特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<88>2つの取組に力を傾注
先進的な高大連携事業 文科省のCOCに採択
高崎商科大学
「モノ」「情報」「組織」「お金」「ひと」「地域」を学び、将来に「つながる大学」を謳っている。高崎商科大学(渕上勇次郎学長、群馬県高崎市)は、商学部のみの単科大学。教育理念は、実学教育と人間性の養成、地域社会への貢献。商学に関する広い知識と深く専門研究し、実社会で活かせる能力と専門性を養う。一人ひとりと深くかかわるキャリア支援で就職力を誇る。現在、二つのプロジェクトを全学挙げて取り組んでいる。ひとつが、全国の商業高校と先進的な高大連携事業を推進するHaul―A(ホール・エー)プロジェクト、もうひとつが文部科学省の今年度の大学COC事業(地(知)の拠点整備事業)に採択された「地と知で(価)値を創出する地域密着型大学を目指して」の具現化だ。「学生に寄り添い、一人ひとりの個性や可能性を見出し、大きく成長・飛躍できるように支援しています」と語る学長に学園の歩み、二つのプロジェクト、これからのことなどを聞いた。
(文中敬称略)
実学教育と人間性養う 地域社会へ貢献
キャンパスは、上信電鉄の高崎商科大学前駅から歩いて5分ほど。瀟洒な学びの園は、2000年の第6回たかさき都市景観賞建築物・まちなみ部門を受賞。テレビドラマや映画のロケ地としても利用されている。
「高崎フィルムコミッションから本学にロケの話が来ます。テレビの『仮面ライダー』などのロケ地になりました。80人から100人の俳優、スタッらが来て食事や宿泊等をすることで、地域貢献につながります」
高崎商科大学は、1906年に創設者である佐藤タ子が高崎市柳川町に開設した私立佐藤裁縫女学校が淵源である。戦後の1948年、佐藤技芸高等学校と改称、61年、佐藤学園高等学校と校名を変更した。その後、現在の高崎商科大学附属高等学校となった。
1988年、高崎商科短期大学が開学。2001年に同短大を発展的に改組して高崎商科大学(流通情報学部流通情報学科)が開学した。2010年、流通情報学部流通情報学科を商学部商学科へ名称変更。現在、1000人弱の学生が学ぶ。男子6割、女子4割、出身地は県内が7割を占める。
学長の渕上が大学を語る。「専門的な教育を施し、産業の興隆や文化の発展に貢献しうる有為な人材を育成するのが目的。あらゆる業界で求められるホスピタリティ精神を修得、流通のプロやITのエキスパート、会計、金融、税務のスペシャリストを育てています」
商学部商学科は6コースある。①流通・マーケティングコース。「情報技術を活用し、流通、マーケティング、インターネットビジネスなどで活躍できる人材を育成」。②情報・メディア・eビジネスコース。「ビジネスの基礎知識と、情報技術やデジタルメディアのスキルや見識を身に付け、ITに強い人材を育成します」
③経営・経済コース。「経営学、経済学、企業実務、企業法務を広く体系的に学び、経営者、起業家を目指す人材を育成します」。④会計・金融コース。「簿記学、会計学、金融、ファイナンス、税務を学び、企業財務や会計・税務関連の専門職を目指す人材を育成」。
⑤観光・ホスピタリティコース。「観光・ホテル等のサービス業のみならず、流通、金融、レジャー、地域行政、医療・介護、社会福祉などの分野で活躍できる人材を育成」。⑥地域・国際・キャリアコース。「公共セクターや企業での活躍を通して、地域社会に貢献できる人材、他者の成長を援助できる人材を育成します」
「Haul―A」を推進
Haul―A(ホール・エー)は、High school and University Link’for Accountingの略で、Haulは「努力して引き上げる」と言う意味。全国の商業高校23校と協定を結んだ。「公認会計士、税理士、商業科教員といった職業会計人になる、という志、明確な目標を持つ協定校の生徒を、特別な指導体制を組んで教育するプロジェクトです。協定校の校長の面談を通った生徒を特待生として受け入れています」
来年度は、青森県三沢商業高校、鹿児島南高校などから入学予定。「高校3年間と大学4年間の合計7年間を通じた学びで、公認会計士や税理士を誕生させたい。彼らは、他の学生の学びの刺激にもなるはずです」
このHaul―Aプロジェクトは、専門学校とも提携したキャリア指導の「PCDプログラム」の目玉。ほかに、▽高倍率の人気企業への就職支援▽教員養成▽公務員養成▽バイリンガル(TOEIC800点以上)のプログラムがある。
文科省のCOC事業に採択の「地と知で(価)値を創出する地域密着型大学を目指して」は、高崎市、富岡市と提携する。全国の大学・短大・高専から319件の応募があり、52件が採択。私立大学では16校が採択され、群馬県内では高崎商大だけ。
COC事業は、自治体と連携し、全学的に地域を志向した教育・研究・社会貢献を進める大学を支援することで、課題解決に資する様々な人材や情報・技術が集まる、地域コミュニティの中核的存在としての大学の機能強化を図る。
「本学が選ばれたのは、これまでの地域貢献活動の実績が認められたのだと思います」。開学以来、ライトウ山崎晴世教授を中心に、地域社会との交流活動として自治体・民間企業との連携事業や公開講座などを行ってきた。
「上信電鉄とは、国際・地域交流センターが中心となり各種イベントへの参加などで鉄道会社の支援活動を実施。また、ネットビジネス研究所は、情報社会における地域発展を目指して共同研究などの産学連携や起業アイデアコンテスト、特別講演などの企画・運営、叢書の発行を実施してきました」
今年度は、地域の声を受け止める地域連携委員会、COC事業を評価する外部評価委員会を設置。地域とのパートナーシップ関係を一層強化するための拠点として、新たにコミュニティ・パートナーシップ・センター(CPC)を設けた。
今後の取組み。「高崎市とは、観光課と連携して『上野三碑(こうずけさんぴ)』など観光資源の開発、富岡市とは、街の活性化のため市のまちづくり課と連携した活動を展開したい。教育面では、カリキュラムに地域志向を重視して地域に役立つ人材養成、地域と連携した研究によって地域の発展に貢献したい」
資格に力入れる就職
就職力。ここ2年間の就職率は95%超。資格・検定対策に力を入れる。この1年間(2012年12月~13年12月)に、日商簿記1級はじめ、日商販売士1級、全経簿記上級、税理士科目試験の財務諸表論・簿記論各1名、公立学校教員選考試験(中学社会科)1名などの合格者があった。学生のサークル活動も活発だ。同じキャンパスに同大学短期大学部が併設されており、大学・短大両方の学生が入り混じって活動している。空手道部は、学内唯一の強化指定部で、東日本大学空手道選手権大会や全日本大学空手道選手権大会、国民体育大会などに出場を果たしている。
人間味ある人材育成
大学のこれからについて問うた。「本学の教育理念は自主・自立の建学の精神に基づいた『実学重視』『人間尊重』『未来創造』です。国公立系とは異なる私学としての特色、社会的な存在理由が、ここにはあります。今後とも、学歴主義に囚われない奔放で屹立した人材教育を施していきたい」。そして続けた。「大学は地域住民の一人であり、地域における知の拠点として、地域社会の政策形成・展開に主体的に関わりを持ちたい。大学が社会・地域に開かれて、みんなが渾然一体となった『協生社会』においてこそ、人間味のある有為な人材が育つはずです」
渕上は、私学の使命と地域貢献の二つを熱く語った。その口吻から、二つのプロジェクトに賭ける学長の志が、びんびんと伝わってきた。