特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<94>福島学院大学
地域に開かれた大学
GPAを導入資格取得を重視 実学に根ざした教育
「真心こそすべてのすべて」が建学の精神である。福島学院大学(玉井 寛学長、福島市宮代)は、70年にわたって県内の女子教育を担ってきた。1966年、緑ヶ丘女子短期大学が開校。68年、福島女子短期大学に校名を改称。2000年、福島女子短大から福島学院短期大学に改称して男女共学に。03年、4年制の福島学院大学(福祉学部)が開学。男女共生社会の担い手として地域社会に開かれた大学を目指し、実学に根ざした教育を行っている。社会の第1線で活躍した講師による実践重視の教育、GPA(Grade Point Average)と呼ばれる成績評価制度、資格取得を重視した就職支援が特長だ。2011年の東日本大震災で、本館が倒壊したが、12年5月に新本館が完成、復興は着実に進む。「これからも地域社会の様々な要望に応えることのできる人材を育成していきたい」という学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)
「真心」備えた学生を育成
震災から着実に前へ
東日本大震災から3年目の2014年3月11日、JR福島駅に大震災をモチーフにした壁画のオープンセレモニーがあった。この制作に携わった福島学院大の教員と学生も招かれ、犠牲者の冥福を祈るとともに復興への誓いを新たにした。
同日午後2時46分、3年前と同じように春休み中の福島学院大では教職員が黙祷をささげた。同震災では、学内で人的被害はなかったが、岩手県久慈市に帰省中の学生一人が津波の犠牲に。学長の玉井が震災を振りかえった。
「震災の前と後では学生が変わりました。学ぶ姿勢が前向きになり、地域のためにと、ボランティア活動も意気込みが違います。震災後に、この大学で学びたいと来てくれる学生がいることに教職員、在学生は元気付けられています」
福島学院大学は、創立者の菅野慶助、菅野八千代が1941年に洋裁教育を通じての婦人の教養及び社会的地位向上を目的として開校した福島高等洋裁学院が淵源だ。菅野慶助は、「真心」を身につけた学生の育成を建学の理念とした。
66年開学の短大は当初、保育科のみだったが、68年、服飾美術科、食物栄養科を、71年には夜間部にあたる保育科第2部を開設。その後、秘書科、生活教養科、福祉心理科を設置した。
03年に4年制大学の福祉学部福祉心理学科を開設、07年、大学院を創設、09年に最初の修了生を送り出した。現在は短期大学部を含む2学部5学科の構成だ。学長の玉井が大学を語る。
「開学以来、感銘と感動を与え、知的好奇心を喚起する授業を行い、新しい時代を担う世代のための教育を心掛けてきました。これからも学生自身や社会のニーズに応え、個性の発見と育成に努めつつ、地域社会の様々な要望に応えた未来を拓く人材を育成したい」
福島市内に二つのキャンパスがある。06年、福島駅前キャンパスを開設。同駅前から歩いて5分で、地元の住民と触れ合いながら実践的学習を行う。郊外にある宮代キャンパスは、瀟洒な学び舎を花と緑と野外彫刻が囲み、心を癒す。
現在、4年制の福祉学部福祉心理学科、大学院心理学研究科(修士課程)、短期大学部(保育科第1部、同第2部、食物栄養科、情報ビジネス科、専攻科福祉専攻第1部、専攻科保育専攻第2部)に870人の学生が学ぶ。男女比は、短大が女子7・男子3、大学が女子6、男子4だが、短大の男子が増えている。
短期大学部は、幼稚園教諭、保育士、栄養士、ビジネス実務士、情報処理士などをめざす。「様ざまな職種に対応できるカリキュラムや特別講座の開講などで資格取得をバックアップ。各分野で社会の要請に応えるエキスパートを養成します」
専攻科は、短大卒業後の1年間の教育課程で必要な単位を取得して国家資格を修得する。「専攻科福祉専攻第1部であれば、保育士資格を持つ人は、1年間の教育で介護福祉士資格の取得を目指すことができます」
4年制の福祉心理学科は3コース。社会福祉・精神保健福祉コースは、主に社会福祉士、精神保健福祉士、児童福祉・カウンセリングコースは、主に保育士、カウンセリング実務士、社会福祉士、臨床心理コースは、主に認定心理士、カウンセリング実務士、精神保健福祉士、というようにそれぞれの国家試験受験資格等の取得をめざす学生を支援する。
実践重視の講師陣
実践重視の講師陣。社会の第1線で活躍した(または現役で活躍中の)講師が多い。「教科書の中だけの知識ではなく、経験に裏打ちされた実践的な講義を行っています。少人数教育で、自分らしい答えを導きだす思考法を身に付けさせたい」独自のGPAを活用し、成績評価を行うことで評価の公正化と厳格性を獲得。「学生の質保証を担保する制度で、取得単位数に見合う公正な評価を行い、本人のやる気を重視しています」。短大から福祉学部への編入などの進学条件としても利用している。
就職支援。自分の好きな仕事に就くため、資格取得はその強力な武器となる。「各学科でいくつかの資格を取得することができますが、それだけを目標とはしないで、資格を使いこなせるよう指導しています」
保育士資格を取った学生には都内や首都圏から多くの求人が来る。「学生は震災復興に役立ちたいという思いがあり、悩むようです。震災後、地域に根付いて仕事をしたいという学生が増えています」
体育実技に完全種目選択制(保育科第2部を除く)を導入しているのも珍しい。種目はサッカー、エアロビクス、ボウリング、スキー、スノーボード、合気道など全部で25種目ある。
「学生が生涯継続して運動やスポーツに親しむ技術と習慣を身につけることがねらいで、種目ごとに最低到達目標を具体的に設定、評価基準を明示しています」
ユニークなサークルも
サークル活動も活発だ。福島は、そばの本場で「手打ちそばクラブ」というユニークなものも。「YOSAKOIクラブは県内外のイベントで活躍。ハンドベルクワイアは、入学式や卒業式など大学の行事から保育所や福祉施設、さらにテレビやラジオなどで演奏を披露しています」地域貢献。災害ボランティアクラブという学生サークルがある。「東日本大震災で仮設住宅に住むお年寄りの話を聞く“傾聴ボランティア”をはじめ、養護施設を訪問するなど、地域に根差した心に寄り添う活動を行っています」
福島駅前キャンパスでの公開講座。聴講生は無料で授業を受けることができ、社会人に人気だ。同キャンパス3階には「心理臨床相談センター」がある。「精神科医師、臨床心理士、カウンセラーらが常駐、発達・情緒障害を持つ子どもや家族の相談に応じています。相談は、年間延べ4000人になります」
大学のこれから。「今後とも、地域に根差し、地域とともにある大学であり続けたい。駅前と宮代の二つのキャンパスで、これまで以上に市民、地元とコラボしていきたい。その根底に、真心こそすべてのすべてという建学の精神があるのは言うまでもありません」
夢のある素敵な卒業式
福島学院大学の卒業式は、毎年、『ツァラトゥストラはかく語りき』で始まる。リヒャルト・ シュトラウスが1896年に作曲した交響詩。映画『2001年宇宙の旅』の冒頭で使われている。荘厳な交響詩は、震災から立ち上がり未来に向かって歩む福島学院大学とコラボしているようだ。何とも夢のある素敵な卒業式ではないか。玉井の最後の言葉とも重なり合った。「感銘と感動のある人生ほど素晴らしいものはありません。一つひとつの発見や驚きが、人生に若さと新鮮さを与えてくれます。そうした『ひとを育てる教育』によって、感銘と感動を素直に表現できるひと(学生)を育てていきたい」