特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<231>岐阜女子大学
地元就職率高く、地域発展に寄与
デジタルアーカイブに傾注 高い国家試験の合格率
「人らしく、女らしく、あなたらしく、あなたならでは」が建学の精神。岐阜女子大学(松川禮子学長、岐阜市)は、県下初の女子大学として1968年に開学、昨年、開学50周年を迎えた。これまで、豊かな人間性と高い専門力を育くんだ卒業生を社会に送り出してきた。地元就職率が81%(2017年度)と高く、地域の発展に寄与してきた。①管理栄養士や建築士を始め各資格の高い合格率②文部科学省の私立大学研究ブランディング事業に採択されるなど教育研究の質の高さ③地域に根差した地域貢献活動などが特長。沖縄女子短期大学と連携し沖縄サテライト校を設置、岐阜キャンパスと双方向のテレビ授業も実施。「大学を取り巻く社会状況は、日々、変化しており、高い教育力、特色ある研究など、大学の独自色を打ち出すことがより重要。女子大の特色を出し、小さな大学の良さを活かして、女子の力を伸ばしたい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)
沖縄にサテライト校設置
キャンパスは、緑豊かな自然のなかにあり教育環境は、学びの園にふさわしい。構内に学生寮が2棟あり約150人の学生が入寮。校内に入ると、学生が笑顔で挨拶する。「学生たちの礼儀の良さは、訪問者から誉められています」と松川。
岐阜女子大学は、1968年、家政学部家政学科の1学部1学科で設立された。70年、文学部(英文学科、国文学科)を設置。76年、家政学部に住居学科を増設。87年、文学部に日本語教員養成コース増設。
95年、大学院修士課程(文学研究科日本語日本文学専攻、英語英米文学専攻)開設。99年、文学部に観光文化学科増設。2001年、文学部に文化情報メディア学科(文化メディア専攻、書法メディア専攻)増設。04年、大学院修士課程に生活科学研究科(生活科学専攻)開設。
05年、家政学部を健康栄養学科、生活科学科の2学科に。文学部を文化創造学部に変え、文化創造学科を開設。15年、「デジタルアーカイブ研究所」を開設。「前学長の後藤忠彦先生が、教育工学(コンピュータを使った教育)が専門で、研究所を設けて教育研究面で大きな改革をなされました」
私大研究ブランディング事業に採択されたのは、地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための基盤整備事業。「本学独自で育んできたデジタルアーカイブ研究を活用し、地域資源のデジタルアーカイブ化とその展開によって、伝統文化産業の活性化などの地域課題の実践的な解決や新しい文化を創造できる人材育成を行い、地域の知の拠点となる大学を目指すものです」
ポートフォリオもデジタル化して授業にも活用している。「学生はタブレットを使い、専攻の主要科目や学びの履歴がわかります。卒論に活用したり、住居学専攻の学生は、建物の設計から組み立てまで画像を利用して作っています」
現在、家政学部、文化創造学部の2学部3学科に約1000人の学生が学ぶ。出身地は、岐阜が321人(30%)で、静岡131人、沖縄108人と続く。富山、愛知、長野からも来ている。
松川は、東大教育学部卒、岐阜大学教授(教育学部)を30年間務め、岐阜県教育長を経て昨年4月に岐阜女子大学長に就任。岐阜女子大の教育を語った。
「教育方針は、建学の精神、教育目標に基づいて、高い専門性を持つ職業人として社会に貢献できる確かな力をつけ、地元で希望を持ち生活が出来る人材の育成を目指しています。社会を生き抜くための力と豊かな人間性の育成が教育の基本方針です」
こうした教育方針は、成果を上げている。「全国の高校の進路指導教諭が評価する大学」(大学通信)の調査では、「入学後、生徒を伸ばしてくれる女子大学」でずっと全国の女子大の上位にあり、2017年は1位になった。
2学部の学び。家政学部は、健康栄養学科と生活科学科(生活科学専攻、住居学専攻)の2学科2専攻。健康栄養学科は、管理栄養士を養成、国家試験の合格率は高い。生活科学科は、1級建築士、2級建築士、インテリアコーディネーターなどをめざす。
「即戦力、実践力のある学生育成のため、授業内外で多くの体験型学習を取り入れています。健康栄養学科の食品開発クラスでは、グループごとに商品を考案し、販売促進のプレゼンまでを体験。管理栄養士だからこそできる食品開発を行っています」
住居学専攻では新しい建物の建設やリフォーム等を設計から建設まで体験する「建築工事プロジェクト」や、地域から委託された「空き家のリノベーション提案」なども行っている。開学以来、1級建築士が100人以上誕生している。
文化創造学部は文化創造学科の1学科、初等教育学専攻(子ども発達専修、学校教育専修)、文化創造学専攻(書道・国語専修、観光・英語専修)、デジタルアーカイブ専攻の3専攻で構成。
初等教育学専攻は、一人ひとりの子どもに日本の文化の基礎である教育内容を施せる人材育成をめざす。「主専門と副専門を自由に履修出来ます。小中高の複数免許取得者が94%います」
文化創造学専攻では、多様な文化創造活動を支える専門的で実践力を持つ人材を育成。「書道専修は、全国から高校の書道教師をめざす学生が集まります。日展の入選者は毎年出ており、入学式などの書道パフォーマンスは見事です」
デジタルアーカイブ専攻は、デジタル・ネットワーク時代における知識基盤社会を支え、文化の保存・継承・発展を担う人材を育成。「デジタルアーキビスト、図書館司書、博物館学芸員などの取得を目指しています」
望む分野への就職実現
就職力。2018年度の就職希望者の就職率は99%。1年次からスタートする就職支援プログラム、充実した資格取得支援により、望む分野への就職を全面的にバックアップ。
「学生一人ひとりに教員によるアドバイザーがついて教育生活面から就職まで相談にのっています。就職はキャリア支援センターとアドバイザーが一緒になって支援しています。就職率は、職場を選別しなければ100%です」
特長は、何といっても地元就職率の高さ。「学生の約7割が県外出身ですが、卒業後は地元に帰り、学んだことを活かせる分野での就職を希望する学生が大半。もちろん、岐阜県出身者は、多くが岐阜に残ります」
国家試験の高い合格率。「女性が社会の中で活躍するために資格取得は極めて重要です。資格取得のための教育課程を設置するなど積極的に支援しています」
専攻ごとに地元とコラボ
活発な地域貢献活動。専攻ごとに様ざまな地域貢献活動を行う。「観光・英語専修は、地元の鉄道のイベントを企画し、英語パンフを作成、デジタルアーカイブ専攻は写真で、健康栄養学科は料理で地元とコラボしています」
家政学部住居学専攻は、各務原市の空き家リノベーションに参加。築55年という古い2Kの木造住宅を現代的な1LDKに変えた。「実際に市場に流通している物件のリノベーションを行い、賃貸物件として活用されるという経験は、学生にとっても貴重なものでした」
共学化は、これまでも考えたことがないという。「共学の大学は、男性がリーダーになりますが、本学では、女性がリーダーシップを発揮して豊かな人間力やコミュニケーション力を育てています。寮生が多いことや騎馬戦もやるスポーツ祭などが後押ししています。私としては、少数派になりつつある女子大の魅力と現代的意味を、これからも探っていきたい」
小さな大学の良さ活かす
大学のこれから。「小さな大学です。ここにしかない、きらりと光る特色をいくつか持たせていきたい」。具体的には?「学生に寄り添って丁寧な教育を施していきたい。出口の就職では、これまでも1級建築士、管理栄養士など、しっかりと資格を取ってきました。今後とも、学生一人ひとり、どういう専門職が適しているかを見極めながら育てていきたい」。女子大の特色、小さな大学のよさ、女子の力、を繰り返し語るのだった。