特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<79>実学重んじ人間力教育
大震災乗り超えネットを利用「復興学」の公開講座
東日本国際大学
儒学を基にした「人間力教育」に力を注いでいる。東日本国際大学(田久昌次郎学長、福島県いわき市)は、社会が必要とする人材になるための「実学」を重んじ、経済情報学部と福祉環境学部の二学部から成る。少人数制のきめ細かな教育、高い就職率、率先して行うボランティア活動が特長。留学生別科があり、留学生教育と国際交流を重視。全日本大学野球選手権ベスト四の実績がある硬式野球部、柔道、弓道、卓球、バドミントンなどのスポーツは南東北地区の強豪。2011年の東日本大震災では学生・教職員の人的被害はなかったが、風評被害による受験生減少など影響を受けた。「3・11からの挑戦」を合言葉に、インターネットを利用した「復興学」の公開講座を始めるなど震災を乗り越え、さらなる深化をめざす。「大学は、学問とともに社会や人生について学ぶ場所。師や友と語り、絆を深めて一生の宝物になる経験を積んでほしい」と語る学長に、大学の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)
高い就職率 活発なボランティア
名誉学長だった小説「徳川家康」で知られる作家、故山岡荘八は、東日本国際大学の前身である昌平黌いわき短期大学設立の意義をこう述べている。
「義の精神は、宏大無限であり、主義主張を超越した大精神である事を諭し、人論(人の道)を行わざる者は、如何に高邁なる思想といえども、その目的を達するものでない事を戒めている。昌平黌精神とは、真理に基づき、平和と繁栄の道を探究し、それをそのまま未来生活の中に実践し、開花させようと努力し続けてきた日本民族本来の『大和こころ』に通ずる精神である」
東日本国際大学の淵源である昌平黌の起源は江戸時代に遡る。1630年に林羅山が上野忍ヶ丘に設立した私塾に始まる。1797年、私塾は、林家から幕府直轄に移り、昌平坂学問所(昌平黌)となった。
1903年、同大の前身である開成夜間学校が設立され、昌平黌の歴史と精神を受け継ぐ。1936年、開成夜学校の校名を昌平中学と改称、48年、学制改革により昌平高等学校と改称した。
1966年、昌平黌短期大学を設立。東日本国際大学は、1995年、経済学部(国際経済学科・経済情報学科)1学部で開学した。翌96年、留学生別科を設置。2004年、福祉環境学部を設置した。
「社会福祉士、精神保健福祉士など社会福祉専門職の養成と社会福祉全般に寄与する人材の育成がねらい。福祉専門職に必要な価値・倫理・知識・技術を理解するとともに、地域の福祉課題に主体的に取り組む能力を身につけます」
07年、経済学部を経済情報学部に改組。「社会のどの分野でも必要となる、経済と情報の基礎的知識と技術、国際的センスを学びます。4コースあって、多くのアジアの留学生と接しながら、社会に貢献できる実践的な能力を磨くことで、確かなキャリアを形成します」
現在、2学部に590人の学生が学ぶ。学びの特長について、学長の田久が語る。「建学の精神として『行義以達其道』を掲げており、この精神を教育・研究・社会貢献等のあらゆる活動において具体化しています。教育においては、儒学に係わる科目を設け、孔子祭を全学生の参加行事としています」
もうひとつの特色が、演習(ゼミナール)中心の少人数教育。「2学部とも全学年で学生は10人以内のゼミに所属。ゼミ担当の教員は、教育面では学習ポートフォリオを、生活面では学生記録を利用、定期的な面談を通じて教育・生活全般にわたる学生指導をしています」
ゼミは、キャリア教育とも連動する。ゼミを中心とする学生、保護者、大学が三位一体となったキャリア教育の一環を担っている。その成果は就職率の向上等に現れている。平成23年度は悲願の就職内定率100%を達成。
キャリアセンターの役割。「卒業に際し、就職先を決めるのではなく、早い時期から自分の将来の進路について関心をもち、進路の選択ができるようアドバイスとサポートをします。学生一人ひとりの個性と能力に応じ、必要なビジネススキルを身につけられるよう指導しています」
留学生教育は、81年の短大留学生別科設置が嚆矢となった。「留学生別科は、多くの外国人留学生および帰国子女を受け入れ、大学及び大学院進学のために必要な日本語教育を行っています」
授業は、少人数クラス制で徹底した直説法による日本語教育は解りやすいと好評。現在、在学生に占める留学生の比率は15%。中国、韓国、ネパール、ミャンマーとアジア諸国が多い。
地域への社会貢献。七夕など地域のイベント、地元自治体の依頼による調査事業、サテライト・キャンパス、地域への公開講座、高大連携などを行っている。「社会貢献は、重要な大学の使命としており、地域の中で地域に貢献し地域と共に生きる大学でありたいと実践しています」。
ボランティア活動も活発。「キャンパスだけではなく、街・地域に飛び出し社会と触れあうボランティア活動を奨励しています。多くの学生が、ボランティア活動を通し、視野を広げ、将来の進路や自分の可能性を発見しています」
「昌平パトロール隊」は、警察庁による防犯ボランティア支援事業。福島県内では初めて本学が指定され、モデル校に。環境問題やリサイクルの啓蒙活動のためのイベント「リユースファンタジーinかしま」では、学生がペットボトルツリーを出展。福島県「集落活性化県民討論会~大学生の力が地域を変える!」では、「地域まちづくり研究グループ」が調査研究結果を発表した。
東日本大震災。インターネットを利用した「復興学」の公開講座は、エジプト考古学者で客員教授の吉村作治が推進した。科目は、「復興学」のほか「日本を学ぶ」、「世界を学ぶ」。1回の講義は60分、「いつでも、どこでも、誰でも学べる無料の公開講座、福島から発信することに意義があります」
「3・11からの挑戦」
震災の記録をまとめた「3・11からの挑戦」を出版。同大の決意は、ここに収められた緑川浩司理事長の言葉に収斂する。「10年後のフクシマは世界に誇れるフクシマになると宣言しているので、福島復興のため、浜通り、いわき市を中心とする大学として、取り組むべきこと、やらなければならない責務を全力で果していく覚悟です」大学のこれからを問うと、グローバル化をあげた。「大学は、時代が要請する国際化を進めると同時に地域の国際化を図る拠点としての役割を担っています。本学はアジアの諸大学との交流が深いこともあり、今後ともアジアを中心とした世界の大学との交流を深めていきたい」
地域の中で地域に貢献
こう付け加えた。「全国高校総文総合開会式での高校生による構成劇『ふくしまからのメッセージ』は、私たちに大きな一歩でなくとも踏み出す勇気を与えてくれました。地域の中で、地域に貢献し、地域と共に踏み出す大学でありたいというスタンスはこれからも持ち続けていくのは言うまでもありません」学長の田久は、建学の精神「行義以達其道」にある「義のこころ」で締めくくった。
「義のこころには、正義、道理、人として生きるための思いやり、礼節、信頼、正直、素直という意味が含まれています。『あなたがいるから、周りの人も優しくなれる』、『あなたがいることで、勇気をもらった』と言ってもらえるような他人を思いやり、心を施すことできる人間性豊かな人材の育成していきたい」