特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<222>大手前大学
地域に根差し、地域に貢献
少人数教育で中間人材育成 国内初、国際看護学部設置
少人数教育で学生の学びを支援、地域に根差し地域に貢献する中間人材の育成を目指す。大手前大学(鳥越皓之学長、兵庫県西宮市)は、1946年に創設された大手前文化学院が淵源で、2000年に大手前大学に改称、男女共学制に移行。16年に健康栄養学部を設置。19年に設置した国際看護学部は、国内初で、グローバル化が進む国内の医療現場で活躍できる看護師を育成。現在、5学部からなり、さくら夙川(西宮市)、いたみ稲野(伊丹市)、大阪大手前の3キャンパスがある。「レイトスペシャライゼ―ション」を導入、従来の学部を超えて科目が学べる。①知識偏重型教育から能力開発型教育への転換をはかるC-PLATS®能力開発教育②世界で必要な英語コミュニケーション力を身につける実践英語プログラム③eラーニングを活用した授業―などが特長。「一人ひとりの伸びしろに着目した『Face to Face(学生の顔がわかる学長)』の教育を施しています」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
建学の精神 STUDY FOR LIFE
建学の精神は、「STUDY FOR LIFE(生涯にわたる、人生のための学び)」。学長の鳥越が説明する。「2006年の学園創立60周年を機に、『情操豊かな女子教育』という建学の精神を踏まえつつ、当初から標榜してきた"STUDY FOR LIFE"というモットーを、高等教育機関として発展・進化していこうと新たな建学の精神と定めました」
大手前大学の前身である大手前文化学院は、創設者の藤井健造が大阪城近くの大阪・大手前に1946年に設立。「今後、戦争のない社会を作るための女子教育が必要になる。情操豊かな女性を育てたい」という思いからだった。
51年に大手前女子短期大学が開学。66年、西宮市夙川に大手前女子大学(文学部英文学科、哲学科)が開学。86年、大手前女子短期大学が伊丹市へ移転。2000年、大手前女子大学を大手前大学に改称し、男女共学化。文学部を人文科学部に名称変更。社会文化学部(人間環境学科、社会情報学科)を設置した。
04年、大手前女子短期大学を大手前短期大学に改称・改組し男女共学化。05年、大学の人文科学部美術学科をメディア・芸術学科に、大学の社会文化学部社会情報学科をキャリアデザイン学科に改称。
07年、総合文化学部(総合文化学科)、メディア・芸術学部(メディア・芸術学科)、現代社会学部(現代社会学科)を設置。12年、大学の人文科学部メディア・芸術学科、交流文化学科と社会文化学部(人間環境学科、キャリアデザイン学科)を廃止。東京サテライトキャンパスを台東区上野に設置。
14年、人文科学部を廃止。16年、健康栄養学部管理栄養学科を設置。19年に設置した国際看護学部の狙いについて聞いた。
「今までの看護は日本人に対して行うという前提で考えられてきました。しかし、グローバル化とは遠い海外の話ではありません。日本の多様化する医療現場では、もうすでに看護師がグローバルな視点で対象者と向き合い、相手に寄り添うスキルが求められています」
現代社会では世界のさまざまな地域に暮らす人々が国境を越えて行き来している。それに伴い、日本の医療現場でも定住外国人や訪日外国人が増えている。大阪や神戸が典型的だという。
「グローバル人材としての看護師が、今後ますます必要とされています。そうしたグローバル化がすすむ国内医療のニーズにいち早く対応できる英語の話すことができる看護の人材を育てたい」
現在、総合文化学部、メディア・芸術学部、現代社会学部、健康栄養学部、国際看護学部の5学部に2470人の学生が学ぶ。男女比は、男子45%、女子55%。通信教育課程(現代社会学部)では1697人が学んでいる。
鳥越が大学を語る。「少人数教育によるリベラル・アーツの学びと資格取得を重視した実践性で学生一人ひとりをサポートしています。また、地域の社会人が学生の学びをサポートする教育ボランティアや学生の地元企業への就職を支援する西宮市大学連携課との連携で、地域社会から支えられる大学を目指しています」
こう続けた。「学長を議長とする全学部合同の教授会を、オブザーバーとして課長級以上の職員、理事長も同席で月1回開催。経営サイドと教学サイドが連携して教学改革を推進、全学的な理念の共有を実現しています」
学部を超えた学びの「レイトスペシャライゼーション」は、1 年生の春学期と秋学期で、さまざまな科目の履修が可能。2年生がスタートするまでに自分の進路を考え、専攻を決められる。所属学部以外の専攻プログラムを主専攻(メジャー)として卒業する場合には、当該学部へ転部が必要となる。
「自由に選んで学び幅広い教養を身につけます。そして、自分の目標や関心を絞り込み、高い専門性を追究します。そのプロセスの中で、社会人としての基礎力も修得していきます」
学びの特長である「C-PLATS®能力開発教育」は、社会人基礎力養成のために涵養すべき能力を、「3つの能力基盤」と問題解決力を頂点とする「10のコンピテンシー」を体系化した「C-PLATS®能力体系」を構築。知識偏重型教育から能力開発型教育への転換をはかっている。
「学生自身による、年度初めの能力到達目標の設定と年度末における到達レベルの自己評価を取り入れることにより、困難な問題に立ち向かい、その問題を解決してミッションを達成する能力と強い意志をもった人材を養成します」
「実践英語プログラム」は、▽英語で英語を学ぶプログラム」(Language Education of Otemae)▽「グローバル日本学プログラム」(Global Japan Studies)▽「英語でキャリアを学ぶ」(Global Carrier Studies)を開設。「英語が苦手な人から得意な人まで、レベルに応じて英語を学び、グローバル人材を育成します」
「eラーニングによる授業」は、オリジナル教材で自主的かつ自律的な学修を実現している。これらの科目は教室での授業を行わず、すべてパソコンとインターネットを用いて動画等を視聴して学修する。
「自宅や学外からもアクセスでき、ライフスタイルに合わせた学修が可能です。教材は、教室での授業をビデオ撮りしたものではなく、教育工学に基づいて設計制作されたオリジナル。繰り返し学修することで理解を深めています」
こうした独自のプログラムや教育メソッドにより、定員充足率は、6年間連続(78%→81%→90%→99%→110%→120%)で改善している。就職力についても年を追うように強まっている。就職率は97.1%(2017年度)。
「学生の間に自分としっかり向き合いなりたい自分を見つける『リーダーシップ開発プログラム』をはじめ、『C-PLATS®』や『実践英語プログラム』など4年間の学びがキャリアにつながる仕組みが就職にも活きています」
地域貢献活動では、「野外アートフェスティバル in にしのみや」への参画▽神戸市長田区の「KOBEぽっぷカルチャーセッション」への参加▽希少糖スイーツ公開講座(松谷化学工業株式会社、伊丹市との産官学連携事業)▽「史学研究所」による教育・調査・研究活動など多彩に展開している。
大学のこれから。「成果を上げている本学独自の学習プログラムや教育メソッドをさらに充実させたい。学生一人ひとりと向き合い、卒業時には自分に自信と自負が持てる力を持つように育てて送り出したい。それは、大きな問題に出くわしたとき、考えを巡らし『自分の力で克服できる能力』だと思う」
少子化には、どう対応しますか?大手前大学は、中国、韓国、ミャンマー、ベトナムなどからの外国人留学生が近年増え、現在、109人を数える。「日本語教育と留学生のニーズに合った科目の充実でさらに留学生は増やしたい。また、通信教育課程をベースに学び直しなど社会人らのリカレント教育にも力を入れていきたい」
鳥越の顔には、これまでの成果を進化させ、超少人数教育で地域に根差し地域に貢献する中間人材の育成を目指したい、と描いてあった。