特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<74>知識と技術と人間性育成
風評被害乗り越え志願者回復 学費軽減など改革断行
奥羽大学
高度な専門知識と技術を備えた人間性豊かな人材を育成する。奥羽大学(赤川安正学長、福島県郡山市)は、歯学部と薬学部を擁する医療系大学である。1972年、東北・北海道地域における唯一の歯科大学、東北歯科大学として創設。89年に文学部を開設、同時に奥羽大学に改名した。05年、薬学部を開設。きめ細かな指導体制や最新の医療設備の附属病院での実習が特長だ。09年度、薬学部は新学費制度を導入して学費を大幅に減額、11年度に歯学部は、歯学教育充実費550万円を廃止、入学者の学費負担を軽減するなどの改革を断行。11年の東日本大震災では、歯学部はすぐさま奥羽大学検死チームをつくり、津波被害の被災地に派遣して身元確認業務にあたった。建物の壁や窓ガラスに被害のあったキャンパスはいち早く建物や施設・設備の補修を行い、福島県内の大学では最も早く授業を開始した。昨年度までいわゆる風評被害で志願者が減少したが、今年度から徐々に戻りつつある。大学の歩みとこれからを学長に聞いた。
(文中敬称略)
歯学部と薬学部 きめ細かな指導体制
広大で緑豊かなキャンパスは、東京ドーム4個分の広さ(2万8192㎡)がある。豊かな自然環境で落ち着いて学べる。「四季の花々が咲き乱れ、開放感があるキャンパスで学べるのは幸せです」(新入生)と学生の評判はいい。
学長の赤川が大学を語る。「歴史的にも郡山という都市は、品性と礼節を重んじる気風が培われています。この脈々と続く先人たちの気風を受け継ぎながら、しっかりと学び、高度な専門知識と技量を備え、かつ礼節を知る歯科医師や薬剤師を育成しています」
文学部は04年に募集を停止した。05年の薬学部開設について聞いた。「日本は高齢社会に突入、この地域にあって老人保健医療福祉の向上の担い手の一人である薬剤師を育成するため、歯学部との連携のもと創設しました」
学費値下げの改革について。「学生や保護者の経済的負担を軽減するのがねらいです。薬学部は、全国の私立大学薬学部では最も少ない負担になりました。歯学部は、6年間の学費総額は全国私立歯科大学・歯学部の中で4番目に低く抑えています」
現在、歯学部に336人、薬学部に596人、合わせて932人の学生が学ぶ。男女比は歯学部が男性7、女性3、薬学部が男性6、女性4。学生の出身地をみると、歯学部は関東と東北で半数を占め、薬学部は福島と東北が半々だという。
教育と研究。「教育面では、教育の質保証を重視しています。歯学部は、6年一貫の歯学教育の充実で、歯科医師国家試験合格率を重視したカリキュラムで指導。薬学部は、実務能力を磨く充実した教育プログラムで6年間を徹底サポートし、薬のスぺシャリストを育成しています」
研究面。「両学部とも、教員が研究活動の活性化を進めることで、競争的資金や奨学助成金などの外部資金の獲得を目指します。併せて、国際的な学術交流を推進し研究成果を高めています」
奥羽大学の特徴であるきめ細かな指導体制。歯学部では、全授業科目で学生出欠調査を行いデータ集計。学生個々の出欠状況は、事務局で管理し、随時、学年主任またはクラス担任に連絡され、日々の学生教育指導に利用されている。
「歯学部は、実習インストラクターが学生5人につき1人がついて、一人ひとりの学習の進度をフォロー。薬学部は、5年次に進む前にコミュニケーション能力などを身につける実務実習事前学習を行っています」
東日本屈指の設備をもつ附属病院での実習。「歯学部は、各診療科をグループローテーションしながら、診療参加型臨床実習を行っています。薬学部も附属病院との連携で確かな知識と技術を備えた現場に強い薬剤師を養成しています」
学部の学び。歯学部は、講義で学んだ知識を、自らの手で取り組む実習で理解を深め、附属病院での臨床実習へとつなげる系統的な6年間の一貫教育により、歯科医師になるための基盤を着実に築いている。
「6年間で身につけた能力を試されるのが歯科医師国家試験。大学としても国家試験合格に向けて全力で支援します。国家試験合格後は、臨床研修(1年必修)に入り、歯科医療の総合的な知識・技術の修練を積んでいきます」
薬学部は、入学年から薬学の専門科目を学ぶ。「着実に実務能力を磨くための充実した教育プログラムで実りある6年間をサポートします。正規の課程を修了すると、学士(薬学)となり、薬剤師国家試験受験資格を得ることができます」
薬学部の就職率100%
就職は恵まれている。歯学部は国家試験合格が即就職につながる。薬学部も就職率は100%。「病院、薬局が8割、残り2割が企業や公務員、製薬会社や研究機関で新薬開発などに取り組みます。東北地区では、病院・調剤薬局の薬剤師が向こう10年間足りないといわれているほどです」地域貢献では、「公開講座」を89年度から、歯・薬教育スタッフが地域住民を対象に開催。歯学・薬学や医療の理解を深めるテーマで行う。08年度から「高大連携講座」を開催。県内や近県の高校に同大教職員が訪問、研究テーマに関わる最先端の知見や考え方を高校生に伝えている。
社会・地域貢献は医療系大学らしさがある。「地域住民へ歯学・薬学の新しいエビデンスを紹介し、地域医療機関と連携して安全・安心の医療を提供すべく取り組んでいます」。2011年の東日本大震災の際に、いかんなく発揮された。
「磐越西線の列車が本学前で急停車したため、乗客を附属病院内に避難誘導して支援。歯学部では、奥羽大学検死チームのほか、震災避難者に対する口腔管理支援チームをつくり、郡山市内の避難所で医療相談を行いました」
震災から一早く復旧
大震災は、奥羽大学を直撃した。震災直後に災害対策本部を設置し、被災状況および学生教職員安否等の確認を行い、被害のあった建物や施設・設備の補修に着手。福島県内の大学では一番早い4月20日に全学の授業を開始した。だが、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染の風評被害により、翌年から学生の応募が減少。「少人数でも学生教育重視の信念をもって教育にあたりました。それもあって、一時期減った関西、関東および東北地方からの入学志願者も戻ってきています」
放射能汚染による学生への健康被害について。「フィルムバッジにより学生の放射線積算線量(外部被ばく線量)を継続的に測定した結果、国が上限とする通常時の公衆の年間被ばく線量である1mSvを大きく下回っています」
大学のこれからについて。「大学全入・少子化という時代にどう対応するか、ですが、教育の質をより充実させ、東北の高等学校や本学の同窓生との連携をより強化して奥羽大学のブランド力をもっと高めていきたい」
話は、歯学、薬学に向かう。「わが国では、世界に類をみない速度で超高齢化が進んでいます。この日本にあって、国民の最も大きな関心は単なる長生きではなく、健康で自立 して長生きをする健康長寿だと思います」と、こう続けた。
国民の健康長寿に貢献
「健康長寿に貢献できる職種のひとつが歯科医師であり、薬剤師なのです。歯科医師の仕事は、患者・国民が元気な時も病弱になっても『口から食べる生きる喜び』を支えることであり、薬剤師の仕事は、患者・国民が『安全に薬を使って健康を維持・回復できるようにする』極めて大きなものです」「高度な専門知識と技術を備えた人間性豊かな人材を育成する」。赤川は、この建学の理念を片時も忘れてはいけない、と己に諭しているようだった。