特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<230>相愛大学
少人数制の丁寧な教育施す
学生主体の地域社会貢献 個々の可能性を伸ばす
昨年、学園創立130周年を迎え、芸術文化・教育・生活を支える人材を育てている。相愛大学(金児曉嗣学長、大阪市住之江区南港中)の建学の精神は、「當相敬愛(とうそうきょうあい)」。宗祖親鸞が開いた浄土真宗がよりどころとする「仏説無量壽経」にある。自分は多くの他者によって生かされていることを知り、自分を愛するように他者を敬愛することの尊さを説いたもの。相愛中学校・高校の併設校があり、龍谷大学や京都女子大等と同じく、龍谷総合学園の宗門校。歴史と伝統を背景に、学生は、落ち着きある環境で深く広く学んでいる。私立大学屈指のパイプオルガンを設置するなど施設や設備が充実している。①少人数制による丁寧な教育②可能性を広げるフレキシブルなカリキュラム③学生主体で実施する地域・社会貢献活動などが特長。「130年の歴史と伝統を生かし、社会人に求められる基礎的な能力と豊かな教養、幅広い視野を養いながら、一人ひとりの可能性を伸ばします」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
建学の精神は「當相敬愛」
キャンパスは大阪ベイエリアの中心地。ニュートラムのポートタウン東駅から徒歩約3分。海と緑に囲まれた穏やかな学習環境。学内には、クラシックなどの音楽の演奏をメインとしたコンサートホール兼講堂「南港ホール」がある。
図書館には、「春曙文庫」。枕草子の「春は曙...」にちなんで、命名。「平安朝文学とりわけ枕草子研究の権威、故田中重太郎先生の旧蔵書を核に本学図書館所蔵の古典を集めました。春と秋に、内容をかえて定期展示を行っています」
相愛大学は、1888年、大阪市本町(現・相愛中学校・高校所在地)の本願寺津村別院の境内地に創立された相愛女学校が淵源。「浄土真宗本願寺派21代宗主の明如上人が設立、明如の妹の大谷朴子が初代校長を務めました」
1906年、相愛高等女学校に改称。11年、浄土真宗本願寺派本願寺直轄校となる。「相愛高等女学校で学んだ著名人には、作家の山崎豊子さん、随筆家の岡部伊都子さん(中退)らがいます」
47年、相愛中学校、50年、相愛女子短期大学をそれぞれ設立、55年、「子供の音楽教室」を開設。58年、相愛女子大学が音楽学部の1学部で開校。「山田耕筰を初代学部長に、齋藤秀雄、吉田秀和、團伊玖磨らを教授陣に迎え設置。その後、「子供の音楽教室」は名称を相愛音楽教室と改め、現在もソルフェージュ、実技などの教育を行っています」
82年、相愛女子大学を現在の相愛大学に校名変更、音楽学部を男女共学化に。83年、大学・短期大学を現在の南港に移転した。
84年、大学に人文学部設置。99年、大学に音楽専攻科設置。2000年、人文学部男女共学化、人間心理学科・現代社会学科を増設。音楽学部3学科を音楽学科に統合。
06年、短期大学を廃止し、人間発達学部を設置、現在の3学部体制に。13年、人文学部の学科を人文学科(6専攻制)に統合・改組。18年、大学院音楽研究科修士課程を開設。
現在、音楽学部(音楽学科)、人文学部(人文学科)、人間発達学部(子ども発達、発達栄養学科)、音楽研究科の3学部4学科と1研究科に1212人の学生が学ぶ。男女比は男子33%、女子67%。出身地は、大阪を中心に関西地区が大半、留学生が中国163人、ベトナム45人など217人。
金児は建学の精神を「愛」から語り出した。「京都大学文学部の学生時代、鰺坂二夫教授は講義の中で、有島武郎が心中したのは『愛は惜しみなく奪う』としたからであって、本来『惜しむなく愛は与う』ものでなければならないと語り、それぞれ共感を覚えました。後年、有島の説の正しさに気づきました。親鸞は愛の欺瞞性を言いましたが、建学の精神の『當相敬愛』の言葉の中には、相手を敬う心が前提としてあってこそ愛は成り立つ、そう思っています」
こう続けた。「當相敬愛の精神は、長い歴史のなかでも変わることなく市民とのつながりを保ち、都市の中に生きる学府として相愛に深く根づいています。建学の精神を単なる言葉のシンボルに終わらせることなく、各学部の理念に一貫して反映されています」。こんな風に。
音楽学部は、「當相敬愛の精神に根ざした豊かな感性を育み、深く専門の学芸を教授研究し、知的、応用的能力を展開させ、真に社会に貢献できる人材を育てる」。3コース、10専攻あり、音楽家をめざすだけでなく、音楽業界への就職を支援する。
人文学部は、「建学の精神に立脚し、歴史にみられる人間の過去の姿、思考法や心理、人間社会の現状と課題をそれぞれ探究する人文諸科学の学習を通じて、豊かな人間性と共生社会実現への意欲を持った人材の育成をめざす」。6専攻あり、資格取得も重視、幅広い知識とスキルを身につけた社会人をめざす。
人間発達学部は、「當相敬愛の精神のもとに、人間の成長・発達とその支援に関して、真摯に教育と研究を行い、心身の発達支援を直接に担い得る有能な人材を育成」。そして子ども発達学科は、保育士、幼稚園・小学校教諭、発達栄養学科は、管理栄養士をめざす。管理栄養士の国家試験合格率は94・7%と高い。
少人数教育。小規模大学の特長を生かし学生と教員のコミュニケーションをより図る。「1、2年生次からきめ細かな指導を重視、授業も双方向型授業を取り入れています。音楽学科の実技科目は1対1の個人レッスンが基本です」
フレキシブルなカリキュラム。あらゆる学びの基礎となる「共通教育科目」、専門的な知識・技術を深める「専門科目」、学部・学科に関係なく履修できる「自由選択科目」の3つの科目群で構成。
「目的や興味に応じて自由に組み合わせて履修できるのが最大の特長。今年度から全学共通の共通教育科目を改編、『當相敬愛と浄土真宗』など建学の精神を具現化するための基礎科目を設けました」
地域貢献活動。「学生主体で活動して実践力を養います。企画から運営までを行うプロジェクトを実施。学生が成長するための大きなステップとなります」
音楽学部の学生等による地域貢献活動は、年間50回にもわたる演奏会などを実施。人文学科の「学生主体プロジェクト」は、「大阪の文化を応援したい」とスタート。発達栄養学科の「商品開発プロジェクト」は、学生が企業と共同してスイーツや弁当を開発・販売する。
就職力。大学全体では97%だが、学部によって若干異なる。「学生支援センターが提供する支援プログラムに加え、音楽学科の『音楽の仕事大研究』や人文学科の『プレゼンテーション演習』など学科が独自に行うキャリア支援科目や講座もあります」
グローバル化。留学生受け入れでは、国際交流部を設置、正規の科目とは別に、日本語の習得を促す特別なカリキュラムを用意。また、世界の人々や文化に触れて社会が求めるグローバルな視野を養う国際交流プログラムも用意している。
「音楽学科では、提携大学の教授陣による2週間のレッスンで、修了演奏会で修了証(ディプロマ)が授与される夏期講習やミラノ―G・ヴェルディ音楽院など学術交流協定校への短期派遣留学制度があります」
大学のこれから。現状から話し出した。「今年度の受験者数は、大学全体では25%増で、人文学部は46%増。人間発達学部は前年並み、音楽学部は前年比減で、音楽学部はクラシック離れもあり、厳しい状況が続いています」
音楽学部は改革に着手。「教員と学生の就職に対する意識を変えるべく、音楽キャリアデザインの科目を設置。教員が卒業生も交えて経歴等を話すなど出口に対する意識を強化、音楽を使いながら仕事する一般企業への就職の道を広げたい」
18歳人口の減少=大学生き残りにどう対処するのか。「第2次将来構想に明記した学生募集につながる広報戦略と明確な教育内容の発信、相愛ブランドの定着化、安定した財務基盤の確立を実現したい。具体的には、教育の質を高めるカリキュラム改革、地域社会との連携の強化などを行っていきたい」
こう結んだ。「私学には死守すべき生命線があります。それは、時代が変化しても変わらない普遍的な教育の役割、それは建学の精神であり、その具現化です。『當相敬愛』は、2500年もの長きにわたり人々を導いてきた真理なのです」。相愛大学にとって、宗祖親鸞聖人の教えを基調とした宗教的情操教育こそが生命線なのだ。