特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<105>北陸大学
グローバル・アイ実現へ
留学生受け入れ国際人を育成
親身の指導で人格形成
学生一人ひとりに愛情と情熱を注ぎ、親身な指導で学生の人格形成に傾注する。北陸大学(小倉 勤理事長・学長、石川県金沢市)は、1975年、北陸大学薬学部として開学した。学部学科再編などの大学改革を続け、現在、薬学部と未来創造学部の2学部からなる。学びの柱は、教養教育の重視と社会で即戦力となる実践教育。「グローバル・アイ」という教育理念に基づき、留学生の受け入れや国際人の育成に力を注ぐ。海外の提携校へ留学可能な留学制度、海外からの多くの留学生が裏打ちしている。スポーツにも力を入れ、アイスホッケー部とサッカー部(男女)は全国レベルの強豪。「留学生受け入れなどグローバル化を進めながら、社会のニーズに応え、健康を中心とした大学をめざしたい」と話す学長に学園の歩みと改革、現在とこれからを尋ねた。
(文中敬称略)
教養教育と実践教育が柱
取材で訪れた7月中旬の地元紙には、北陸大学の教育理念の「グローバルアイ」を象徴する記事が載っていた。〈中国の大連東軟信息学院の日本語教師が北国新聞を訪問、「日本の文化体験を中国の教育現場で活かしたい」と語った。滞在中、提携校の北陸大学を視察する〉
北陸大学の創設者は、吉田茂内閣の国務大臣、林屋亀次郎。「経済復興を為し得た我が国に真に必要なものは、報恩感謝の念に基づき、真理と正義を愛する個性豊かな人間の育成である、との信念から開学に力を注ぎました」と学長の小倉。
こう続けた。「薬学部は、金沢が加賀前田藩の時代から医学・薬学に研鑽が深く、本学の教育理念の一つである『生命を尊ぶ』に深く関連したことから設置。薬学の教育研究を通して医療、保健、環境改善に貢献できる薬剤師の育成が目的です」
1987年に外国語学部を開設。「開学して10年を経て、日本の国際化が活発となったことから、第2の学部として設置。眼を大きく見開き、海外、特に中国に向けねばならないとの考えから、『グローバル・アイ』をもうひとつの教育理念にしました」
1992年に法学部を開設。2004年には外国語学部および法学部を改組して未来創造学部を開設。「優れた語学力、確かな法律知識、幅広い教養を備え、自分を見つめ、世界に役立つ人間作りがねらいです。時代を先取りした学部でしたが、ようやく定着していきました」。現在、2学部に2045人の学生が学ぶ。
小倉が学びの柱について説明する。「教養教育では『心』すなわち『人間性』の涵養を重視。健康で感性豊かな人間性の育成という観点から『礼節、運動、読書、芸術鑑賞』といったリベラルアーツを重視した教育を行っています。
この教養教育の基盤のもと、学生1人ひとりの潜在的な可能性を引き出し、個性を伸ばす教育を実施。コミュニケーション能力や問題解決能力などの社会人基礎力を身につけるための実践教育を施しています」
具体的には?「薬学部では、医療人としての高い倫理観、使命感、責任感を持った心豊かな、即戦力となりうる専門薬剤師の育成を目標に、未来創造学部では幅広い教養と優れた英語・中国語の語学力を身につけ、国際的な視野をもって新しい時代に対応できる人材育成を目標に、それぞれ教育を行っています」
学部の学び。薬学部薬学科は、2006年から6年制に移行。5、6年次には、コース別演習(東洋医薬学、健康医薬学、高度医療薬剤師の三コース)がある。「高い実践的能力や先進的知識を持つ薬剤師を養成することによって、地方の薬剤師養成拠点として貢献していきたい」
未来創造学部は、国際マネジメント学科と国際教養学科の2学科。「グローバル・アイの教育理念のもと、両学科とも英語または中国語のコミュニケーション能力と、国際的な視野を身に付けます。海外研修の機会も多くあります」
国際教養学科は、文字通り幅広く豊かな教養を身に付ける。国際マネジメント学科は、法律知識を踏まえて国際社会におけるマネジメント学を学ぶ。「両学科とも、各学年に演習やゼミをおき、担当教員と日常的に対話しつつ、個性に応じた進路指導を行っています」
未来創造学部には、スポーツエリートアカデミー(サッカー)が開設された。「クーバー・コーチング資格、JFA公認サッカーC級コーチライセンス、健康運動実践指導者受験資格などの資格が取得可能となります」
リーダー育成に力を注ぐ。「学生一人ひとりに親身な指導」という教育理念を踏まえ、「自分で考え、行動する力」を持つ学生の育成がそうだ。入試のハードルを高くしてリーダー育成の奨学金制度を設けて30人を受け入れている。
リーダー育成に奨学金
「昨年から、このリーダーに選ばれた学生が、他の学生を教えるケアサポート制を取り入れました。授業や就職のことを友達から学んだり、相談できるとあって好評です。留学生が語学を指導するなど学力向上にもつながっています」就職について。「薬学部は、1人に20社近い求人があり安定しています。未来創造学部の就職率は98%。キャリア支援では、北陸経済同友会のトップが授業を持つなど実学、実業現場を重視した指導を行っています」
数多い留学生の進路は?「留学生は1学年150人、全体で600人います。このうち6割近くが日本の大学の大学院に進学します。早稲田大学大学院に14人進学するなど優秀な学生が多いですね」
留学生多く受け入れ
活発な国際交流。提携の海外姉妹校、協定校は12カ国、54校ある。海外へ留学する学生の比率は12.8%と全国6位。外国人留学生を多く受け入れており、外国人留学生数は23位(2010年度)。特に中国からの留学生が多い。「中国では、姉妹校の校舎の1室を借りて、留学生の募集や教員交流を行っています。受け入れる留学生は、今後、タイやロシア、インドネシアなどに広げていきたい。派遣する留学生も短期留学を含めて増やしたい」
クラブ・サークル活動も活発。27の体育会系、16の文化系クラブ・サークルがある。アイスホッケーは創部以来18年連続して北陸、信越地区代表としてインカレで関東の強豪大学と対戦。サッカー部は男女とも地域の優勝候補で、女子サッカー部はインカレ出場を果たした。
「その他にも、卓球部(男子)、柔道部(男子)、個人競技では自転車競技やアーチェリー、トランポリンなどが頑張っています。本学卒業生であるトランポリンの湊和代さんは、ロンドン五輪代表にはもれましたが世界レベルの選手です」
地域貢献は、伝統の街、金沢らしさが色濃い。5月、兼六園観光協会と産学連携プロジェクトに関する覚書を締結。「学生が日本3名園の一つで特別名勝の兼六園で、来園客らに名所の説明や園内施設の案内をしました。国内外から多くの観光客が訪れるように協力していきたい」
6月には、未来創造学部の教授が、郷土の伝統料理を始め、加賀野菜、調味料、酒、菓子など石川の食文化の歴史的ルーツを調査した研究『「いしかわ食文化物語」発信に向けた石川の風土とFOOD文化発信プロジェクト』が県の大学・地域連携研究プロジェクト支援事業に選定された。
地域に信頼される大学
大学のこれからについて。「少子化時代を迎え、大学は特色がないと生き残れません。健康を中心に、金沢医大との提携で看護・介護面も強め、留学生の受け入れなどで国際力も強化していきたい。地域との連携、地域に信頼される大学が前提にあるのは言うまでもありません」。小倉は、こう結んだ。「北陸大学は21世紀が求める大学に向けて、これからも改革・進化を続けていきます」