特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<97>高千穂大学
実践的な実学教育施す
コース制導入少人数教育「五位一体」で学生支援
校章には稲、鏡、鵄が刻まれている。稲は「知性(知)」、鏡は「徳(真心)」、鵄は「体(勇気)」を意味する。創立100年を超える高千穂大学(藤井 耐理事長、並木雅俊学長、東京都杉並区)は、商学・経営学を通して社会に有為な人材を送り出してきた。学風の指針は、「常に半歩先立つ進歩性」。学風の目標は、中庸及び心の交流を大切にする「偏らない自由人」、精神的強さ及びスケールの大きな「気概ある常識人」、他者を配慮、思いやりを有し、グローバルな視野を持つ「平和的国際人」。開学以来、一貫して人間形成に重点をおいた私学観と、実学教育、国際教育は少人数教育によって実現可能であるとした教育観に基づいた教育を行ってきた。2001年、経営学部を新設、大学名も高千穂商科大学から高千穂大学と改め、実践的な実学教育が可能となるコース制を導入。「高千穂大学の主役は学生です。就職支援も含め、理事会、教員及び職員が一体となって学生の成長を願い、努力を続けています」という理事長に学園の歩み、改革、大学のこれから、などを聞いた。(文中敬称略)
学風の指針 常に半歩先立つ進歩性
高千穂大学のキャンパスは、東京都杉並区の緑多く閑静な住宅地のなかにある。善福寺川、杉並大宮八幡宮に隣接。緑が多く、自然と文化の調和がとれている。武道場(大正二年築)は区内最古の木造学校建築として杉並区指定文化財に指定されている。
高千穂大学は、1903年、創立者の川田鐡彌が豊多摩郡大久保村(現在の東京都新宿区)に開設した高千穂尋常小学校が淵源だ。07年、高千穂幼稚園を開園。09年、高千穂中学校(旧制)を開校。明治大正期には、幼稚園・小学校・中学校・高等商業学校を擁する一貫教育が評判で、上流階級の子弟が学ぶ名門校だった。
1914年、国内初の私立の高等商業学校である高千穂高等商業学校(旧制)を開校。44年、高千穂高等商業学校を高千穂経済専門学校(旧制)に改称。46年、 杉並区大宮町(現在地)に移転。高千穂の由来は、川田鐡彌が高千穂小学校と名付けたのが嚆矢。
1950年、新学制の移行に伴い、高千穂商科大学としてスタート。90年、商学部経営学科を設置。2001年、高千穂大学に校名を改称、経営学部を設置。03年、創立100周年を迎えた。07年、人間科学部人間科学科を設置した。
学風の指針は、1981年、川田鐡彌が朝礼で話した訓話を、今日的な表現に変えて作った。藤井が、「常に半歩先立つ進歩性」について説明した。
「どんな状況下においても諦めることなく、たとえゆっくりとでもいい、前に向かって継続的に歩みを止めることなく進もうとするチャレンジ精神を養うことです。経済社会が激動の渦中にある現代(いま)、現状を把握し未来を見据える確かな先見性とチャレンジ精神を有した人材が求められているのではないでしょうか」
2001年の経営学部開設。経営学部の起業・事業承継コースは他大学にはあまり例をみない特色あるコース。「経営者やコンサルタントを講師に招くなど独自のカリキュラムで企業の後継者や起業家を育成します」
2011年、経営学部に新たに経営法務コースを設置。「現代社会では、自社の利益追求に並行して、CSRと略されることが多い企業の社会的責任が求められます。このCSRや企業にかかわる法律、企業におけるコンプライアンス(法令遵守)のあり方などを学びます」
07年の人間科学部・人間科学科(人間科学専攻・児童教育専攻)の新設。「創立者の川田鐡彌先生が唱えた建学の理念である『人格教育』を学部教育において実践することを意図して設置しました」
現在、商学、経営学、人間科学の文系3学部に約2000人の学生が学ぶ。少人数制を活かした教育。1年次からのゼミナールは単に専門知識の習得のみならず、人間形成に大きな影響を与えている。
ゼミⅠは必須単位
初年次生は、少人数(10~12人)クラスのゼミⅠが必須単位。「ゼミⅠは、2年生のゼミⅡ、3年生のゼミⅢ、そして4年生のゼミⅣの基礎・基盤で、高千穂ゼミ教育の体系の一つを担っています」ゼミⅠでは、大学生としての基礎的なスキルを学ぶ。「ゼミⅠでは共同で口頭発表します。発表テーマの決定、調査、整理、発表準備などの共同作業をすることがコミュニケーション能力の向上につながっています」
ゼミⅠ担当教員は、ゼミ学生一人ひとりをサポートするアドバイザーの役割を担う。「学生が抱える様々な問題の早期発見とその対応を図るため、年間を通じて常にアドバイザーとして積極的に学生に働きかけを行なっていきます」
各学部の学び。商学部はビジネスを中心とした実学を学び、社会に出たときに即戦力として活躍できるよう取り組む。「2年次から選択できる専門コースは、会計、金融、マーケティングの三つの柱を設け、3年間かけ、学生一人ひとりが各分野で専門性を深められるようになっています」
経営学部は、自分の立場ではっきり行動できる主体性、自分の意思で考え行動できる自主性、失敗を恐れず何事にも挑戦する存在感のある人間・ビジネスパーソンを育成する。「2年次からは専門ゼミや各コースのカリキュラムを通して、それぞれの専門的知識の習得と能力の開発に努めます」
人間科学部は、ほんとうの意味での「教養」を身につけた人間の育成をめざす。「日本の大学でいう教養は、米国の大学のリベラルアーツに由来。教養とは、専門知識では対処できないような事態に対処できる、幅広い視野と応用力です。本当の教養を身につけられるよう指導しています」
大学院は、1996年に修士課程、98年に博士後期課程を設置した。「大学院経営学研究科では、社会人が仕事と両立可能な『土・日コース』も設定しており、多くの社会人が本学大学院で学んでいます」
資格取得の課外講座
充実の就職支援。就職指導では、社会人としての心構えを説いている。税理士を目指す学生に対する特別なプログラム、社会保険労務士、販売士、保育士などの資格を得るための課外講座がある。昨年度の就職率は、97%だった。「就職委員会・就職支援課が中心となり、自己の適性に応じた企業に就職できるよう指導。3年次から始まる就職ガイダンスをはじめ、職業適性検査、グループディスカッション、個別面談など多彩なプログラムを組んでいます」
地域貢献も活発だ。90年から、地域の住民が学生と一緒に受講できる講座(1年次の総合科目)を設けた。2006年、新日本スーパーマーケット協会が産学の協力による共同研究を促進する目的で冠講座を提供。「この講座は地域の方も受講できます」
藤井は、「開学以来今日まで、伝統の少人数制教育を堅持しつつ、未来を見据えたカリキュラムの構築など大学改革に取り組んできました。少人数教育による暖かい学園文化の下、理事会、教授会、事務局、同窓会、そして父母の会から構成される五位一体による学生支援システムが構築されています」と現状を語るとともに、大学のこれからを述べた。
家族主義的教育共同体
「学生の質保証と連動して、FD活動により教員の質もさらに高め、入口(入試)から出口(就職)まで、学生の思いを実現させ、社会に評価されうる学生育成の実現に向け努力していきたい。それには、『家族主義的教育共同体』という学園文化の下、教職員が日々学生と触れ合い、学生の成長を願いつつ、より一層の努力を傾注させることだと思う」藤井は、家族主義的教育共同体、少人数教育、五位一体という三つの言葉を拳拳服膺しているように語るのだった。