特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<107>日本医療大学
現場と一体となった教育
医療福祉施設と専門学校擁する
実績生かし、人材育成
ヒューマニティに育まれる「人間力」を備えた医療人を育成する。日本医療大学(傳野隆一学長、北海道札幌市清田区真栄)は、2014年4月に開学したピカピカの大学である。保健医療学部(看護学科)に85人の新入生が学ぶ。大学を運営する学校法人日本医療大学は、医療・福祉系の専門学校3校を擁する。現場に最も近い教育環境で人間性と専門性を持つ人材を育成してきた実績を基に、現場と一体となった教育を実践する。その歩みは、1984年、札幌に開設した特別養護老人ホーム「幸栄の里」に始まる。入所者だけでなく在宅者へのサービスも初めて事業化。医療と福祉の高度な人材育成の必要性から1989年、「幸栄の里」の隣に専門学校日本福祉学院を開校。これが日本医療大学の淵源だ。「確かな看護実践能力を培い、主体的に学び、考え、行動できる成熟した看護師の養成をめざしています」と語る学長に、学園の歩み、大学のこれからを聞いた。
(文中敬称略)
4月開学85人学ぶ 成熟した看護師養成
JR「札幌」駅から約15km。札幌市清田区・白旗山の麓に「アンデルセン福祉村」の看板が見える。レンガ色の瀟洒な建物が林立する。介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、ケアハウスなどだ。この一角に同大学のキャンパスがある。系列の専門学校の日本福祉看護・診療放射線学院も一緒だ。
福祉先進国デンマークの童話作家にちなんで名づけられた「アンデルセン福祉村」は、自然豊かな丘陵に設けられた全国的にも珍しい医療福祉総合複合施設。わが国有数の医療・福祉グループである「つしま医療福祉グループ」が運営する。日本医療大学も同グループの一員だ。
「アンデルセン福祉村の中にあるキャンパスには、研究棟をはじめ、講堂、体育館など、教育研究に適した環境を整備しています。現場と密着したカリキュラムによって質の高い教育を実践しています」と学長の傳野。
学園の歩み。1989年、日本福祉学院(総合福祉科)を開校。90年、専門学校日本福祉学院に名称変更。92年、総合ソーシャルワーカー科を設置。95年、専門学校日本福祉リハビリテーション学院(理学療法学科、作業療法学科)が開校。
96年、専門学校日本福祉看護学院(看護学科)、2004年、専門学校日本福祉リハビリテーション学院(診療放射線学科)が開校。09年、日本福祉看護学院と日本福祉リハビリテーション学院診療放射線学科が統合、日本福祉看護・診療放射線学院が開校した。
2014年に開学した日本医療大学。保健医療学部看護学科の学生80人の男女比は男子15%、女子85%。「学生はみな目的意識を持ち、モチベーションが高い」と傳野。開学初年度の志願者はいかがでしたか?
「お陰さまで、定員80人のところに282人もの応募がありました。道内は看護師が足りず、求人も多いという事情もありますが、これまで培ってきた専門学校の実績が評価されたのではないでしょうか」
学長の傳野が、大学を語った。「近年、医療技術の急速な発展とともに高齢化が進行しています。現在では、病院・介護施設をはじめ、在宅医療などさまざまな場で、看護を必要とする人々の増加は大きな課題といえます」
こう続けた。「看護師の役割は、患者1人ひとりの希望や価値観を尊重しながら、専門知識・技術を用いて、療養生活全般にわたって支援することにあります。病気や障がいを抱えて生活する人々とその家族に対して、安全な医療・看護を安心して受けていただくために、医療者の高度な専門性と確かな実践力と、専門職間の強力なチームワークを養いたい」
大学の教育目標を説明した。「①生命の尊厳や人権を守り、人々の多様な価値観や意思の尊重、②全人的理解を基盤とした援助的人間関係の形成、③科学的に裏付けされた専門的知識と技術での看護実践、④保健医療福祉チームの一員として他職種と連携・協働、⑤科学的思考力と問題解決能力、主体的学習能力での自己成長、がそれぞれできる人材の養成です」
教育目標を達成するための充実した最新施設設備がある。看護実習室は領域別に実習室を設定。領域別の設定で、より専門的に学べる環境を確保している。また、実践的に練習可能なモデル人形を設置し、学生が主体的に反復学修する環境も整えている。
「研究棟には各研究室や学生ゼミナール・個別指導の教室を設置。パソコン教室にはCALLシステムを導入し、英語などの語学学習を効率的に進めることができます。また、図書館では、最新の書籍・文献に触れることができます」
日本医療大学を擁する「つしま医療福祉グループ」は、各種の高齢者施設を運営する「社会福祉法人ノテ福祉」と、グループのシンクタンクの「一般財団法人つしま医療福祉研究財団」から成り、同大学の教育を支える。
ノテ福祉会の「ノテ」は英語の「NOTE=音符・響き」を読みかえたもの。「高齢者が心豊かに暮らせるよう、それぞれの施設が調和のとれたメロディを奏でたいとの思いから名付けました。特別養護老人ホームをはじめ、老人保健施設、デイケア・サービスセンター、ケアハウスを運営しています」
つしま医療福祉研究財団は、老人性認知症など加齢に伴う様々な疾患に関する研究・助成を行うほか、各種事業で福祉の増進に勤める。介護保険請求事務や給付管理事務のエキスパートである「介護保険事務士」は、同財団で登録商標を取得した。
3つの専門学校も支え
3つの専門学校も大学の支えとなっている。日本福祉学院は、介護福祉と社会福祉士の二学科。福祉の現場で高齢者との日常的な触れあいを通じ、授業や実習を重ねながら実践力を身に付ける。日本福祉リハビリテーション学院は、理学療法、作業療法、言語聴覚の3学科。言語聴覚学科は06年に設置。日本福祉看護・診療放射線学院は、看護と診療放射線の二学科。理論と実践を身に付け、日々進化する医療に即応できるプロフェッショナルを育てる。ところで、近年、大学の看護学科の新設が相次いでいる。雑誌「AERA」(2014.8.18)は、「大学の看護学科新設ラッシュで看護師が今後急増しそうだ。特に病院では、深刻な人余りが予想され、11年後に14万人がだぶつく」と報じた。
この点を傳野に聞いた。「これからの医療は、風邪をひいたらすぐ病院に行き治すなどの急性期医療から癌や脳梗塞といった療養の伴う慢性期医療に特化されます。これまで以上に看護力、介護力が求められます。本学は、長年、専門学校で培った実績と、法人が運営する医療・福祉施設など現場と一体となった教育によって、そうした危機は乗り越えられると思います」
こう補足した。「病後のリハビリも病院完結型から地域完結型に移りつつあります。さらに、認知症の人も地域に戻って生活できるような地域包括ケアシステムの確立が急務で、本学の卒業生には、そうした役割も求められています。地域で学び地域に還る、そんなことも考えています」
強い看護力持つ人材を
傳野は、札幌医科大学大学卒で同大教授、同大医療人育成センターのセンター長などを歴任した。大学のこれからを聞くと、「医療人は、頭だけでは駄目です。わが国有数の医療・福祉グループである法人が持つ医療・福祉施設で様々な体験をして命の尊さを知り、大学の学びによって強い人間、強い看護力を持つ人材を育てていきたい」。傳野のこれまでの歩みが投影された返事が返ってきた。