特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<225>名古屋音楽大学
体系的に幅広く音楽を学ぶ
レッスン教員を自由に選択 地域に良質な音楽提供
レッスン教員の自由選択制、メジャー・マイナー制の導入などで、体系的に履修し、幅広く音楽を学ぶ。名古屋音楽大学(佐藤惠子学長、名古屋市中村区)は、1965年に中部唯一の芸術系短期大学として開学した名古屋音楽短期大学が淵源である。76年に四年制大学に移行、87年に大学院を開設。現在、音楽学部15コース、大学院音楽研究科4専攻を有する音楽総合大学へと発展した。年に十数回の大学主催演奏会を開催するなど盛んな演奏活動や秋の一週間にわたる「めいおん音楽祭」など音楽を通した地域貢献活動も活発。「本学の特色は、コンパクトで自由で明るく創造性あふれる開かれた学風にあります。開放的で先進的な様々な取り組みを行っています。学生は、専攻の枠を越えて音楽の多様なジャンルを学んでいます」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
建学の精神 「共なるいのちを生きる」
建学の精神は、親鸞聖人の同朋和敬の精神である「共なるいのちを生きる(Living Together in Diversity)」。お互いの差異を認めながら、協同して生きるという意。名古屋音楽大学の設置母体である学校法人同朋学園の建学の精神でもある。学長の佐藤が説明する。
「本学の個性は、多様な学生たちの多様なニーズに応える態勢にあり、これは、建学の精神に基づくものです。自分の個性、主体性を見失うことなく、しかも他者と共に生きるということです。本学に入学し、音楽を愛する人たちと出会うことで、それぞれの音楽を大切にしながら、一人ひとりの可能性を伸ばすことに傾注しています」
名古屋音楽大学の前身である名古屋音楽短期大学(音楽科)は1965年に開学。67年、専攻科を設置。76年、名古屋音楽大学が開学、音楽学部に器楽学科、声楽学科、作曲学科、音楽教育学科を設置。
87年、大学院音楽研究科を設置、全国の私立音楽大学で4番目だった。2000年、声楽学科に歌曲とオペラコース、作曲学科にコンピュータミュージックと電子オルガン専攻を設置。セメスター制による新カリキュラムを実施。
「セメスター制により、学生が主体的に組み立てられる科目を数多く設けており、バラエティーに富んだカリキュラムを履修できます。中学高校の音楽教員や音楽療法士などの資格取得に向けた科目を設けています」
時代に合わせ、学科の再編を行ってきた。2003年、器楽学科に邦楽専攻(箏・三味線・尺八)、声楽学科に舞踊・演劇専攻、音楽学科に音楽療法専攻をそれぞれ設置。音楽学部で社会人入学、社会人編入学をスタート。
05年、ジャズ専攻を設置。07年、1学科16コースに改組(音楽総合コース、音楽ビジネスコースを設置)。名古屋音楽大学附属音楽アカデミーを開設。11年、コンピュータミュージックコースを映像音楽コースに再編。
15年、ピアノ演奏家コースを設置。「ピアノの演奏家として自立できるように基礎技術から学び、ソリストとしてだけではなく、アンサンブル能力、作品分析等、多角的な視点からの音楽観を養い、最終的に高度なピアノ演奏表現能力を身につけることが目標です」
17年、作曲コース、映像音楽コースを作曲・音楽クリエイションコースに再編。現在、邦楽、舞踊・演劇・ミュージカル、ジャズ・ポピュラー、音楽療法、音楽ビジネス、映像音楽などの新しいニーズに応える分野を含む15コースがある。
「他の音楽大学に比べて個性的なことは、15のコースが孤立せず、相互に積極的に関わり合い、創造的なコラボレーションを展開している点です。15のコースはそれぞれの領域を究めつつ、音楽という共通性を根拠に、相互の違いを前提に領域を乗り越えて、積極的にコラボを行っています」
現在、446人の学生が学ぶ。男子が22%、女子が78%と女子が多い。出身地は、愛知、岐阜、三重の東海3県が圧倒的に多い。
幅広く音楽を学ぶ。「レッスン教員は、入学時に、どの先生につきたいか、と聞いてから決めます。4年間で1度、変えていいことになっています。メジャー・マイナー制の導入により、自分が在籍しているコースとは別の専攻をマイナー(副専攻)として履修できます」
盛んな演奏活動。学部4年次生による定期演奏会や卒業演奏会、大学院生による学内リサイタル、学部3年次生による学内演奏会を開催。「各学期末には、オーケストラやミュージカル、管楽アンサンブル、各専攻楽器などによる演奏会が、本学が有する3つのホールなどを会場として行われています」
年間50回を数える『めいおん出張コンサート』にも取り組み、地域社会に良質の音楽を提供している。
「めいおん音楽祭」は、学生の手作りで、学内外で30を越える演奏会・イベントを行う。「名古屋市演劇練習館(アクテノン)との連携による野外コンサートやワークショップも開催され、多くの来場者があります」
就職支援は、キャリア支援センターが担う。1~2年次生に対し、充実した大学生活の過ごし方や自己理解を深めるための働きかけを行う。3~4年次生には、ガイダンスや個別面談、対策講座等を実施し、進路選択を行うための支援をしている。
就職率は98・5%。音楽の教職課程(中学・高校)を受講している学生のために「吹奏楽指導者養成プログラム」等で支援。「7割の学生が音楽の先生を希望していますが、少子化もあり狭き門で、教員になるのは16%」。小学校教諭も佛教大学通信課程特別科目等履修生として取得できる。
地域連携は活発。名古屋音楽大学附属音楽アカデミーは、大学施設を開放して、実技レッスンおよび音楽教室を開く。「幼児から高齢者まで200人を越える受講生が、月に3回のレッスンおよび講座に参加。受講生の増加により、土曜日のみの開講であったのを、2014年度から土日開講としています」
2013年度には、名古屋市文化振興事業団と、15年度には、あま市・津島市と連携協定を締結。「地元の中村区との連携では、『なかむら音楽会』などに取り組んでいます」
佐藤は、奨学金を得て5年近くドイツに留学。「当初は言葉に苦労しましたが、学生として、ピアニストとして、ピアノ講師として充実の日々を過ごしました。若さ故に困難を困難と感じる事も少なく、何事にもチャレンジした毎日でした」
この体験もありグローバル化に意欲を見せる。「言葉が通じなくても、音楽が言葉なのです。スペイン、台湾の音楽大学と提携を結んでいます。中国からは留学生が11人来ており、中国の大学とダブルディグリーができないか、検討しています。少子化を迎え、グローバル化には力を入れていきたい」
2020年度から入試改革を断行する。「大学入試センター試験を利用する入試を導入。音楽教育、音楽療法、音楽ビジネスの3コースは、実技試験を課さず、5教科の中より高得点の2科目で判定、センター試験の過年度の成績(平成29年度から31年度)も利用できます」
大学のこれから。「教職協働で学生の質、教育の質を高めたい。それには、教員は自身の研究に勤しみ、学生の人生の師として、彼等の人生のプランナーであると共に支えるサポーターであってほしい。職員は学生・教員を支えるサポーターであって欲しい。地域連携は教職学の3者で取り組んでいきたい」
こう結んだ。「学長に就任して以来、在学生、卒業生の為に、学長の重責を担う覚悟でやってきました。今後とも、今以上に専門性の高い音楽家を育て、『演奏できる学生達のいる大学』『演奏を大切にしている大学』『面倒見の良い大学』として名古屋音楽大学をさらに発展させていきたい」。目を輝かせながら、笑顔で語った。