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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<100>安田女子大学
 様々な支援で誇る就職力
 英語教育に傾注 自立した女性を社会に

 「柔(やさ)しく剛(つよ)く」が学園訓である。安田女子大学(瀬山敏雄学長、広島市安佐南区)は、1966に文学部単科の女子大学として開学。学園創立以来、一貫して徳育と知育を目指した全人教育を施してきた。広島技芸女学校に始まる学園の歴史は、原爆の被害とその後の混乱の時代を乗り越え、現在では7学部を擁する総合大学に発展した。2011年に日本の大学では3校目となる書道学科を設けた。来年度には現代ビジネス学部に国際観光ビジネス学科を新設する(届出設置書類提出中)。英語教育に力を入れつつ、硬筆書写講座を必修にするなど多様な取組みを行う。様々な学生支援策によって経済状況に左右されない高い就職率と低い中退率を誇る。「人生は『楽しい』ものでありたい。大学は『楽しい』ところでありたい」「心を磨き、自らの行動に責任をもち、社会で生き抜く力をそなえた女性を社会へ送り出し続けていきたい」と話す学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)

学園訓は「柔しく剛く」

 学長の瀬山が学園訓を説明する。「『柔しく』は、人徳や協調性を持った円満な人間性を示し、『剛く』は、積極性や判断力や行動力を示す言葉です。知識や技能に長けているだけでなく、豊かな人間性を持つ良き女性を育てる伝統を誇りとし、自立した女性を社会に送り出したい」
 安田女子大学は、1915年に安田リヨウが創立した安田学園(広島技芸女学校)が淵源だ。世界で最初の原子爆弾によって学園は破壊、安田五一初代理事長ら多くの犠牲者を出した。しかし、「惨禍に志を曲げることなく、残された教職員そして学生は学園の復興に取り組みました」
 戦後の1955年、安田女子短期大学(保育科)が開学。66年、安田女子大学文学部(日本文学科・英米文学科)が開学。2003年、現代ビジネス学部を増設。続けて2004年、家政学部(生活デザイン学科・管理栄養学科)を増設。07年、薬学部薬学科(6年制)を設置。
 「薬学部は、地域の女子大として地域のニーズにも応えていきたいということもあり設置しました。総合大学化は、女性の選択の幅を広げ、女性が平等に均等に活躍してほしいという願いも込められています」
 11年の文学部書道学科の設置。それまでの文学部日本文学科書道文化専攻を抜本改組した。「表現(作品研究)と書学(理論研究)を両輪に豊かな書道能力を身につけ、広く社会に貢献できる職業人の養成が目的。書道の教員になるなど就職率は100%です」
 12年、文学部を発展改組して教育学部と心理学部を設置。「「教育学部は、高度な専門性と広い視野、深い愛情を持った全人教育を実践できるプロの教師を育てたい。心理学部は、社会の中で、人の心理がどう関わり、成長を遂げるか。『人』という存在そのものを、改めてとらえ直したい」
 14年、看護学部看護学科を新設。「4年間の教育によって看護師だけでなく、助産師、保健師の受験資格も取得し、地域医療に貢献する人材育成を目指したい。患者の心を思いやり、患者の立場に立つ看護師になってほしい」
 現在、文学部・教育学部・心理学部・現代ビジネス学部・家政学部・薬学部・看護学部の7学部に3859人の学生が学ぶ。学生の出身地は、広島県内が8割で、残りが中四国、九州だという。
 学びについて。グローバル時代を迎え、英語教育に力を入れる。28名のnative speakerによる英語教育を通して国際感覚を強化。全一年生を対象に「英語コミュニケーション」を開講している。
 「文法や難解文読解はさておき、まず話すことに取り組みます。文学部英語英米文学科では、専門科目は全て英語で授業を行い、2012年度入学生から全員が2年次後期の6ヶ月、アメリカに留学する『STAYS』を実施しています」

硬筆書写講座を開設

 英語力強化だけでなく、美しい字が書けるようになるため全学生対象に開設する硬筆書写講座。「書道学科の卒業生に来てもらってペン習字を学びます。履歴書を書くときや、就職してからも役立つと好評です」
 学びは、授業をする教室だけでなく、授業以外の課外活動や、学内外の活動でも、教職員が連携して学生を全力で支える。「就職率の高さや中退率の低さは、教職員の熱意と学生の意欲の表れです」
 学習支援センターとキャリアセンターの存在。「学習支援センターはインターンシップや課外講座、ボランティア活動などの情報提供や取り組みを支援。キャリアセンターは就職活動に向かう3・4年生向けに、就職情報の提供やマナー講座・面接対策を実施しています」
 チューター制度は、各学科の教員が、その任を担う。「1年から4年まで、履修指導や就職、さらには生活面まで親身になってチューターが相談に応じています」
 その就職力。2014年3月卒業生の就職率は97.8%。どの学部も就職率は全国トップクラス。安田は就職に強いと言われるが、就職だけにことさら注力しているわけではないという。
 「学生の一人ひとりが抱くライフプランを重視し、その実現のための指導をきめ細かく行っています」。大阪で開催の合同企業説明会にバスを仕立てて参加したり、就職活動を終えた4年生による学生就活サポーター制度もある。

低い大学中途退学者

 高い就職率に加え、同大の自慢は、中途退学者が極めて少ないこと。中退率は1学年で1%未満である。「入学した以上、できるだけのことをして卒業させたいと、全教職員が熱意を込めて学生の指導にあたっています」
 先輩や仲間との絆が強い。オリゼミ(オリエンテーションセミナー)は、1976年から続く同大の伝統行事。毎年5月に新入生を対象に江田島青少年交流の家などで2泊3日で行うグル―プ研修。
 「上級生が6カ月かけて準備します。学生の学生による学生のためのセミナーで、団体生活の中で有意義な学生生活を送るための人間関係の基礎を築きます。各学部学科で独自の研修や語らいの時間を用意、先輩たちの演出に感動、新入生は最後の日は泣きじゃくるほどです」
 地域貢献も活発。取材に訪れた当日の地元紙に、こんな記事が載った。〈安田女子大の学生が5月18日、平和学習で広島を訪れた修学旅行生の受け入れを始めた。同世代の視点を生かした案内と交流で「ヒロシマ」を身近に感じてもらうねらい。平和記念公園を巡って意見交換した〉
 同大の現代ビジネス学部の畑井淳一准教授のゼミで学ぶ3、4年生12人が、静岡県裾野市の須山中3年生22人をガイドした。原爆慰霊碑では、「被爆者が全員亡くなる日がいつか来る。若い世代が受け継ぐのが大事」と呼び掛けた。
 書道学科の学生もボランティア活動で活躍。県立美術館で開催された新聞社主催の書道展ワークショップ「書の未来へ」では、書道学科の学生13人が講師役になり、参加した小学生や中国など3カ国からの留学生らと書の世界を楽しんだ。
 「本学の学生は、素直で真面目な子が多い。ボランティア活動も公民館や学校での子どもたちへの読み聞かせなど地道なものが多い。大学としては、こうした地道な活動を支援していきたい」
 大学のこれから。2015年には、学校法人安田学園は創立100周年を迎える。「女子大であり続ける。女性が精神的にも実際も自立するために全力を注ぎたい。これからも、学生はもちろん、時代や地域社会の声に耳を傾けながら、学生を『柔しく剛く』育てていきたい」

背筋を伸ばせ胸を張れ

 最後を学園訓で締めくくった。「背筋を伸ばせ、胸を張れ、と常に学生には言っています。この大学を胸を張って出ていってほしい。『柔しく剛く』を体現できる女性を送り出すことによって社会に貢献したいのです」