特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<223>山口学芸大学
「先生になる」同じ夢の学生集う
専門知識と教育力養う 教員採用で高い合格率
目指す進路に合わせ教員・保育職の免許・資格を取得できる。山口学芸大学(三池秀敏学長、山口市)は、2007年、前身の山口芸術短期大学を基盤に、教育者・保育者の養成を目的とした単科大学として開学した。現在、教育学部教育学科(初等幼児教育専攻と中等教育専攻)の1学部1学科2専攻。郷土の先覚者・吉田松陰が説く「至誠」の心を軸に、新しい時代に対応できる高度な専門知識と教育力を併せ持った教育者・保育者の養成を目指している。①「先生になる」という同じ夢をもつ学生が集う"チーム学芸"の伝統②保・幼・小・中高(英語)・特別支援学校の免許・資格取得が可能③小学校・保育職採用試験において、1期生から続く高い合格実績―が特長。「小規模大学の特性を活かし、一人ひとりの個性をしっかり把握し、顔の見えるきめ細やかな指導体制で、夢の実現をサポートしたい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
建学理念『至誠』 芸術を基盤とする教育
キャンパスは、JR山口線上郷駅から歩いて約8分の小高い丘の上にある。2017年に新校舎が全て完成。2018年秋には図書館がリニューアル、アクティブラーニングスペースやグルーブ学習室等を設け、学びの環境は充実している。
山口学芸大学の淵源は、1968年に開学した山口芸術短期大学(音楽科、生活芸術科)である。74年、幼児教育科を開設。99年、幼児教育科を保育学科に名称変更。03年、専攻科幼児教育専攻を開設。
同短期大学は、初代理事長の二木謙吾が明治維新100年を記念して、全国でも数少ない芸術系短期大学として開学した。学長の三池が開学について語る。
「二木先生は、吉田松陰が説く『至誠』の心を軸に、芸術を通して豊かな教養と感性を身につけた人材を育成すると共に、地域社会の発展に寄与することを目的としました。この精神は現在も受け継がれています」
山口学芸大学は、07年、教育学部子ども教育学科の1学部1学科で開学。11年、山口学芸大学大学院(教育学研究科子ども教育専攻)を開設。16年、子ども教育学科を教育学科に名称変更、めざす進路に合わせて初等幼児教育専攻と中等教育専攻の2専攻とした。
現在、348人の学生が学ぶ。山口県内が234人と圧倒的で、県外が中国地方、九州、沖縄など55人。男女別では、男子が25%、女子が75%と女子が多い。
三池が大学を語る。「建学の理念『至誠』は、教育がなされるにあたっての基本的な志を規定したものです。子どもの教育・保育に携わることを目指している学生にとっては根幹とすべき精神といえます。この建学の理念のもと、『芸術を基盤とする教育』を通して芸術を愛し、人間性豊かな、格調高い人格の形成をめざしています」
学生について続けた。「1年次から地域の連携した小学校の現場に立ち児童と向き合います。2年になると、保育所や小中学校での実習と、子どもたちと接する機会が多くなります。3年次の中頃には、自分がどの世代の子どものそばに立ち、何を中心に学べばいいか、主体性が出ます。大半の学生が教員の道に進みます」
教育学部教育学科の学びには、3つの特色がある。1つめは、複数の免許・資格を取得することで、教育の専門性を高める。「小学校教員をめざす人は、履修の仕方によっては、同時に3つの資格・免許の取得も可能。保育職に就くためには、幼稚園の免許と保育士資格の両方を取っておくことが必須です」
また、特別支援学校教諭一種免許状を取得できる。「特別支援学校だけでなく幼稚園や小学校に在籍するLD、ADHD、自閉症等の発達に偏りのある幼児児童への指導や支援を自信をもって担うことができます」
2つめは、芸術を基盤とするカリキュラム。芸術は感性を刺激し、感動を呼び起し、心身の能動的な活動を促す。芸術を通して修得した「表現する力」は、教育・保育の現場で「伝える力」「創造する力」となって子どもたちの育ちを支える。
「系列の山口芸術短期大学が同じキャンパス内にあり、短大が有する芸術に特化した専用教室をそのまま利用することができます。充実した環境で、本学が基盤とする芸術系科目を学び、豊かな感性や表現力を育んでいきます」
3つめは、一人ひとりの顔が見える細やかな指導。学生と教員との心のふれ合いを大切にした教育を重視し、チューター制を導入。修学上の問題、交友関係、進路選択など大学生活全般にわたってサポートしている。
「1学年定員70名という小規模で、その全員が先生をめざす本学の特性を活かし、学生個々の目標に合わせたきめ細かな指導を行っています。チューター制は、専任教員が1、3年生の10人前後の学生をチューターとして担当。4年生は卒論指導担当者が担います」
"チーム学芸"の伝統
特長である"チーム学芸"の伝統。「先生になるために入学した学生が大半です。互いに競い、高め、支え合いながら学びに専念できる環境が整っています。学生たちは、仲間同士、チーム一丸となって採用試験突破をめざします。採用試験合格に向けた自主的なグループ勉強会は本学の伝統です。父兄と進路相談会を開くなど家庭との連携も取っています」
学びの対象は、乳幼児から高校生まで。めざす進路に合わせて保育士資格から幼稚園、小学校、中学校、高等学校までの各種教員免許を選択的に取得できる。カリキュラムは、複数の免許取得を可能にした編成をしている。
「教育現場で重視されている特別支援学校教諭の免許も取得することができます。そこで、教育の専門性を一層高め、あらゆる状況の子どもに対応可能な教育・保育のスペシャリストを養成します」
小学校・保育職採用試験で、1期生から続く高い合格実績。開学以来、500人を超える卒業生のうち、約8割が教育・保育の専門職へ就職。「先生になるなら学芸、という社会的な認知と評価を受けるまでになりました」
2019年度公立小学校教員採用試験においても、44人中35人(延べ38人)が合格し、現役合格率は過去最高の79.5%。これで、4年連続で7割を超えるという抜群の現役合格率を維持している。
保育職でも、開学以来100%の就職率を保っており、今年度も希望者20人全員の進路が決定。難関とされる公立保育所・幼稚園の採用試験でも、8人中7人(延べ9人)が夢を叶えた。
英語教育にも尽力
英語教育にも力を入れる。2020年から小学校5、6年で「英語」が教科化されることに伴い、「英語をきちんと教えられる先生」の育成をめざす。
「子どもたちにしっかりと英語を教えることのできる教員が求められています。英語力と指導力を合わせ持った小学校・中学校・高等学校教員をはじめ、グローバル時代に対応した保育者を養成します」
地域貢献活動の一翼は、教育・保育支援センターが担う。地域の子育てに関わる支援の場で、教員を対象に講習や研修、相談援助などを行っている。「地元の上郷小学校とは、2年生の必修科目『子ども実地研究』の一環として学生と児童が交流会を続けています」
大学のこれから。これまで、入学志願者は右肩上がりで、公立教員採用試験の合格率も堅調で、「卒業率は98.6%と高く、退学者は0%と4年間の修学、就職指導は適切になされています」と述べながら少子化には危機感を持つ。
不断ない改革を力説
「山口県の教員採用数をみても、5年後は確実に減ります。順調に進んでいる時こそ、いち早く手を打つべきだと思います。5、6年先を見据えて英語や情報教育などの強化を検討しています」
こう結んだ。「本学のバックボーンである建学の精神に基づく特色ある教育者・保育者の養成をきちんと抑え、さらなる拡大をめざしたい」。三池は、不断ない改革を強調するのだった。