加盟大学専用サイト

特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<213>九州ルーテル学院大学
愛に根ざした少人数教育
キリスト教主義の学び 手厚い学生サポート

「英語」「教育・保育」「心理」の3つを専門領域として実践重視のキリスト教主義の人格教育を施す。九州ルーテル学院大学(広渡純子学長、熊本市中央区)は、92年前に創立された九州女学院が淵源で、1997年に開学。人文学部(人文学科、心理臨床学科)の1学部2学科からなる。開学以来、リベラルアーツカレッジとして「人間」について深く学ぶ。現代社会のニーズに応える人材の育成を目指して免許・資格取得課程を数多く設置。①学びの質を高める丁寧な少人数教育②豊かな人間性を育むボランティア体験③資格取得や志望する就職先を実現させる手厚い学生支援―などが特長。「ボランティア活動や異文化体験プログラムなどを通して多様な人びとと出会い、それぞれの違いや個性を活かして共に生きる世界をつくる人材を育てています。少人数教育の良さをフルに発揮して支援しています」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)

伝統のリベラルアーツ

瀟洒なレンガ造りのバス停から坂道を上がると、木立に囲まれた九州ルーテル学院のキャンパスがある。欅、銀杏、楠などの木々が緑陰をつくり、四季折々の草花が彩りをそえる。小さいが、自然豊かなキャンパス。
 九州女学院は、1926年、創立者、初代院長、マーサ・B・エカードが創設。エカードは、1887年、米テネシー州に生まれる。北米メリーランド州で幼稚園に勤めながら、ルーテル教会の女子伝道学校で聖書と宗教教育を学ぶ。
 「日本宣教の任命を受け、1914年来日。東京の日本語学校で学び、佐賀で保育事業に従事。24年、九州女学院設立にあたり院長の任命を受け、翌年設立者として、九州女学院設置に携わりました」  学院設立のエピソードを学長の広渡が語る。「1908年、北米ペンシルベニアのルーテル教会で、『日本に女子の学校を』と5ドルの献金がなされ、多くの人々の関心を呼びました。日本で活動していた女性宣教師や女性信徒たちの祈りと要望が叶い、献金に託された夢が実現する形で九州女学院が誕生しました」
 1975年、九州女学院短期大学(人文学部・英語学科、児童教育学科)が開学。97年、九州ルーテル学院大学(人文学部人文学科)が男女共学で開学。98年、同短期大学を廃止。2004年、心理臨床学科を設置。06年、大学院人文学研究科、障害心理学専攻(修士課程)を開設。
 16年、熊本地震が起こる。「2度目の揺れで校舎の一部が使えなくなり1か月、休校にしました。国内外からの献金や全国各地から物心両面の援助が寄せられ励まされました。いまでも感謝しています」  建学の精神は、『感恩奉仕』(神の恩恵に感謝し、神と人に仕える)。エカードの口癖でもあった。「校章の中心には、ルター(ルーテル)紋章に刻まれている十字架の心を単純化した"赤い丸"が配されています。 学院の原点『霊育』でもあります。『感恩奉仕』に生きることこそが、九州ルーテル学院の理念であり、使命です」
 キリスト教主義の大学として「チャペルの時間」がある。「毎日、15分間、チャプレンや学生、教職員らが建学の精神などキリスト教のメッセージを伝えます。自分に向き合う大切な時間で、自発的ですが学生、教職員が数多く出席しています」
 現在、人文学部人文学科(2専攻)と心理臨床学科(3コース)に724人の学生が学ぶ。男女比は男子2、女子8と女子が多い。出身地は、熊本が9割以上を占める。
 学部学科の学び。人文学科のこども専攻は、保育コースと児童教育コースを設置。「幼児・児童たちと深く関わりながら、4年制大学ならではの体系的な理論指導と多彩な実践教育により、保育・教育のプロフェッショナルを育成します」
 同キャリア・イングリッシュ専攻。「伝統ある本学の少人数制・語学教育のノウハウを活かし、英語力はもとより、国内外のビジネスや英語教育などの最前線で活躍できるエキスパートを育成します」  心理臨床学科は、心理学、特別支援教育、精神保健福祉の3コース。単に人間の心についての学びに留まることなく、現実に巻き起こる心の問題について、教育や福祉、医療などの幅広い知見をもって適切に支援ができる力を育む。
 「豊富な実務経験を有し多様な領域で活躍している教授陣の講義・演習は、実際の支援ニーズに対応する力を育みます。加えて、学生は1年次から積極的に継続的な支援ボランティアに取り組み、学びと実践を融合させています。大学院をめざす学生には、進学に向けた支援も行っています」
 「共通教育科目」がある。「他の学科・専攻・コースで学ぶ学生たちと専門性の枠組みをこえて学び合い、幅広い視野と柔軟な思考力が養われます」
 特色の少人数教育。1クラス20名程度のアドバイザー制があり、学生と教員の間に距離感がない。「専門科目は30名前後で履修するケースが多く、教員は授業後あらゆる質問に"わかる"まで対応。ゼミは少人数で行われ、日々きめ細やかな指導が受けられます」 
 活発なボランティア活動。建学の精神である『感恩奉仕』を具現化する体験学修科目として「ボランティア体験学修」を開講。「様々な施設や団体でボランティア活動を体験。熊本地震では、ボランティアとして多くの学生がSNSを駆使するなどして活躍しました」
 手厚い学生支援には、障がいのある学生への優しいサポートもある。「車椅子や聴覚などに障がいのある学生をノートテイカーら学生ボランティアがサポートしています」
 就職率は、ほぼ100%。学生支援センターが就職のための数多くのプログラムを実施。早期の内定獲得はもちろん、学生個々の志望や適性にあった"ベストマッチング"につなげる。公立学校の教員や保育士など公務員の採用試験に向けては教職・保育支援センターを設置、常駐スタッフがサポートする。
 「九州女学院からの伝統で中学高校の英語の教員をはじめ、小学校、特別支援学校や幼稚園、保育園に多く就職しています。心理臨床学科は、心理職としては初の国家資格である『公認心理師』の養成が今年度からスタート、医療、福祉、教育分野への就職をめざしています」
 クラブ・サークル活動は活発。「聖歌隊」と「ハンドベル」は、学内の礼拝や地域の教会での賛美奉仕、学園祭や病院・福祉施設等で演奏。「ダウン症や自閉症の子供を支援するサークルも頑張っています」
 グローバル化。英国や北米からアジアの各地に広がるルーテルのネットワークがステージ。「毎年約20人が長短期の異文化圏体験学修や海外留学をしています。長期の留学は、正規の科目となっており、休学することなく4年間で卒業できます」
 同大のこころとそだちの臨床研究所にカウンセリングルーム「ジャニス」がある。同大の前身の九州女学院は、アメリカの人々の献金で誕生した。ジャニスは、オハイオ州のJ・ウォーレン・ジェームズ夫妻の娘で、彼女の名前からとった。
 「ジャニスは大きくなったら日本へ行って、日本の人々のために自分の一生をささげたいと希望していましたが、8歳の時、突然昇天。夫妻は、亡き娘の望みに沿う神の定めた計画にちがいないと信じ、多額の寄付をされました。カウンセリングルームのジャニスは、地域として取り組んでいる教育、精神保健などの事業に協力するために設置しました」
 大学のこれから。「建学の精神『感恩奉仕』に則り、キリスト教主義の人格教育をバックボーンに、英語、教育・保育、心理の3つを柱として人材を育て、地域に貢献したい。特に、小学校で英語が教科化されることに伴い、伝統の英語力で、英語に強い小学校の先生、英語で外国籍の保護者とコミュニケーションできる保育士を育てたい。英語と教育・保育、心理の3つの柱が連携すればより大きな力が生まれると思います」
 こう結んだ。「大きさを求めるのでなく、あえて少人数で愛に根差した教育で一人ひとりの個性をのばしていきたい」。『愛ある少人数教育』にこだわりをみせた。