特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<116>富山国際大学
地域経済の振興に貢献 共存・共生 知性を磨く
実務・実学型重視の教育
「小さい大学、大きな理想」を掲げる。富山国際大学(中島恭一学長、富山市東黒牧)は、1990年設立の新しい大学で、共存・共生の精神と知性を磨く教育を理念に、地域社会に貢献できる人材を育成してきた。現在、2学部体制で、現代社会学部は、これからの地域経済の振興・発展に貢献する人材を、子ども育成学部は、子どもの未来を育む小学校・幼稚園教諭、保育士、社会福祉士を、それぞれ養成している。学外実習や研修を多く取り入れた実務・実学重視型教育、観光学を北陸で唯一専攻として設置、1人ひとりの夢を実現へ導くキャリア支援体制―などが特色。学生スポーツでは、91年創部のボート部が日本一に輝くなど全国の強豪だ。「教育の質を向上させ、地域のなかで存在感を高め、国際的視野を持った学生を育てていきたい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
「小さい大学、大きな理想」
「立山連峰と日本海に挟まれた、恵まれた自然環境の中のキャンパスは、自然との共生の精神を磨く場でもあります」。学長の中島が話すように、恵まれた教育環境にある。
現代社会学部のある東黒牧キャンパスは、富山市南部の丘の上にあり、森の緑に囲まれ、背後にそびえる立山連峰が一望できる。低層・分棟方式の赤レンガの2階建ての学舎が広いキャンパスに点在する。
子ども育成学部のある呉羽キャンパスは、富山県のほぼ真ん中にあり、東に呉羽丘陵、北に富山湾を望める。富山短期大学、国際大学付属高校、富山短大付属幼稚園が集う総合教育キャンパスとなっている。
富山国際大学は、1963年に設立の富山女子短期大学(教養科)が淵源だ。90年、富山国際大学(人文学部)が開学。2000年、人文学部を人文社会学部に改組、地域学部を増設。富山女子短期大学を富山短期大学に名称変更し、男女共学となる。
04年、人文社会学部を国際教養学部に改組、地域学部地域システム学科を環境情報ビジネス学科に学科名称を変更。08年、地域学部と国際教養学部を統合・改組。現代社会学部現代社会学科を設置。
09年、呉羽キャンパスに子ども育成学部(子ども育成学科)を設置。「短大で幼稚園の教員養成を行っており、それを幼稚園・小学校の教員、保育士、社会福祉士養成に広げてハイブリッド型教育にしました。資格取得は卒業後の就職に優位という面も考慮しました」
現在、現代社会学部現代社会学科(観光専攻、環境デザイン専攻、経営情報専攻)と子ども育成学部子ども育成学科(小学校教育分野、保育・幼児教育分野、社会福祉分野)の2学部に741人の学生が学ぶ。学生の出身地は、県内が82%、男女比は5対5だという。
学長の中島が大学を語る。「共存・共生の精神と知性を磨く教育を基本に、時代の潮流に対応できる、健全にして個性豊かな人材を育成して、国際社会および地域社会の発展に寄与することを教育目標としています」
こう続けた。「共存・共生の精神と知性を磨くという言葉に、『大きな理想』が秘められています。共存というのは、地域や世界の人びとと手を取り合って仲良く生きることであり、共生というのは、自然との共生で、人間は豊かな自然があってこそ、生きられるという考え方です」 学部の学び。現代社会学部。「3専攻による実践的なカリキュラムを展開。国際性と地域性が共生する現代社会、言いかえればグローカル社会から求められる人間力と実践力を持った人材の育成をめざしています」
3専攻について。観光専攻は、観光立国、観光立県構想に応え、国際観光・地域観光ビジネスのプロフェッショナルを、環境デザイン専攻は、人と環境に配慮したデザインをクリエイトできる人材を、経営情報専攻は、進展する情報通信技術を学び、地域経済発展の担い手となる人材を、それぞれ育成する。
教えは、コンサルタント、研究所、民間企業、行政機関など出身の多彩な現場のプロが、実践的な講義を展開。国内旅行業務取扱管理者、インテリアコーディネーター、日商簿記、販売士などの公的資格を取得できるように支援している。
子ども育成学部。「幅広い知識と教養、子ども育成の専門家としての確かな資質能力と学びの精神を培う。優れた教育・保育・福祉の実践力を持ち、地域・家庭との連携・協力を深められる、時代が求める子どもを育成するスペシャリストの養成をめざしています」
教えは、小学校教育・幼児教育・保育・社会福祉などの各専門分野の資格免許取得に必要な養成カリキュラムを適切に組み合わせ、それぞれの現場実践に直接かかわる科目を多く配置。地域をフィールドにした演習や実習科目や学外実習を重視している。
講義室・研究室をはじめ、音楽室や美術室、小児保健実習室など教育・実習環境は充実。所定の単位を修得することで、小学校教諭1種免許、幼稚園教諭1種免許と保育士資格を、社会福祉士国家試験の受験資格を、それぞれ卒業と同時に取得できる。
就職力。資格取得を重視している。「現代社会学部は、公務員対策に力を入れています。子ども教育学部では複数資格を取得するよう指導しています。就職率はほぼ100%と順調で、就職先は地元の企業や自治体、教育機関、社会福祉団体など多い」
地域貢献。「夢への架け橋助成事業」というのがある。海外ボランティアや地域活性化事業、NPO法人、各種創作活動など、学生の自主的な社会貢献活動を奨励・支援する。「学生から研究・活動などの事業計画を募集し、審査のうえ事業実施に対し助成しています」
昨年度は「国際交流サロン」や「東日本震災復興支援ボランティア」、「限界集落支援活動」などに対し助成を行った。地域貢献活動では、「里山再生」というプログラムを企業と連携して行っている。
国際交流も活発だ。「世界を知り自分を知るということで留学を奨励しています。留学先での修得単位も単位認定しているので4年間での卒業が可能です。授業料の全額もしくは一部を免除する独自の留学支援奨学金制度もあります」
環日本海諸国(中国、韓国、ロシア)と学術交流協定を結び、教員・学生の相互交流で友好関係を深めている。米国、英国、フランス、豪州、中国、韓国、ロシア、タイの大学・高等教育機関と交流協定を締結、学生間の相互留学を活発に展開している。
強豪のボート部。今年の全日本選手権の女子ダブルスカルで同大の野呂瑞季・下尾裕子組が初優勝を飾った。同大の選手による同選手権優勝は初めて。2人は5月の全日本軽量級選手権、8月の全日本大学選手権と合わせ三冠を達成した。
大学のこれから。「地域との連携を密接にし、教育の質を高め、国際力を深め、地域における知の拠点としてふさわしい活動を展開したい」と前置きして語った。
「富山市との連携など地域連携をより強めるなど具体的活動によって、地元で評価される大学を、教育の質の向上では、人間性、社会性に加え専門性を高め、学生の成長を保証できる大学を目指したい。国際力では、英語力だけでなく海外留学によって国際的視野を高めたい」。「学生の成長を保証できる大学」という言葉に一段と力がこもっていた。