特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<102>東亜大学
「実学+α」で人材育成
地域に生き、グローバルな思考
人間科学、医療、芸術の多彩な学科を擁する人間教育と実学の総合大学。東亜大学(櫛田宏治学長、山口県下関市)は、1974年の創立以来、医療・健康科学、スポーツ、文化・芸術、教育・心理などの専門性を発展的に融合させ、現代社会に必要な人材を育ててきた。少人数教育と学科の枠を超えて受講できる授業、全国大会で高い実績を上げる硬式野球部、男子バレーボール部など活発なサークル活動、多彩な分野の資格がめざせる就職力、などを誇る。2012年度から、学部学科の統合再編で新学科を設置、コース名称も一新して新たなスタートを切った。このときのキーワードは、「選択と集中」と「融合と創造」。「さまざまな目標や夢を持った学生が集まり、お互い刺激しあいながら学んでいます。どの学部も『実学+α』で、社会で活躍する能力を育成しています」と話す学長に学園の歩み、改革、これからを尋ねた。(文中敬称略)
建多彩な学科の総合大学 就職力と強豪2運動部
大学正門に、3本の石の柱とステンレスの梁のモニュメントが屹立する。「日本の五徳のすばらしい効用にヒントを得たもので、東亜大学の目指す教育の根幹とも言うべき独創、奉仕、健全の精神を象徴しています。梁のステンレス梁は、扇の形から引用、末広、歓び、繁栄を意味しています」と学長の櫛田。
キャンパスは、新幹線の新下関駅近くの小高い丘の上にある。下関市は、関門海峡を挟んで九州からの本州の玄関口。壇ノ浦の戦い、巌流島の決闘、そして幕末から明治維新…日本史の舞台が近くに点在、歴史の息吹を感じる。
建学の精神は、「国際的な場で学術的な研究・教育を実施し、他人のために汗を流し、一つの技術を身につけた人材の養成」である。学長の櫛田が大学を語る。
「これまで『他人のために汗を流し、一つの技術を身につける』を目標に掲げて、人間教育と実学教育を重視した高度職業人教育を進めてきました。これからも、世界におけるわが国の役割を考えながら、変化の激しい社会に対応、幅広い視野と責任を持って仕事ができる人材を育成していきたい」
1974年、東亜大学が経営学部(経営学科)1学部で開学。櫛田 薫ら山口県出身の大学関係者7人の「下関に、人文・社会科学系、自然科学系の学部をそろえ、大学院を有した総合大学を創ろう」という熱意を結集して創立された。
81年、工学部(機械工学科、食品工業科学科、組織工学科)、93年、デザイン学部(デザイン学科)を開設。95年、法学部(企業法学科)、2000年、総合人間・文化学部(総合人間・文化学科)を開設。
01年、法学部に法律学科を開設。04年、経営学部と法学部を統合し、サービス産業学部(サービス産業学科)に改組。工学部を医療工学部(医療工学科、食品安全工学科、医療情報工学科、医療福祉機械工学科)に改組。
07年、総合人間・文化学部とサービス産業学部を統合し、人間科学部(人間社会学科、スポーツ健康学科)に改組。デザイン学部に4年制大学でファッションからヘア・メイク、健康科学・心理学、経営学までを統合した、美容師の国家試験受験資格を取得できる日本初のトータルビューティー学科を開設。
07年の大きな改革を牽引したのは、第4代学長の劇作家の山崎正和だった。「山崎学長は、建学の理念に繋がる『地域に生き、グローバルに考える』を提唱、国際化を迎え、広い視野を持った学生を育て、国家資格取得を中心に高い専門知識や技術を持った人材を地域社会に送り出したいという強い思いを改革に向けました」
後を継いだ中澤淳学長が改革を更に進めた。09年、医療工学部を医療学部に名称変更。現在、医療学部(医療工学科、健康栄養学科)、人間科学部(心理臨床・子ども学科、児童教育専攻、国際交流学科、スポーツ健康学科、保健体育専攻、柔道整復コース)、芸術学部(アート・デザイン学科、トータルビューティー学科)の3学部、7学科、20コース体制。大学院博士課程と通信制の大学院(修士課程)を持つ。
1049人の学生が学ぶ。学部学生は、男子が7割、女子が3割で、出身地は、山口県内が23%、次いで福岡県で20%を占める。留学生は14%である。「福岡の北九州市は指呼の間にあり、関門海峡を渡ってくる学生が結構います」
初年次から少人数教育
学び。少人数教育とリメディアル教育に傾注する。「初年次から少人数教育のプログラムを設けています。高校までの勉強では分野や領域に偏りができ、理解が十分でない場合もあります。これらを補うためにリメディアル教育に力を入れています」実学を重視する。各学部で、様々な資格・免許が取得できる。幼稚園から高等学校までの各教諭一種免許状、保育士、管理栄養士、臨床工学技士、救急救命士、柔道整復師など多岐にわたる。
資格取得を厚く支援
「公務員や教員採用試験対策講座だけでなく、これらの試験対策講座で学生をバックアップしています。資格取得をきっかけに、自分の能力やその専門性を高めることは自信にもつながります」資格修得の重視は、就職力とも関係する。「就職率は、リーマンショックの時よりは向上していますが、東京や大阪など大都市の大学に比べると厳しい面はあります。各学部とも国家試験合格など資格を取るよう指導していますので、就職をせずに研究生などの立場で資格にチャレンジする学生もいます」
就職内定を獲得した4年生が、自らの体験談を発表する会がある。「成功談だけでなく、失敗談など具体的な話が聞けます。3年生は、自己分析、企業・業界研究、筆記試験面接対策など就活全般について生の情報が得られると好評です」
グローバル化に対応できる人材育成を目指す。「東アジアを中心に大学間の学術交流・学生交流を行っています。また、海外での就職も意識して、韓国・釜山で夏休みを利用した海外インターンシップも実施していす」
同大には、韓国77人、中国26人、ベトナム1人の104人の私費外国人留学生が在籍している。「近いこともあって韓国の留学生が多い。日本人学生と外国人留学生との交流を積極的に行い、異文化理解を深めています」
スポーツ系のクラブ活動が盛んだ。なかでも硬式野球部と男子バレーボール部は強豪で、プロ野球選手および日本代表選手を輩出している。野球部は、大学野球の最高峰である明治神宮野球大会を3度制覇している。
スポーツは人間教育
「本学のスポーツは、人間教育を第一に考えます。野球部もプロの選手を育てることが目的ではなく、文武両道で正規社員として就職させることに主眼を置いています。男子バレーボール部も実業団でチームの要として活躍する選手が多いのも同じ理由からです」地域貢献活動。「コミュニティークラブ東亜」は、会員制で、市民が運営する市民講座。「本学の教員らがサポートし、語学、健康、パソコンなど41講座あります。高齢者も多く参加して市民に人気があります」
「こども未来塾」は、土曜日の午前、子どもたちを大学によんで、遊びや勉強の面倒をみる。「学生が前面に立ってイキイキと行っています」。医療学部の学生は、AEDの研修や、地元のマラソン大会や運動会のサポートなどを行っている。
大学のこれから。「実学を重視した人間教育は、変わることなく進めていきます。一人ひとりの学生を大切にし、実習体験を重んじ、現場で考えることのできる学生を育てていきたい。医療、スポーツ、文化・芸術、教育を柱に、時代や地域のニーズに応えていくことは言うまでもありません」
こう締めくくった。「地域に生まれ、地域に育てられてきました。これからも地域に活かされる大学でありたい。東アジアに近いという立地を活かし、日本とアジアの架け橋となるような大学を目指したい」。かつて大改革を断行した第4代学長の山崎正和が唱えた「地域に生き、グローバルに考える」という思いと重なった。