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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<92>神戸常盤大学
 いのち支えるスペシャリスト養成
 医療、看護教育の専門職
 資格取得の指導充実

  「実学教育」と「人間愛の教育」を、ずっと堅持してきた。神戸常盤大学(上田國寛学長、兵庫県神戸市長田区)では、医療・看護・教育の専門技術や「心構え」を学び、人々を支えるスペシャリストを育てている。学園創立以来、約1万人の専門職業人を社会に送り出してきた。2008年開学の新しい大学だが、前身の短期大学で培った教学のノウハウは大学に引き継がれた。実学を重んじる建学の精神であり、学生が自ら教員と密なコミュニケーションをとりつつ広く深く学ぶ学風だ。きめ細かな少人数制で、医療・看護・教育の資格取得に向けた指導が充実している。開学以来、医療・教育を中心とした専門性を活かした地域・社会貢献活動にも力を入れてきた。「幼児から高齢者まで、また健常者から病者までさまざまな人の『いのち』を心身両面から支えるスペシャリストの養成を目指します」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)

短大で培ったノウハウ活かす
実学と人間愛の教育

 神戸常盤大学は、1908年、神戸中山手通に設立された私立家政女学校が淵源である。校祖、玉田貞也は建学にあたり、「女子に必須なる智識技能を授け、質実健全なる母妻を養成するを目的とする」と宣言した。
 1967年、神戸常盤短期大学(幼児教育科,衛生技術科)が開学。学園創立100周年の08年、神戸常盤大学(保健科学部看護学科、医療検査学科)が開学。「知的、道徳的に優れた技術者を養成し、また成果を社会に還元することにより、国家及び地域社会の発展に寄与する」を新たな建学の精神とした。
 12年、教育学部(こども教育学科)を開設。「昨今、保育士や教員に求められる役割が増しています。高度化するニーズに応える知識や技術、倫理まで身につけるため4年間の教育によって専門性を高めたい」というのが開設理由である。
 現在、2学部3学科に910人の学生が学ぶ。男女比は学科によって異なるが、全体では男子2割、女子8割という構成。学長の上田が大学を語る。
 「スモールカレッジの良さを継承しながら、専門性が高い教育・研究を実践し、『小粒ながらピカッと光る大学』でありたい。日々発展する医療の中で、豊かな感性(Mind)と確かな技能(Skill)をバランスよく備えた人材の養成に力を注いでいます。誇りを持って専門職に従事するキャリア教育に力を入れるとともに、社会や地域のニーズや問題点をみつけ解決していく力を身につけさせるよう指導しています」
 各学科の学び。保健科学部看護学科は、看護師、保健師、養護教諭をめざす。看護に関する高度な専門知識・技術や“いのち”に対する豊かな感性と知性、幅広い人間性を培う。あわせて、知的・道徳的・応用的能力を発揮するための基礎的な能力を養う。
 「保健医療現場の最前線に立つ看護師に求められる資質は多様性を増しています。幅広い教養を備え、高い倫理観、的確な判断力と技術、ヒューマンケアの視点を持つ人材の育成をめざします」
 医療検査学科は、血液や尿などの検体検査、心電図や超音波(エコー)などの生理機能検査、ガン細胞を見つける細胞検査などのデータを集積する能力を身につけ、チーム医療に貢献できる臨床検査技師の養成をめざす。
 「臨床検査技師の専門性の高さは、医師や看護師と同等です。豊かな人間性と高い倫理観を持ち、臨床検査に関する専門的な知識と技術を習得し、医療チームの一員として役に立つ人材を育成。卒業後、製薬会社や医療産業に進む学生もいます」
 教育学部こども教育学科は、保育士・幼稚園教諭一種・小学校教諭一種の、三つの国家資格すべての取得も可能だ。前身の短大幼児教育学科は、創設から40余年の歴史があり、保育現場で活躍している卒業生も多い。
 「1学年が80人の小さな学科なので、学生一人ひとりの個性をふまえた適切な対応をとっています。卒業後も、仕事での悩みを聞き、アドバイスする機会を設けるなど、リカレント教育にも力を入れています」
 同大は、短大時代の1995年の阪神・淡路大震災の被災経験をもつ。地域・社会貢献活動にも、それが反映している。2002年に設置したエクステンションセンターは、生涯学習、地域交流、国際交流の3分野を中心に活動してきた。
 08年、神戸市長田区と地域社会の発展と人材育成に寄与することを目的に連携協定を締結。「地元長田区との地域交流活動はよりいっそう活発になり、学生が 地域の行事に参加したり、大学としてイベントに出店したりと様々な交流の機会が拡大しました」
 13年、地域交流センターがオープン。これまでエクステンションセンターの地域交流部門が担ってきた様々な地域連携・貢献事業をより充実・発展させた。
 その拠点となるのが、「ワイガヤラボ」。「学内だけでなく、地域にも開放されており、大学と地域をつなぐ場。集まった人々が自由な雰囲気の中でワイワイガヤガヤと対話しながらアイデアを生み出すことができるようになっています」

活発な地域貢献活動

 こうした大学の知的資源を地域に還元するセンター活動が活発だ。09年、神戸常盤ボランティアセンターがオープンした。神戸市長田区社会福祉協議会と連携して設立した珍しい組織。阪神・淡路大震災の被災経験をもつ同大だからこそ地域との連携が実現した。
 同センター内には、活動の準備をする学生たちの賑やかな笑い声、真剣な話し合いの声が響いている。「地域の団体や施設などからのボランティア要請に対応する一方、東日本大震災には継続的に支援しています」
 08年、口腔保健研究センターが設立された。09年、同センターの臨床研究のフィールドの主体となる神戸常盤大学歯科診療所がオープン。
 「歯科診療所では、予防処置・健診並びに口腔保健指導を通して、地域の口腔の健康の維持・増進を具現化するため、ワンコインで成人・高齢者の歯のクリーニングと、15歳までの子供のう蝕(ムシ歯)予防処置を実施しています」

グローバル化にも力点

 グローバル化にも力を入れる。米スタンフォード大学やハーバード大学からスタッフ(教授や講師)を招いての講義がある。「国際都市・神戸にある大学として、国際医療・保健活動に貢献できる学生を育てたい」
 就職力。同大の卒業生は、就職後の離職率が低い(全国平均の10分の1)のが特徴だ。キャリア支援課の職員や各学科の教員が一丸となって、きめ細やかなサポートを行う。1年次や2年次といった比較的早い段階から個人面談や相談を実施、一人ひとりの学生の夢や希望を聞き、その実現をサポートする。
 「各学科ごとに就職指導スケジュールを組み、それぞれの分野に合った、より専門的なガイダンスや講座、個別面談などによる指導を行います。また、卒業生たちの幅広い人的ネットワークも役立っています」
 大学のこれからを聞いた。「これまでの路線を堅持しながら、急速に進む技術革新と情報化、国際化の世情に合わせて、自己開発を可能にする基礎学力(リテラシー)を充実させたい。そして、これからも、より質の高い、より元気な、一人ひとりの『いのち』を支えるスペシャリストを育成したい」

学生の潜在能力育てる

 「大学は楽しいところ、勉学は楽しいものだというのが私の信条です。最先端の医療や教育の知識と技術を学び、それを演習や実習で自信に変える過程で、自分自身知らなかったポテンシャル(潜在能力)を見い出すよう育てていきたい」
 上田は、「いのちを支えるスペシャリストの育成」を何度も口にした。その穏やかな風貌、口吻には、凛とした説得力があった。