特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<219>花園大学
禅的人間教育で人材育成
産学公連携で社会貢献活動 自ら考え、判断し、行動
「禅のこころ」を建学の精神とし、自ら考え、自ら判断し、自ら行動できる自律した人材の育成をめざす。花園大学(丹治光浩学長、京都市中京区)は、1872年、妙心寺山内に設立された般若林が淵源。禅の研究に力を注ぐ臨済宗妙心寺派の仏教系大学。現在、2学部5学科で、全ての学部学科は、開学時の仏教学部仏教学科を基盤として、特定の分野のニーズや現在の環境にあったカリキュラムを組む。授業の中で「坐禅」を体験することができ、少人数教育により、真の人間らしさ・個性を見出す。①キャリア教育重視の独自の全学カリキュラム「基礎教育科目」②保育士・幼稚園教諭などの資格取得のための支援体制③博物館・実習室など学びを深める施設の充実―などが特長。「禅は『ZEN』とも表記されるように、今や世界から注目を集める最先端の智です。学生には是非そのエッセンスを身につけ、これからの社会を生き抜いてほしい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
面倒見のよい大学 独自講座に「京都学」
キャンパスの中に「教堂」がある。「建学の精神・基本理念」の具現化の一つとして、1999年に建設。「原始仏教、をイメージした建物で、静寂な空間で癒しの空間。自分の心の雑念を拭い、新たな気持ちで学修に励むことができます」
花園大学は、1872年に京都市右京区の妙心寺境内に学寮・般若林を設置して開学した。1911年、花園学院高等部を臨済宗大学に改称。34年、臨済宗大学を臨済学院専門学校に改称した。
戦後の1949年、臨済学院専門学校を昇格させ花園大学(仏教学部仏教学科)が開学。64年、仏教学部仏教福祉学科を設置。「仏教精神に基づいた福祉理念を教授することを目的に、来る高齢化社会に備え関西初の福祉系学科でした」
66年、仏教学部を改め文学部(仏教学科・社会福祉学科・史学科・国文学科)を設置。77年、現在の京都市中京区西ノ京壺ノ内町にキャンパスを移転。92年、文学部社会福祉学科を社会福祉学部社会福祉学科に。「福祉分野への高まるニーズを背景に社会福祉学科が社会福祉学部として独立しました」
94年、大学院文学研究科(仏教学専攻・日本史学専攻)修士課程設置。97年、大学院文学研究科(国文学専攻)修士課程設置。98年、大学院社会福祉学研究科(社会福祉学専攻)修士課程設置。
2000年、大学院文学研究科仏教学専攻博士後期課程設置。花園大学歴史博物館設置。08年、文学部文化遺産学科・創造表現学科を新設。09年、社会福祉学部児童福祉学科を新設。13年、文学部国際禅学科を文学部仏教学科に復称(名称変更)。17年、留学生別科を設置。
「新しい学部学科を一から作ったものではなく、全て仏教学部仏教学科を基盤に、その中の特定分野を時代のニーズに即し特化・発展させたものです。このため、全ての学部学科において禅仏教の精神が根底にあります」
現在、2学部に1628人の学生が学ぶ。男女比はほぼ同数。出身地は、京都、大阪、滋賀、兵庫など関西が8割を占める。
学長の丹治が学園の歴史を語る。「花園大学は、臨済禅のこころを建学の精神とする学校です。教育理念は禅仏教の教えによる人格の陶冶が目的です。臨済宗の宗祖臨済禅師が『無依の道人』と言われるように、依るべきものをもたず、何ら外的条件に左右されない自立する力を涵養することを旨としています。一人の人間として自分の目で見、自分の耳で聞いて、自分の肌で感じて、自分の頭で考え、自分の手足で行動する。そのことなのです」
建学の精神の具現化を目的に改革を続けてきた。これまで「面倒見のよい大学作り」「アクティブ・ラーニングの実践」「地域連携、地域貢献の推進」などに取り組んできた。「今年度からは新たに花園人の育成・花園教育の実践・オリジナル・ワンの創生、という3つの課題にも取り組んでいます」
2学部の学び。文学部は、仏教、日本史、日本文学の3学科。「各学科とも高い専門性を有するカリキュラムと、きめ細やかな指導が特長です。一人一人の興味ある分野をとことん探求することができます」
独自の講座に京都学がある。「歴史、文学、そして仏教など、日本文化の根幹を形成しているのが京都。京都にある大学として、その恵まれた環境を活かし、京都の育んだ文化を追究していくことがテーマです。 京都学における研究や様々な出会いを通じて、豊かな人間性を養っています」
社会福祉学部は、社会福祉、臨床心理、児童福祉の3学科。花園大学における社会福祉学の教育・研究は、1964年、仏教学部に仏教福祉学科が増設されたのが嚆矢。多くの卒業生が福祉現場で活躍し、日本の福祉をリードしている。
児童福祉学科は、全国的にも珍しい保育士・幼稚園教諭・養護教諭の3つの資格取得を目指すことができる。社会福祉学科は、「子ども未来コース」など3コース、臨床心理学科は、「自己探究コース」など5コース、「両学科とも、取りたい資格、なりたい自分に近づけるようサポートしています」
「社会福祉学部では、実習をより実り豊かにするために、免許資格支援センター分室を設置しています。国家試験対策ゼミも3回生から準備し、国家試験合格率の向上に努めています」
独自の全学カリキュラム「基礎教育科目」は、2014年度から導入。「従来の全学カリキュラム「CDC(Career Development Center)」から「基礎教育科目」への名称変更とともに、進路や目的にあわせた6つの科目群から学ぶカリキュラムへ進化させた。
「特に就職やその後の人生も視野に入れたキャリア教育科目の充実と、他学科が提供する科目を受講することによる幅広い教養の習得など、アカデミックスキル、コミュニケーションスキル、キャリア教育などに力を入れています」
就職内定率は98%。資格取得を重視、社会福祉士の合格率は46%と「全国平均(30・2%)を上回る。「日頃の学びや資格を活かした就職に向けて、学生それぞれの専門性や適性、希望する業種や業界など将来の目標に合わせたキャリアサポートを行っています」
2019年から、満50歳以上を対象とした「100年の学び奨学金」がスタート。社会人の入学・編入学試験で合格した「50歳以上の学生」の年間授業料を年齢に応じて免除。50歳代は授業料50%免除、60歳代は60%免除、90歳代は90%免除、100歳以上は100%免除という具合。
「リカレント教育が注目されています。禅仏教を元にした教育を発信しており、長年、聴講制度で年間100人を超える方が受講しています。こうした背景から学びをより深めたいと考えている方々の学ぶ機会を応援したいと導入しました」
「産・学・公」連携という独自の社会・地域貢献活動を推進。月曜市民座禅会には多くの市民が参加、公開講座での「禅とこころ」や「京都学講座」は人気。学生は、地元の中学生の学習サポートや右京区や中京区等と防災や防犯イベントへの参加などボランティア活動に取り組む。
「本学は、『自己を知り、他者を受け入れ、社会に貢献する』というミッションを掲げています。その実現のためには地域連携の推進が必須です。学生は、ボランティア活動を通して、自ら考え、行動し、その結果に責任を持つことのできる自立した人になってほしい」
大学のこれから。「小さくてもキラリと輝く大学、『オリジナル・ワン』をめざしたい。新たな改革のひとつに『花園人の育成』があります。花園人とは、建学の精神の涵養によって自己探求心・主体性・グローバル思考を併せ持った人材です。建学の精神である『己事究明』を中心に、禅的人間教育によって、花園人を育てていきたい」。まもなく創立150年という伝統ある大学だが、さまざまな形で改革を進める未来志向の大学でもある。