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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<91>鎌倉女子大学
 女性の可能性を活かす
 専門職の就職支援 豊かな知識と感性育む

 女性の可能性を活かす女子大学を謳っている。鎌倉女子大学(福井一光学長、神奈川県鎌倉市大船)は、学祖・松本生太が1943年に設立した京浜女子家政理学専門学校が淵源である。爾来、豊かで幸せな社会を願い、科学性に根差した女子教育を担ってきた。教育の理念は、「感謝と奉仕に生きる人づくり」、教育の目標は、「科学的教養の向上と優雅な性情の涵養」である。豊かな緑に囲まれたキャンパスには、充実した教育施設・設備が並ぶ。全学挙げての学生支援で、学生の豊かな知識と感性を育み、専門職就職を応援する。教員・保育士や管理栄養士など就職に直結する免許・資格の取得に力を入れる。この教員や保育士養成や管理栄養士国家試験の合格状況は全国上位にランクされている。「教え、学び、互いに切磋琢磨しながら、自らの職能・職域をもって日本の再生に貢献し、真摯に自分自身の未来を実現しようとする学生を育てたい」と話す学長に、学園の歩み、現在、これからを聞いた。(文中敬称略)

教員、保育士 管理栄養士
高い国家試験合格率

 正門からキャンパスに足を踏み入れると、学舎の背後に小高い山がのぞく。取材した2月上旬、木漏れ日が温かく迎えてくれた。豊かな緑、陽光が燦々と美しく近代的な学舎に差し込む。恵まれた教育環境で学生たちは学ぶ。
 ここには、1936年に開設された松竹大船撮影所があった。小津安二郎監督の名作や、山田洋次監督・渥美清主演の「男はつらいよ」シリーズなどが撮影された。2003年、撮影所跡地を鎌倉女子大が取得して大船キャンパスとなった。
 横浜市神奈川区に設立された京浜女子家政理学専門学校の学祖・松本生太は、設立趣意書に、こう記した。「国家は偉大なる母によりて作られ 正しき国民は正しき母により生まれる 偉大なる母 正しき女性は 子女の教育に俟(ま)つものなり」。この思いは、連綿として現代に受け継がれている。
 第2次世界大戦の横浜大空襲で校舎が全焼。焼け残った学寮などを利用して教育を継続。戦後の1946年、鎌倉市岩瀬にキャンパスを移転。1950年の学制改革により、京浜女子短期大学を開学した。
 59年、京浜女子大学(家政学部家政学科)が開学。64年、家政学部に児童学科を増設。66年、家政学部家政学科を家政学専攻と管理栄養士専攻に分離。89年、校名を鎌倉女子大学に改称。02年、日本で初となる児童学部を設置。
 学長の福井が学園の歩みを語る。「学祖の松本生太先生(1880~1972)は、豊かで幸せな社会を願い、科学性に根差した女子教育の普及・向上に尽力されました。学父、松本尚先生(1917~1992)は、『学園こそわが命』を座右の銘とされ、学園の創造に努力を傾注。学祖を支え、幼稚部から大学までの一貫した教育体制を完成されました」
 そして、昨年度から取り入れた総合教育科目の「女性と文化」を説明した。「日本文化の基底に、『女性』性があると言われますが、『女性』性がいかなる意味・役割を担ってきたかを、日本の思想・文化の歴史と諸外国との比較で考えます。さまざまな視点から重ねられた議論を通じて、『文化創造の主体としての女性』の存在や活動を見とどけようという、共学大学ではできない、女子大学ならではの講座です」
 現在、家政学部、児童学部、教育学部の3学部に2369人の学生が学ぶ。

各学部・学科の学び

 家政学部。家政保健学科は、中学校および高等学校一種教諭(家庭)(保健)、養護教諭一種などを目指す。「衣・食・住・消費・教育・情報・介護など生活に関わる分野について、生活者の視点から課題を分析し研究。豊かな教養と実践的な生活スキルをもつ自立した女性を育成します」
 管理栄養学科は、社会的ニーズに応えられる管理栄養士・栄養教諭の養成を目指す。「食、栄養、健康に関するハイレベルな専門知識と技術を学びながら、広い教養と生命を尊ぶ心を育てます。健康管理・給食管理など総合的な栄養マネージメントのできる質の高い管理栄養士を育成します」
 児童学部。児童学科は、幼稚園教諭1種、小学校教諭1種、特別支援学校教諭1種、保育士などを目指す。「誕生から思春期の前までの子どもたちが個性を発揮し、自己実現を達成するためにはどうしたらよいかを各専門分野から研究。21世紀にふさわしい『子どもの専門家』を育てます」
 子ども心理学科は、認定心理士、幼稚園教諭1種、小学校教諭1種、特別支援学校教諭1種などの免許・資格の取得が可能だ。「子どもの心理学的な理解と発達支援を可能にするため乳幼児期から青年期までの発達過程を理解。子どもを対象とした心理療法やカウンセリングなど実践的な援助技法を修得します」
 教育学部。教育学科は、小学校教諭1種免許状、中学校教諭1種免許状(国語)(社会)、高等学校教諭1種免許状(国語)(地理歴史)(公民)、学校図書館司書教諭および博物館学芸員の免許・資格が取得できる。「専門性に富んだ高い教授スキルと深い教育学的人間理解を備えた人材を育てます」
 就職力。就職率は95%超と順調で、職種別では教員への就職が五割を占める。「大学ランキング2013年版」(756大学、朝日新聞出版)によると、幼稚園教員採用数が全国2位(女子大2位)、保育士採用数が全国6位、小学校教員採用数が全国28位(女子大4位)、管理栄養士国家試験合格者数が全国11位。
 同大を代表するサークルのひとつが沖縄舞踊。学内外のイベントで活躍。沖縄との関係は深い。「戦後間もないころ、パスポートを持って横浜港に上陸した沖縄からきた女子学生が受け入れてくれる学校を探し訪ね歩いている際、松本尚先生が彼女たちを温かく向かい入れたのがきっかけです」
 社会・地域貢献活動は幅広い。神奈川経済同友会が主催する神奈川産学チャレンジプログラムでは、家政学部の武井安彦教授ゼミが優秀賞を、徳橋敬一教授ゼミが参加以来4年連続最優秀賞を受賞している。
 また、家政学部の高橋ひろみ准教授ゼミが「鯵の押寿し」で有名な駅弁の「大船軒」と協力、新商品を開発している。鯵の押寿しに赤酢、白酢、ザクロ酢を使い、夏バテ予防の工夫を凝らした夏用お弁当をはじめ、四季折々をテーマとし、JR大船、鎌倉駅などの売店で販売され大好評である。
 大学のこれからを聞いた。「本学は、女子教育に意義を見出し、感謝と奉仕に生きる人づくりを実践してきた道程を変えるつもりはありません」と前置きして続けた。
 「安部内閣の成長戦略にも女性活躍ための推進が謳われています。これまで男子レベルまで女性を引き上げようという時代があったが、こうした矛盾解消型の女子大学論は過去のもの。いまの成熟社会では、女性の新しい可能性をどう引き出すか、にある。そのひとつが、冒頭に述べた『女性と文化』のような講座です。今後とも、女性の持つ役割、価値を探り、文化創造の主体としての女性を育てていきたい」
 女性論となると尽きない。「女子大に学ぶ学生は、二つの文化に触れることができます。父親や兄といった現実社会での異性との触れ合い、そして女子大学で女性を中心に培われる文化です。後者は日常の社会とはまた違った経験を提供しているのではないか」
 「来年度から、教養科目に『女性と健康』講座を加えます。がんの告知など男女によって受け止め方が違うそうです。こうしたことを学生に伝えることも女子大学の役割だと思うんです」。福井は、女子大学が新しい時代の論点になっていくと説くのだった。