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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<72>世界に開かれた大学へ
 専門性ある教養と判断力 沖縄の特性活かした教育
 沖縄国際大学

 地域に根ざし世界に開かれた大学を目指す。沖縄国際大学(大城 保学長、沖縄県宜野湾市)は、専門性ある教養と判断力を習得することを徹底支援する。社会科学・人文科学を専門とする4学部10学科からなる総合大学。特長は、沖縄に根ざし、世界につながるプログラムを用意した教育。充実した留学制度や奨学金制度、活発なクラブ・サークル活動や海外姉妹大学との国際交流。昨年2月、創立40周年を迎えた。大学の使命に「アジアの十字路に位置する沖縄のポテンシャルを活かし、万国津梁(ばんこくしんりょう)の魁となる人材を育成します」とある。万国津梁は、世界の架け橋という意。1458年に尚泰久王が、首里城正殿に掲げていたという鐘に刻まれた銘文の一部。これを受けて「沖縄の伝統文化と自然を大切にし、理想的な学習環境で人間力を育てたい」という学長に、これまでの歩みや改革、大学のこれからを聞いた。
(文中敬称略)

活発な国際交流 4学部10学科の総合大学

  前号の沖縄大学編では、沖縄の明るい女性から紡ぎ出したが、今回は、沖縄の侃(つよ)い女性から稿を進めたい。「侃」は、強く正しく、実直なさまの意。
 沖縄初の芥川賞作家の大城立裕に「普天間よ」(新潮社)という小説がある。主人公の女性は、普天間に住み、沖縄国際大学を卒業後、那覇市内の新聞社の社長秘書を務める。母が琉球舞踊の師匠で、彼女もその弟子になる。
 米軍ヘリ墜落の様子が書かれている。〈夏休みだが、いくつかの教室に人がいて、私の経済のクラスも10人ほどが補習授業を受けていた。いきなり全身を打撲するような轟音があり、頭がぶるんと震えた。すかさず、「墜落だ!」誰かが叫ぶと誰もが納得した〉
 小説のクライマックスは、主人公の女性が舞踏コンクールを前に稽古をしていたとき、米軍ヘリの爆音が歌三線の音を何分間も消した。〈私の踊りは寸分の誤後もなく音曲に戻れた〉。女性は操縦士の米兵に声を投げた。〈あなたに勝ったよ…〉
 アメリカの施政権下にあった沖縄には沖縄大学と国際大学が設置されていたが、両校は大学設置基準上、様々な困難な問題があるということから、統合に向けて両校の理事会で話し合いが進められてきた。その結果、72年2月、琉球政府の認可を得て沖縄国際大学が設置され、同年4月に開学した。
 HPにある設立趣意書は、〈沖縄・国際大学は、その関係者の合意によって一つに統合し、新設大学を設立することに決定した〉で始まる。
 ここには、両大学統合による「新設大学」設立までの経過と抱負が書いてある。〈戦後沖縄の社会が幾重にも負った桎梏に耐えながらたどった歴史の道程と全く同じ道を沖縄の私立大学も又、同時にたどったのであり…〉という一節は重い。
 大城学長はこう語る。「地域をリードする人材を育て、これまでに4万5000人余の卒業生を送り出してきました。沖縄という地域を動かすには、沖縄の風土や歴史、文化を知ることです。沖縄という地域の精神性やアイデンティティーを深く学べるのが沖縄であり、沖縄国際大学なのです。創立40年の実績を踏まえ、地域・沖縄を動かし、世界に通じる人材を育成していきたい。」
 法、経済、産業情報、総合文化の4学部に、5744人の学生が学ぶ。どの学部も、沖縄の歴史、文化、自然環境など沖縄の特質を生かした教育を行っている。
 法学部は、法律と地域行政の2学科。「国家と法・政治と社会のあり方を考察することを通じて正義・衡平感覚を涵養することを教育研究上の目的とし、豊かな知識と見識を身につけた人材を養成します」 
 経済学部は、経済と地域環境政策の2学科。「社会経済の自立と持続そして発展に寄与することを教育研究上の目的とし、社会の経済と環境についての専門的知識を有し、教養ある人材を養成します」
 法学部の地域行政学科や経済学部の地域環境政策学科は、「沖縄というフィールドが基盤にあって、そのうえで、学びを探求しています」
 産業情報学部は、企業システムと産業情報の2学科。「地域産業分野を活性化し又は創造できる情報化人材の育成、企業経営における高度な経営情報分析能力や国際的ビジネス感覚等を身につけたビジネススペシャリスト等を養成します」
 総合文化学部は、日本文化と英米言語文化と社会文化と人間福祉(社会福祉専攻と心理カウンセリング専攻)の4学科。「人間・社会・文化を総合的に理解することを教育研究上の目的とし、豊かな知性と感性を持つ人材を養成します」
 総合文化学部の日本文化学科には、琉球文化コースがあり、社会文化学科は、「沖縄にこだわり、社会や人間について学びを深めています」

きめ細かな教育施す

 きめ細かな教育が沖縄国際大学の取り得。共通科目は、学部学科に関係なく誰もが自由に学べる。「人文・社会・自然の各系列の教育内容に加えて、本学の教育理念である国際化、情報化、地域社会に対応する九つの科目群から構成、多様な学習の場を提供し、学生の興味に対応しています」
 アカデミック・アドバイザー制は、カリキュラムを活かす制度。「1年次から4年次まで、すべての学生につき、一人ひとりの学習目的に適した履修ができるように、学習面できめ細かく指導。主にゼミの担当教員がその任にあたります」
 日本語英語検定協会やTOEFLなど各団体等が実施する語学検定試験等の成績に基づく単位認定を行っている。対象となる言語は英語のほか独、仏、スペイン、中国語。認定される授業科目があり、単位(1~2)が与えられる。

手厚い奨学金制度

 学びをサポートする制度も充実。「初年度納付金は、それぞれの学部ジャンルで全国一の安さです。奨学金の総額は約2億4000万円で、いずれも返済の必要のない給付型なので、学生への経済的支援を行っています」
 沖縄国際大学のキャンパスは、米軍の普天間基地に隣接する。屋上に上ると、駐機中の米軍の最新鋭輸送機、オスプレイが指呼の間にある。04年8月13日、米軍ヘリが沖縄国際大本館の壁に激突し墜落、炎上した。
 キャンパス内には、事故で焼け焦げた「アカギの木」が残っており、その他にも本館の壁の一部と説明板があった。図書館には、当時の写真や新聞などをそろえた資料室がある。修学旅行の平和学習の一環で県外中高生が同大に立ち寄ることも多い。
 「スマイライフ」という平和学習支援サークルがある。「このサークルは、社会文化学科の学生が主体となって、修学旅行生を対象に、市内の戦跡や学内をガイドすることで、ヘリ墜落事故のことや沖縄戦、米軍基地問題などの話をします。これは、学生の勉強にもなっています」
 サークル活動。体育会系では、空手道部が男子個人形・団体形で世界一に輝いた。ビーチバレー部、軟式野球部も強い。文化系では、放送研究部、吹奏楽部が活躍している。
 地域研究活動も活発だ。78年に設置した南島文化研究所は、年度ごとに奄美、沖縄、宮古、八重山の各諸島の中から地域を特定して総合調査を実施。「このほか、産業総合、沖縄法政、沖縄経済環境の各研究所があり、沖縄の地理的・社会的空間に展開する様々な事象を研究、その成果を地域に還元しています」
 大学のこれからを聞いた。大城は、「沖縄国際大学は、これからの大学なのです。話したいことはいっぱいあります」と語り出した。

開学以来、自治と自立

 「沖縄の歴史を学び、将来につなげるのは大事です。でも、過去に縛られるのは駄目です。学生は夢のある世代、夢を失ってはいけない」、「本学にはオーナーという存在がおらず、開学以来、自治・自立でやってきました。この精神で、学生は沖縄を発展させるエンジンになってほしい」
 大城は、学生にエールを送り続けた。最後をこう締めくくった。「沖縄は、異文化にもまれながらも、琉球文化の独自性を守ってきました。世界に通用する琉球文化を学び、それを背景に世界に羽ばたいてほしい」