特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<110>武庫川女子大学
自立した女性を育成
資格と就職に強い大学 来年度、看護学部開設へ
「立学の精神」が教育理念である。武庫川女子大学(糸魚川直祐学長、兵庫県西宮市)は、1939年の創設以来、「高い知性、善美な情操、高雅な徳性」を兼ね備えた女性を育成してきた。現在、大学5学部13学科、短期大学部7学科、大学院5研究科11専攻、大学専攻科1専攻科に、約1万人が学ぶ女子総合大学である。リニューアルした中央図書館、日下記念マルチメディア館、建築学科の学生が学ぶ甲子園会館(国登録有形文化財)や建築スタジオなど、学生を育てる質の高い教育環境がある。教員・保育士、管理栄養士、薬剤師などの資格取得をサポート、就職率は98.2%と高水準を維持。1990年、アメリカに分校を開学、06年、女子大としては初の建築学科設置など先駆的な改革を断行してきた。来年度には、新たに看護学部と大学院看護学研究科を開設する予定。「今後とも、教育の質を一層充実させ、グローバル社会に貢献できる自立した女性を育てていきたい」と語る学長に学園の歩み、改革、これからなどを尋ねた。(文中敬称略)
1万人が学ぶ女子総合大学
冒頭、学長の糸魚川は、教育目標に熱弁をふるった。「創立以来の立学の精神を現代(いま)の学生にわかる言葉に置き換え、教育目標をつくりました。2011年には教育推進宣言をまとめました。教職員が一体となって学生に主体性・論理性・実行力をつけさせ、自立した学生を社会に送り出そうと、自立というキーワードを入れました」
「本学のキャッチフレーズは、『学問を究め、女性の未来を拓く~資格と就職に強い大学~』です。学問・研究の質の高さと、グローバル化への対応を前面に打ち出しています」
武庫川女子大学は、1939年、校祖、公江喜市郎が創設した武庫川高等女学校が淵源である。公江は、視察したイギリスの私学教育の人間教育を受ける生徒・学生の意欲的な行動に感銘を受け、学園を設立した。
1946年、武庫川女子専門学校を開校、49年、武庫川女子専門学校を母体に武庫川学院女子大学が開学。50年、武庫川学院女子短期大学が開学。58年、武庫川学院女子大学を武庫川女子大学に改称。66年、大学院修士課程を設置。
教育・研究について。「幅広い教養と人間性あふれる自立した女性を育む全人教育を行っています。総合大学として、学部・学科の持つそれぞれの専門性や養成する人材像に応じ、自分の目標に向かって努力する女性の育成を目指しています」
「研究面の質の高さも誇りとするところです。文科省の女性研究者研究活動支援事業には、お茶の水女子大、津田塾大、東京女子大、日本女子大、奈良女子大などともに選定されました。大学院生の数も、全国の女子大で3位です」
大きな大学だが、学生支援はきめ細かい。「創立当初から設けた学級担任制による教育面のサポートや、オフィスアワーを設け、担任以外の先生にも進路や勉強のことなど気軽に相談できます」。専門の相談員が悩みに答える学生相談センターや、医師が診察する健康・スポーツクリニックも完備している。
米国分校で1万人学ぶ
1990年に開学したアメリカの分校のムコガワ・フォート・ライト・インスティチュート(MFWI)は、ワシントン州スポケーン市にある。100年以上前の米陸軍の将校宿舎だった歴史的建造物を中心に拡充したキャンパスで、甲子園球場12個分の広さを誇る。ここで学んだ学生は1万人を超える。英語文化学科の学生は全員4か月間、全学科の希望者は1か月間、MFWIで学ぶことができる。日本語日本文学科、教育学科、生活環境学科、食物栄養学科、薬学科、健康生命薬科学科でも独自の留学プログラムを実施している。
「MFWIは、アメリカのCEA(大学英語教育認定協会)の認定を受け、グローバル化時代に通用する英語を身につけるため授業はすべて英語で行っています。学生寮で生活、滞在中に1度はホームステイもありアメリカ人家庭に触れることができます」
グローバル化には力を入れる。「アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、中国、韓国の大学との交換留学制度があります。留学先で修得した単位は、卒業単位として認定されるので、4年間で卒業することも可能。4年間で、留学先の大学と2重学位を取得した学生もいます」
来年度開設予定の看護学部看護学科は、入学定員80人。「将来的に保健・医療・福祉の連携を担う人材の育成です。総合大学の利点を生かし、学部学科の枠を取り払った共通教育科目を開講、幅広い教養を身に付け、専門分野では質の高い教育・研究を行い、国際看護学の授業や海外研修で、グローバルな視野を持った看護師を育てていきたい」
就職力。就職状況が厳しい中、2014年3月卒業生の就職率も全体で98.2%(就職希望者数1623人、就職者数1594人)。教員・保育士をはじめ、薬剤師、管理栄養士、建築士、社会福祉士などに就く学生も多い。
「さまざまな資格取得に対応したカリキュラムを編成、入学直後からキャリア支援が始まります。キャリアセンターの専門スタッフが、入学時から継続的に学年を追って、きめ細かくキャリア形成を支援しています」
国家試験対策の特別講座や模擬試験を実施したり、教職支援室のスタッフがサポートして、学生を強力にバックアップ。教員採用試験、薬剤師、管理栄養士の国家試験合格者数は毎年全国トップレベルの実績を誇る。
キャンパスは、大学と短期大学部の中央、薬学部の浜甲子園、生活環境学部建築学科の上甲子園キャンパスの3つ。クラブ活動も活発。「カヌー部は全日本学生3連覇、五輪代表選手を輩出するなど強豪です。タッチフットボールも日本一に輝きました」
充実した教育環境。日下記念マルチメディア館は、約1500台のパソコンを備えた情報メディア学科の拠点施設。中央図書館は、地上6階、地下1階、所蔵冊数約54万冊、閲覧席数1498席。「教員と学生双方向の学びを促すアクティブ・ラーニング・スタジオのほか、ライブラリー・カフェを新設し、利用しやすくしました」
間もなく完成する学校教育センター。「優れた教育者・保育者を養成するとともに、学生、卒業生、地域の教育・保育に関わる人たちのキャリアを支援し、男女共同参画社会をめざす拠点となります」
この学校教育センターも地域貢献につながる。同大のHPには、「薬学部の学生が小学校で出前授業」、「食物栄養学科の学生が栄養の知識を活用してボランティア活動」、「生活環境学科などの学生が、浜甲子園夏祭りでお手伝い」…地域貢献のニュースがたくさん載っている。
2019年に学院創立80周年
大学のこれから。5年後の2019年に学院創立80周年を迎える。糸魚川は、学院の方針である①男女共同参画時代に対応できるグローバルな視野を持った指導的女性の育成②研究力の向上に合わせ、女性研究者の育成③本学の特色を活かして女性の活躍できる分野の開拓④地域に根差した社会に貢献できる大学⑤財政基盤の充実と磐石化という5つの戦略的テーマをあげ、グローバル化と地域貢献を強調した。こう続けた。「女子の力は女子大でこそ培われます。家庭やサークル活動は男子と一緒で、授業の中だけ女性のみとなっています。本音の質問も出るしアクティブで、リーダーシップも身につきます。男女共同参画社会において真の実力が培われます」
教育・研究力を深める
そして、こう締め括った。「これからも、教育・研究力を深め、総合大学の強みを活かし、女子大学であり続けます」。糸魚川の口吻には、女子の力、教育・研究力、総合大学の強みという3つの言葉に力がこもっていた。