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大学は往く 新しい学園像を求めて

<212>平成音楽大学
九州から音楽文化を発信
少人数教育と資格取得重視 熊本地震乗り越え新学舎

「演奏」「創作」「教育」の各分野のエキスパートの音楽人を育てる。平成音楽大学(出田敬三学長、熊本県上益城郡御船町)は、音楽学部(音楽学科、こども学科)1学部2学科からなる九州唯一の音楽大学。音楽を通して社会に貢献できる人材を育てる。1972年に開学した熊本音楽短期大学が前身で、2001年、平成音楽大学は開学。一昨年4月の熊本地震では大きな被災を受けたが、国内外からの多くの支援に励まされ、復興の第1楽章を終え、第2、第3楽章を進め、2019年3月にはニューキャンパスが完成する。①学生一人ひとりを教員がマンツーマン指導する少人数教育②保育士から教師まで資格取得を重視した学び③学内外における数々の演奏会開催やヨーロッパ音楽研修旅行などイベントの充実―などが特長。「音楽を学ぶことで、人間力が高まり、活躍の場が広がります。音楽のチカラで熊本を元気にし、全国、そして世界にすばらしい音楽を発信したい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからなどを聞いた。(文中敬称略)

「音楽の力で熊本を元気に」

 学長の出田が"復興交響曲"を語る。「第1楽章は、ステージを備えたカフェレストラン『MUSIC PARK』が4月にオープン。第2楽章のオーケストラ、オペラ、こども学科の演習などができるトータルミュージックスタジオ、第3楽章の図書館やレッスン室、アンサンブル室を備えた新館の落成へと進みます」。来年4月、復興交響曲は最終楽章を迎える。  建学の精神は、九州から音楽文化を発信することを大学の使命・目的として▽音楽芸術の真理の探究▽創造性豊かな心を持つ人間形成▽地域社会の音楽文化の発展に寄与する人材育成▽福祉の進展に寄与する人材の育成―という4つの基本理念を掲げている。
 平成音楽大学は、九州で唯一の音楽短大として上益城郡御船町に1972年に開学した熊本音楽短期大学(初代学長は出田憲二)が淵源である。音楽科の1学科で、学生数は82人(うち男子5人)だった。  1974年、専攻科を開設。2001年、熊本音楽短期大学を母体に平成音楽大学が開学(音楽学部音楽学科)。学長に憲二の長男、出田敬三が就任した。
 学長の出田は、作曲家で指揮者。ウィーン国立音楽大学作曲科卒業。ウィーン市立音楽院指揮科修了。作曲を高田三郎、E. ウルバンナー、指揮をG. ロジェストヴェンスキー、P. シュヴァルツらに師事。国内外で活躍する。
 作品はオペラ「細川ガラシア」「おてものバッテン嫁入り」「南風(はえ)吹けば楠若葉(くすわかば)」をはじめ、現代音楽、ピアノ協奏曲、式典音楽、放送音楽、ポップス、童謡、NHK「みんなのうた」まで幅広い。出田が大学を語る。
 「豊かな自然に囲まれた本学には、音楽に集中できる理想的な環境があります。最新の設備を備えた音楽棟では一日中音楽に向き合うことができ、また、クラシック音楽から現代音楽、医療福祉や保育の専門家にいたるまでバラエティーに富む優秀な講師陣からマンツーマンで指導を受けています」
 2002年、熊本音楽短期大学が閉学。04年、音楽専攻科設立、音楽学部幼児音楽教育学科を設置。10年、熊本市内に附属音楽教室「熊本市キャンパス サテライトステージ」を開設した。
   「本学の教員と附属音楽教室講師が授業を担当。幼児から学生、社会人まで学習の場を提供。音楽高校や音楽大学受験生、コンクール入賞を目指す方、それぞれの目的に合わせて指導しています。技術ばかりでなく、音楽の幅広い素養を修得できる楽典・ソルフェージュや合唱のクラス授業も開設しています」
 12年、音楽学部幼児音楽教育学科を音楽学部こども学科に改称。16年4月、熊本地震で大規模な被災を受けた。「最も歴史のある校舎など、8割近くが被害を受けました。1カ月間休校しましたが、仮設校舎の設置などで授業を再開。『音楽のチカラ』を信じて、現在も復興に向けて取り組んでいます」
 現在、234人の学生が学ぶ。男女比は、男子2、女子8と女性が多い。出身地は、熊本を中心とした九州の各県が大半を占める。
 各学科の学び。音楽学部音楽学科は、演奏表現と音楽文化コミュニケーションの2専攻。演奏表現専攻は個人指導を中心に演奏家及び指導者を養成する。ピアノコース、管弦打楽コース、声楽コースの3コース。
 音楽文化コミュニケーション専攻は、演習形態で音楽家を養成。「クラシック曲だけでなく幅広いジャンルの創作(作曲・編曲等)。音楽制作ができる作曲、ミュージックパフォーマンス、電子キーボード、サウンドデザインのコースがあります」
 さらに、音楽を幅広く学ばせながら教育者として養成する音楽教育コース、心に障がいを持つ人や高齢者等への音楽療法を行う専門家を育成するための音楽療法コースがある。
 音楽療法コースの村橋和子准教授は、東京藝術大学音楽学部声楽科ソプラノ専攻(芸術学士)。声楽家として全国各地で活躍するとともに音楽療法士として音楽療法演習や声楽などを講義する。
 音楽学部こども学科は、子どもたちに音楽の楽しさを伝え、豊かな感受性を育むための指導を適切に行える保育者を目指している。保育、教育、文化、福祉、医療などさまざまなジャンルで活躍できる人材を育成する。
 「音楽の専門性を持った保育士・幼稚園教諭の育成を行い、福祉の進展に寄与する人材の育成にも励んでいます。保育面でのカリキュラムがより充実、学費の減額や入学試験を音楽実技以外の試験で行い、門戸を広く開いています」
 昨年は学園創立45周年で、記念コンサート・イベントが目白押しだった。3月には出田が作曲した天正遣欧少年使節を題材にした交響詩曲『伊東マンショ~時を超える祈り~』をイタリア・ローマで初演、12月には『華麗なる音楽の祭典』として日本(熊本、長崎)でも演奏した。
 今年3月には同大が母体である九州最大の『九州音楽コンクール』を開催。「今回は、海外から演奏家に加え審査員も招聘して国際的なコンクールになりました」
 グローバル化。「韓国や中国とも近いという九州の立地を生かし東アジアとの交流を深めたい」。出田の長女、マリンバ奏者の出田りあは同大客員教授でドイツ在住。「夫がベルリンフィルの第一コンサートマスターということもあり、ヨーロッパとの交流も広げていきたい」
 就職率は、音楽学科、子ども学科とも100%を達成。「各学科のコースの担任と外部のキャリアコンサルタントによるきめ細かい指導が高い就職率につながっています。採用では、コミュニケーション力、主体性、チャレンジ精神が求められますが、音楽学科ではこれらの資質を養うことができています」
 資格重視の学びが生きる。「音楽療法士2種の資格が取得できるので施設や病院内の保育者も選択肢に含まれます。こども学科は、保育士と幼稚園教諭の資格が同時に取得できるので、8割は公私立の保育所、幼稚園、認定こども園や企業内保育所などに就職します」
 地域貢献活動は、「九州から音楽文化を発信する」という建学の精神に裏打ちされている。熊本地震で貴重な楽器も多大な被害が出たが、学生は地域の住民らと共演のコンサートを開催。「熊本は歴史・文化の宝庫。地域に根差した音楽大学として熊本ゆかりの音楽・芸術を日本、世界に広めて地域に貢献したい」
 大学のこれから。
 「少子化は音楽の単科大学にとって厳しい。生き残りを模索しています」と前置きして続けた。「本学はクラシックはもちろん、童謡からポップス、現代音楽から音楽療法まで学べます。この特長を生かし、音楽の歓びを表現したり、こどもを指導できる人材を育て、音楽のチカラで地域を、日本を活性化させていきたい」
 厳しさを自覚しながらも、「音楽のチカラを信じたい」と明るい表情で語ったのが印象に残った。出田のモットーは「日々努力、生涯現役」。あの未曽有の熊本地震を乗り越えたのも、「音楽のチカラ」だった。