特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<82>自己開発して目標達成
健康・医療・福祉保育・教育分野の スペシャリスト育成
高崎健康福祉大学
健康、医療、福祉、および保育・教育分野のスペシャリストを育てる。高崎健康福祉大学(須藤賢一理事長・学長、群馬県高崎市)は、精神的バックボーンとして「自利利他」の精神を掲げる。「人を愛する心と人に信頼される豊かな人間性」を身につける。健康福祉医療、保育教育の四学部を擁し、管理栄養士、社会福祉士、精神保健福祉士、診療情報管理士、保育士、幼稚園教諭、小学校・中学校教諭、看護師、理学療法士、薬剤師を養成。卒業生国家試験実績を見てもわかるように、強い就職力を誇る。「健大」と呼ばれ市民にも親しまれ、地域貢献活動も熱心だ。学生スポーツでは、アイススケートに力を入れ、2014年のソチ五輪出場をめざしている。「教育・研究の使命は確かな学士力を基礎に21世紀の社会を支え、自立した責任ある社会人を育成することにある」という学長に、学園の歩み、改革、そして今後を聞いた。
(文中敬称略)
スケートで五輪出場へ 強い就職力を誇る
高崎健康福祉大学は、1936年に創立者の須藤いま子が高崎市内に開設した須藤服装和洋裁女学院が淵源である。いま子は「感謝・奉仕・融和」を教育理念に掲げ、「全人教育」を実践した。66年、群馬女子短期大学を開校する。
90年、いま子は志半ばで他界、甥の須藤賢一がその遺志を継いだ。須藤は、就任するや改革に取り組んだ。「学園の永続性を如何に担保するかを考えました。4年制大学の設置に当たって既存の短期大学の改組ではなく、21世紀に求められる人材養成を指向する大学をどのようにすればできるのかが最大のポイントでした」
大学名に健康と名のついた大学は初めてだった。健康、福祉、医療に特化して、ほかの大学との差別化を図った。須藤には、単科系の大学では成し得ない重層的な教育を施したいという思いが強くあった。
2001年に高崎健康福祉大学を設立、群馬女子短期大学を短期大学部にした。
短期大学部は既存の学科の廃止と新設学科の設置を繰り返した。02年には生活学科に児童福祉専攻を設置、03年には看護学科を新設した。大学では、06年に薬学部薬学科(6年制)、短期大学部看護学科の大学学部への改組、10年に理学療法学科を開設…矢継ぎ早に改革を断行した。
「大学改革の目的は、健康、福祉、医療の三つの領域の整備にありました。薬学部の設置は、医療現場に定着したチーム医療とコ・メディカル養成に貢献できる教育体制を確立させるのがねらいでした」
12年、短期大学に唯一残っていた児童福祉学科を人間発達学部子ども教育学科に改組。これにより短期大学部は13年を持って閉校した。
現在、人間発達学部、健康福祉学部、保健医療学部、薬学部の4学部7学科に2267人の学生が学ぶ。須藤が、「自利利他」の精神を説明する。
「大学で学ぶということは人生の礎を築くことです。人はそれぞれ内なる可能性を秘めております。その可能性を現実のものとするには自己開発が必要です。自他に対する受け身の姿勢では何ほどのことも生まれません。自己開発して目標を達成することです」
各学部の学び。健康福祉学部は、医療情報、健康栄養、社会福祉の3学科。「人々の健康と福祉に貢献する専門的人材の育成を目指す学部です。いずれの学科でも、豊かな教養に基づく知性と感性を磨くこととそれぞれの専門分野で基本となる知識・技能をしっかりと身につけることが求められます」
保健医療学部は、看護学科、理学療法学科の2学科。「健康に携わるさまざまな専門職者がそれぞれの質の高い専門知識・技術を出し合って連携して健康支援を行うチーム医療が求められます。チーム医療を担うことのできる看護師、保健師、養護教諭および理学療法士の育成を目指します」
人間発達学部(子ども教育学科)は、「いつの時代も保育・教育は手間ひまのかかる難しい営みです。高度に発達し複雑化した現代においては、それはとりわけ困難さを増しています。国家・社会にとって不可欠で重要な、保育・教育に携わる高い専門性を備えた人材を責任持って育成しています」
薬学部(薬学科)は、「医薬分業体制の進展により、医療現場における薬剤師の役割は、質的量的に多様化しています。自分の目標を定めて積極的に考え行動し、創薬や医療の現場で自らが問題を発見し、解決する能力を持った人材養成を目指します」
就職力。2003年に立ち上げた「キャリアサポートセンター」が、学生の資格取得から就職活動、卒業後のフォローアップまで、トータルにサポート。メインとなる資格以外の資格を取得する複合資格の取得支援に力を入れる。
「数千社におよぶ求人票を学生が自由に検索でき、卒業生の就職先リストや採用試験の報告書なども自由に閲覧できます。専属スタッフが、学生一人ひとりの個別相談や模擬面接を通して、就職率100%を目指しています」
高い国家試験の合格率
2012年度卒業生国家試験実績は、看護師の合格率が95.5%(110名受験105名合格)、薬剤師の合格率が94.7%(76名受験72名合格)、管理栄養士の合格率が88.3%(77名受験68名合格)。地域貢献には「健大らしさ」が漲る。子どもと家族の健康を支援するため、05年、「子ども・家族支援センター」を設立。「子どもと家族における心と体の問題に向けて、小児科医、精神科医、看護師、臨床心理士、ソーシャルワーカー、保育師等の専門家による相談に取り組んでいます」
地域貢献に健大らしさ
06年、「ボランティア・市民活動支援センター」を設置した。登録した学生にボランティア手帖を渡す。ボランティア・市民活動を必要とする施設・病院や団体や県民からの要望があれば、直ちに応えている。東日本大震災の被災地、宮城県亘理町には、この夏も学生が現地に赴いてボランティア活動を行った。子どもたちに元気に遊んでもらうことを目的に、町の児童センターの協力で、子どもとボール送りゲームや鬼ごっこなどを楽しんだ。
「ボランティア活動に参加することは、困っている人たちを支えることによって、コミュニケーション力や社会性が身に付きます。過保護に育った今の学生にとって社会に出てからの財産になります」
スケート部は、創部4年、スピードスケート日本代表監督を務めた入沢孝一監督が指導する。昨シーズンは、インカレ女子1000メートル、1500メートルで阿部友香が2冠を達成、団体総合でも2年連続3位。
「国家資格取得など勉強と練習の両立を掲げ、部員たちは頑張っています。高校で実績を挙げた選手も入部、ソチ五輪をめざして、みんな代表になるつもりで練習に励んでいます。スケート部の活躍は、在校生の励みにもなっています」
大学のこれから。「我が国の社会は年金、医療、介護など将来の見通しは不確かで経済的にも厳しい状況にありますが、本学の使命は、確かな学士力を基礎に21世紀の社会を支え、より良いものとする自立した責任ある社会人を育成することにあります」
具体的には?「懸案だった健大クリニックは来年には出来ます。新しい学科の開設を構想しています。人間発達学部はコース制を学科にして英語だけでなく、数学や国語の教員免許が取得できるようにしたい」
須藤は、繰り返すように語った。「建学の理念を守りながら、現在の困難な時代を突破して我が国の未来を築き、支える健康、医療、福祉、および保育・教育分野のスペシャリストを養成していきたい」
さらなる改革続けたい
そして、「さらなる改革を行っていきたい」と結んだ。須藤は北海道大学農学部出身で、同大大学院修了後、農水省の研究職に勤しんだ。取材の中で、「農学部を創りたいなあ」と笑いながら話した。本気なのか?いや、「改革に終わりはない」という決意を置き替えた表現だと思った。