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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<93>尚美学園大学
 地域に根ざした人材育成
 学部・学科越えて学ぶ きめ細かな学生支援策

 美を尊ぶ(尚ぶ)、これが校名の由来である。尚美学園大学(松田義幸学長、埼玉県川越市)は、二〇〇〇年に開学した新しい大学。建学の精神は、『智と愛』。前身は音楽学校だったが、短期大学から四年制大学になり、芸術情報学部と総合政策学部の二学部の総合系大学へと発展した。音楽・芸術・映像の分野に加えて社会科学・スポーツの学びを配置、これらの分野のコラボレーションを目指す。学部・学科の枠を越えて学べるカリキュラムやきめ細かな学生支援が特長だ。日本では少ない音響学やジャズが学べるコースなどがある。地域社会と産学官民の協働による「地域振興プロジェクト」に力を入れる。女子スポーツが活発で、日本女子野球協会が初めて公認した女子硬式野球部は強豪だ。「不確実な時代、地域に密着した課外活動を通じての高等教育、同時にグローバル化に対応した古典教養教育によって、社会の各分野で活躍する人材を育てたい」という学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)

建学の精神「智と愛」
音楽系から総合大学へ

 尚美学園大学は、1926年に音楽家・赤松直が東京市本郷真砂町(現東京都文京区本郷)に開設した私塾「尚美音楽院」(現在の専門学校、東京ミュージック&メディアアーツ尚美)が淵源である。
 1972年、赤松直の長男、赤松憲樹が学校法人尚美学園を設立。81年、尚美音楽短期大学(音楽学科、音楽情報学科)が埼玉県川越市に開学。86年、尚美学園短期大学に校名変更、音楽ビジネス学科を開設。
 2000年、尚美学園大学は埼玉県川越市下松原に上福岡キャンパス(芸術情報学部音楽表現学科、情報表現学科)、同市豊田本に川越キャンパス(総合政策学部総合政策学科)を設け、2学部3学科の4年制大学として開学した。
 学長の松田が大学を語る。「開学の指針は『勇気・創造』です。音楽を中心とした芸術分野はもとより、学術に携わる者にとって常に新しい分野・世界に勇気をもって果敢に取り組みます。それとともに、自ら新しい分野・世界を創造し、その創造したものを他者に対し勇気をもって表現できる人材を生み育てます」
 04年、大学院総合政策研究科、06年、大学院芸術情報研究科を開設。07年、総合政策学部にライフマネジメント学科を開設。13年、上福岡キャンパスの芸術情報学部を川越キャンパスに移転・統合。同年、音楽ホール「尚美パストラルホール」が落成した。同ホールのオープニングの挨拶で、松田は、こう述べている。
 「ホール名は、ここ武蔵野の里山にふさわしい、田園を意味するパストラルとつけました。西洋人にとって田園理想郷アルカディアのイメージは詩人ヴェルギリウスの『牧歌』『農耕詩』の作品から創出され、田園詩、田園曲などとともに表現領域で大切にされてきました。同様なことは日本の文化の歴史についてもいえます」。尚美学園大学を田園理想郷アルカディアに重ね合わせるのだった。
 特長である学部をこえた柔軟なカリキュラム。選択科目の一部として「学部間自由選択科目」がある。「卒業要件単位に加えられます。選択科目で他学部の科目を学ぶことでよい刺激を受け、学習への興味や知識を広げることができます」
 きめ細かい学生支援のひとつがアドバイザー制度。「学生一人ひとりに専任教員がつき、履修状況や個性、将来の夢などを把握したうえで、学校生活や学業の進み具合、進路などをマンツーマンでアドバイスします」
 各学部学科の学び。総合政策学部総合政策学科は、公共政策、起業・経営、情報・コミュニケーションの3コース。「一人ひとりの興味や関心に沿って必要な専門的知識や問題解決力を身につけられるようにコース分けしました。法律、政治、経済、福祉、メディアなど、様々な視点から考察する力を養います」
 ライフマネジメント学科は、文化とスポーツの二コース。文化活動やスポーツ活動をサポートできる人材を目指す。「専門分野の学習のみを行うのではなく、幅広い分野にも目を向け、自分の人生を設計していくことができます」
 芸術情報学部の情報表現学科は、音響、映像、CG・美術、情報・ゲーム、Web応用の五フィールド。「専門的な知識や技術を修得するためには、基礎を固め、それを発展させていく段階的学習で、高度な知識や技術の修得をサポートします」
 音楽表現学科は、ピアノ、声楽、管弦打楽器、ジャズ&ポップス、作曲、音楽メディア、音楽ビジネスの7コース。「多面的な角度から芸術センスを磨くと共に、どのコースでも教養教育を大事にしています。高い専門スキルをもちながら、人間性をも兼ね備えた人材の育成を目指します」
 強豪の女子硬式野球部
 「スポーツも芸術です」。女子硬式野球部監督は、指導力に定評のある元西武ライオンズ投手の新谷博で、2006年から携わる。07年春から翌年春にかけてヴィーナスリーグで3連覇を達成。08年は全日本選手権で初優勝した。

人気の里山讃歌音楽祭

 地域貢献は芸術系大学らしい。「川越宵の市」では学生が毎月、ライブショーを行う。農業高校の埼玉県川越総合高等学校と高・大の教育交流を図る「里山讃歌音楽祭」。高校生と大学生が一緒になってベートーベンの「第九」などを合唱する。
 「川越とその周辺には、里地、里山、田園が残されています。これらは学生にとって教科書なのです。里山讃歌音楽祭は、このかけがえのない自然環境を未来に伝え残し、生命と心を大切に育む人材を育成するのがねらいです」
 「就職は厳しいのは確かだが…」。すべての学科でインターンシップを積極的に採用。「講義だけでは分かりにくい会社の仕組みや、ビジネス現場ならではの問題や解決法などを学び、就職につなげています」
 一方で、地域に根差したハイブリッド型の人材養成を強調した。「音楽で生きていける人はいいけど少数。あとは、音楽関連の仕事につくか、別の仕事をして音楽を楽しむかだ。人生を楽しむ時代、農業をやりながら音楽を楽しんだり、1人3色、4色の人生を送っていい。演劇・スポーツの分野でも同じことがいえる」

来年度から新学科開設

 来年度から芸術情報学部に舞台表現学科(学科長は、富山市民文化事業団で芸術監督を務める奈木隆)と音楽応用学科(学科長は、アスキー創設者の西和彦)の開設を予定している。2人は、松田との対談で抱負を述べている。
 奈木 エンターテインメントは、優れたコミュニケーションなのです。新学科の学びを通じて優れたコミュニケーション力を養ってもらい、大学卒業後は、あらゆる国の人たちと協働できる、そういった人材に成長してほしい。
 西 これからは自らが企画・作曲・イベントの設定をして発信する―。これまでの、人間関係と経験、または勘やコツに頼るのでなく、システム的に勉強することで、そんな能動的な音楽人を育てていきたい。
 松田が2人にエールを送る。「奈木さんには、民間活力による芸術振興、新しい舞台表現を切り拓く人材の養成を、西さんには農・食・祭を用いた実践的な学びと武蔵野の里山である川越の地を活かした音楽人の育成を期待しています」

生涯学習で地域貢献

 松田は、東京教育大学卒業後、余暇開発センター主任研究員・研究主幹を務めるなど余暇問題や生涯学習に精通している。同大では、生涯学習の現場で、芸術、音楽、スポーツを始め広く社会の各分野で活躍する人材の育成を進めている。
 「今後とも、社会のニーズに対応した科目群によって、学生には地域社会の生涯学習の現場を指導するにふさわしい高い専門性と教養性を身につけさせたい。それは地域貢献にもつながります」松田は、教育の質を高めるため、生涯学習のステージでも、これから指揮棒を振り続ける。