐる様々な課題を発見し、課題への対応力を実践的に学ぶことができるようにしています」
グローバル化に傾注。アメリカ、イギリス、中国など10カ国、17大学と連携協定を締結。海外研修・留学制度も多彩だ。「1~2週間の海外スタディツアーから、3週間程度の海外コミュニティサービスプログラムおよびShort Term Language Program、半期または1年のInternational Exchange Programなどのプログラムが揃っています」
海外からの留学生が2割強と大学の規模からすると多い。留学生支援40年の実績で留学生の学生生活をサポート。「大村サテライトキャンパスは、海外の学部卒業生が、N3レベル以上の日本語の取得を目指して学習するとともに、日本特有の経営学を学んでいます」
地域貢献活動も活発だ。地域総合研究所は、地域のシンクタンクとしての機能や、地域連携を担う。建学の精神のもと地域に対する貢献活動を単位認定している「単位認定の授業は、コミュニティサービス科目として、10項目以上のプログラムによって実施されています」
小規模大のメリットを
大学のこれから。「高校生や保護者らステークホルダーの求めているものに、小さな大学のメリットを活かして応えていきたい。そのためにも、教職員は、個々の学生の満足度・教育研究の質を高める自覚をもち、学生の可能性を最大限に引き出すべく研修を強化しています。(18歳人口の減少には?)アジアと九州をターゲットとする新たな学生募集モデルを構築し、潜在能力のある学生を獲得することで、入学者を安定的に確保することも視野に入れています」
こう結んだ。「地域とともにある大学をめざしています。地域の中小企業家同友会と連携、経営者と学生がディスカッションする機会もつくっています。保護者、地域、大学が一体となって教育に取り組む体制をつくり、さらなる地域密着型の大学を実現させたい」