特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<109>群馬医療福祉大学
専門技術と福祉の心を育む
資格取得に有利な学び ボランティアが必修
福祉・教育・心理・子ども・看護・リハビリを総合的に学ぶ。群馬医療福祉大学(鈴木利定理事長学長、群馬県前橋市川曲町)は、2002年に開学した医療・福祉の専門大学。社会福祉、看護、リハビリテーションの三学部からなる。1人ひとりの希望を生かして福祉・医療分野を総合的に学び、高度な専門技術と福祉の心を育てる。①学生個々のニーズにあった実践的な助言ときめ細やかな指導による就職力②福祉・医療分野の資格取得に有利な学び③教員と学生の距離が近い少人数教育―が強み。ボランティア活動が必修科目で、単位認定し、毎週土曜日を「ボランティアの日」としている。地域貢献に力を入れ、地域におけるリーダーを養成し、大学が積極的にまちづくりに関わっていくのがモットーだ。「儒教の教育に重きを置き、仁の精神を建学の精神とし、人格教育を行っています」と厳格な言葉で話す理事長に学園の歩み、教育研究、大学のこれからなどを聞いた。
(文中敬称略)
建学の精神「仁」の心 医療・福祉の専門大学
淵源は、1449年(宝徳元年)に理事長の鈴木の遠祖である長尾昌賢が現群馬県渋川市に創設した漢学学問所にさかのぼる。古文書には1811年、正誼堂を開き、校舎を建つ、1866年、昌賢学堂を設立、と記してある。
1919年(大正8年)、前橋市に鈴蘭少女学園(女子の幼稚園)を開設。戦後の1946年、鈴木の父親が前橋女子商業高校を開設するが、まもなく閉校に至った。鈴木が、学園復興までの道程を語る。
「父は生前、学園を復興してほしいと繰り返し言っていました。私は、大学を出たあと漢文の高校教師をしていましたが、父の意思に応えるため大学院で学び直し、個性を尊重する高校をつくろうと考えました」
1989年、群馬社会福祉専門学校を開学した。「少子高齢化社会を見据え、高校を創るより、介護福祉師を養成するほうが時代に適うと判断しました」
1996年、群馬社会福祉短期大学を開設。「前橋市から短期大学にして介護福祉の人材を育ててほしいという要請もあって開学しました」
2002年、4年制の群馬社会福祉大学が開学、児童福祉専攻を新たに設置した。「短大の学生からも4年制への転換の要望もありましたが、研究面の強化がねらいでした。児童福祉専攻の設置は、少子高齢化のなか、介護と保育を一体化して学ぼうと考えました」
07年、大学院社会福祉研究科社会福祉経営専攻を開設。10年、大学名を現在の群馬医療福祉大学に名称変更、看護学部を藤岡市に設置。「藤岡市から病院はあるが看護師が足りず困っている、と看護系大学の設置の要請があり、これに応え、藤岡市に設置しました」
12年、リハビリテーション学部を設置。「在宅の福祉医療が広がりつつあります。在宅となると、リハビリが必要になります。そうした社会情勢に応えたものです」
現在、3学部に約1100人の学生が学ぶ。群馬県内が6割、近県が4割、男女比は男子3割、女子7割。併設校に群馬医療福祉大学短期大学部、群馬医療福祉大学附属リハビリ専門学校、群馬社会福祉専門学校がある。
大学の学び。「豊かな教養と人間尊重の精神を涵養するため、教育方針として大本の『仁』の実践と統合した仁愛の精神を理念とした人格陶冶を基とし、よりよい生き方の探究のため特色ある教養教育を積極的に推進しています。哲学、倫理、学、論語、道徳教育などの科目を通して学生に『仁』のこころを伝えます」
わかりやすく説明してくれた。「介護福祉の専門職を要請する大学ですが、まず教養教育を重視し、それから専門教育につなげたい。教養教育では、論語を学び、ボランティア活動を実践することで質を高めたい」
各学部の学び。社会福祉学部社会福祉学科の社会福祉専攻は3コース。「社会福祉コースは、社会福祉士・精神保健福祉士受験資格を取得し、社会福祉各分野におけるリーダーの養成を目指します」
「福祉心理コースは、認定心理士・心理判定員資格を取得することで心の福祉に重きを置いた相談援助技術を身につけます。学校教育コースは、様々な教育現場に対応できるスクールソーシャルワーカースキルを持った中学・高校・特別支援学校の教員を育成します」
社会福祉学部社会福祉学科の子ども専攻は二コースで、保育士・幼稚園教諭・小学校教諭免許状が取得可能である。
「児童福祉コースは、保育士資格・幼稚園教諭・社会福祉士受験資格取得で、様々な問題に対して相談援助のできる児童福祉のスペシャリストを、初等教育コースは、乳幼児期から小学校に至るまで、児童に対する保育・教育のスペシャリストをそれぞれ養成します。」
看護学部看護学科。「教育課程にある『看護学』をしっかり学ぶことで看護専門職者である看護師、保健師の国家試験受験資格が取得できます」
リハビリテーション学部は2専攻。「理学療法専攻は、身体に障がいのある方に対して、運動療法や物理療法などを手段として関わるプロフェッショナルを、作業療法専攻は、病気や障がいがあっても、より幸せな生活を目指し、専門的な治療や提案が実施できる作業療法士をそれぞれ育てます」
高い就職率を誇る
就職率は、ほぼ100%。就職先は、病院、介護施設、小中学校など福祉・教育・心理・子ども・看護・リハビリテーション分野が多い。「資格取得に力を入れていることもありますが、ボランティア活動を通じて、学生の問題発見能力や問題解決能力を鍛えていることも高い就職率につながっていると思います」地域貢献では、「論語学堂による公開講座では、医療、福祉、教育など社会生活に欠かせない講座を設けています。また、夏休みに子どもたちに介護の体験をさせ、啓蒙活動を行っています」
ボランティア活動に力を入れる。2002年にボランティアセンターを開設した。「机上の勉強だけではなく、医療や介護現場を経験することで、現場を理解し、将来の仕事にも役立つよう推進しています」
看護学部のある藤岡市には、世界遺産「富岡製糸場」の構成資産の高山社跡がある。ボランティアガイドを養成して解説員として活動する。また、県の障害者スポーツ大会では、教職員と学生が一緒に、大会会場の設営から後片付けまで行っている。
生涯教育と国際交流
大学のこれから。「2つの夢があります」と目を輝かせながら語った。「ひとつは、生涯教育、社会人教育に力を注ぎたい。定年退職した方に大学に入ってもらい、本学でとれる介護、看護、教育の資格を取得してもらい、もう一度、社会に出て活躍してもらいたい」「もうひとつは、福祉医療分野での国際交流の強化です。海外に教員を派遣して海外の福祉医療を学び、研究して、日本と海外の優れたものをかけ合わせて新しい福祉医療をつくっていきたい。オーストラリアの大学と提携し実現に向けてスタートしました」
最後も硬質な物言いとなった。「本学は知的・人的資源を積極的に地域に提供し、地域からも各領域の特別講師を招き、地域との往復交流による教育を行っていく。幼児から高齢者に至るまでの福祉医療総合センターとしての役割を担い、地域に開かれた学園でありたい。欧米諸国及び中国・アジアとの交流を重視し、国際的感覚を身につけた教育を行い、福祉・医療の総合大学を目指したい」。群馬医療福祉大学のこれからは、地域貢献と国際化がキーワードとみた。