特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<69>個性重視の少人数教育
IQよりもEQ 2年進級時に学科決定
千葉経済大学
「片手に論語、片手に算盤」が建学の精神である。千葉経済大学(小滝敏之学長、千葉市稲毛区)は、建学の精神と校是「良識と創意」をふまえ、専門的知識のみならず広い視野と高い倫理意識を身に付け、社会人基礎力を持った人材を育成している。創立者の佐久間惣治郎が1934年に創設した県下初の女子の商業学校である千葉女子商業学校が淵源である。創立70周年・大学開学15年の2003年、モダンで瀟洒な学生ホール「エステリア」を建設、05年4月から、学部一括入試=2年次進級時に学科決定する「2年次学科選択制度」をスタートさせた。ゼミの充実など徹底した少人数教育が特長。「画一化・規格化されたマスプロ教育ではなく、多様な個性を重視する少人数教育を通じて良識と創意に満ちた感性豊かな人材を社会に送り出したい」という学長に、学園の歩みや大学改革、大学のこれからなどを聞いた。
(文中敬称略)
建学の精神 片手に論語、片手に算盤
大学の門と入口を入ってすぐの広場が、千葉経済大の「論語と算盤」という建学の精神を表現している。門の二つの柱をつなぐ梁の部分は、空に向かって伸びる。広場の中央には、算盤の玉の模様が鉄製のプレートで埋め込まれている。
「門の形は、論語の仁の精神と社会人基礎力を携えて大きく飛翔してほしい、広場のプレートは、論語と算盤の建学の精神を忘れないでほしい、というそれぞれの思いを込めています。創立20周年の09年に造りました」と小滝学長。
門や広場はユニークだし、校内にある旧鉄道連隊材料廠のレンガ棟、校舎をつなぐオープン通路の柱など建物がレンガ色で統一されているのも素敵だ。「学習しやすい環境と快適に過ごせる施設」という大学案内にウソはない。
「片手に論語、片手に算盤」の建学の精神は、心豊かな人材育成と実社会で役立つ経済学や経営学などの実学を修得させる教育方針を表す。「良識と創意」という校是は、社会で信頼される良識を持ち時代の変化に適応できる創意に満ちた人材を育成する理念を示したものだ。
「論語と算盤を現代風に置き換えて、『スモール・イズ・ビューティフル』をモットーにしています。小さな大学ゆえに、きめ細かな教育で、経済だけでなく社会人基礎力なども身につけることが出来る素晴らしい大学、という意味です」
千葉経済大学は、前身の千葉女子商業学校が1948年の学制改革により千葉女子経済高等学校に。1954年、千葉経済高等学校と改称(男子部併設)。68年、千葉経済短期大学(商経科)を開学。
1988年、千葉経済大学は、「地域における産官学連携の一翼を担う大学」を目指し、経済学部(経済学科)の単科大学で開学した。1998年に経営学科を開設、現在、2学科に1095人の学生が学ぶ。
学長の小滝が大学を語る。「これからの時代は、IQよりもEQ(心の知能指数)の高い人材、単なる専門知識よりも健全な判断力や情熱、他人への思いやりのある心の豊かな人間、すなわち社会人基礎力を具えた人材が求められています。情報教育と英語教育に力を入れる一方、自由度の高い科目履修を保証。 さらに、多彩な資格取得の機会を設け、就職の指導支援も手厚く行っています」
少人数教育について聞いた。「ゼミを中心とした少人数教育を実施しています。ゼミは一年次から必修で、15人以下で構成。教員一人あたりの学生数は約30人。英語や簿記、情報リテラシー(パソコン)など個人のレベルに違いがある科目は、習熟度別クラス編成で授業をしています」
「少人数教育のメリットは、教員と学生の距離が近く、フレンドリーな雰囲気の中で聞きたいことがすぐに質問でき、すぐに答えてくれるところです。教員は学生一人ひとりに目を配り、個性や成長度合いを把握しています」
基礎ゼミは、1年次から必修、少人数の決まったメンバーで行う。「大学に入学して、いきなり専門教育は難しいので、国語、英語、数学といった基礎力をつけます。2年間、徹底的に行い、大学で何をやるか迷っている学生に道筋をつけさせます」
2年次学科選択制度について。学生募集は経済学部単位で行っている。入学後の1年間は経済学と経営学を基礎から学び、より的確な自分の進路や適性を見極めることができる仕組み。
「2年次進級時に学科を決定し、より専門的な知識とスキルを深めていきます。その後も学科を超えて自由に科目選択ができるカリキュラムを設定していますので、幅広い視点で知識を修得することができます」
2学科の学び。経済学科。「経済学の基本的考え方をしっかりと身に付けることにより“経済を見る目”を養い、経済活動の歴史的な背景や国際的な関係に注目し、身近に起こる経済問題を扱うことで“生きた経済”を学びます」
経営学科。経営分野と会計分野の2分野で構成。「経営分野では自らの活動を効率的かつ効果的に遂行するための問題発見と解決力の実践的能力を養い、会計分野では企業活動の伝達手段である簿記・会計と税務の能力を養い、高い適応能力と実務のできる人材を育成します」
1995年に学芸員資格取得科目を開設。文学部に設ける大学は多いが、経済単科大学では初だという。「千葉県の歴史や民俗を経済の視点から構成し展示する地域経済博物館があり、博物館学芸員課程の実習の一環としてテーマ展示も行っています」。同博物館は県の博物館相当施設に指定された。
社会人基礎力を磨く
就職について。「『スモール・イズ・ビューティフル』の精神で、マナー講座やコミュニケーション講座もあり、社会人基礎力を磨きます。就職先は県内が圧倒的ですが、『専門知識より、挨拶、コミュニケーションができて仲間とうまくやっていく学生が欲しい』といわれる経営者の方からは評価が高い」資格取得に力を入れている。教員、学芸員、司書など同大で修得可能な資格、公認会計士・税理士、国家公務員など学生の希望に応じて、さまざまな進路支援講座を開設。「大学は、資格修得奨励金制度で後押ししています」
地域貢献活動では、地域総合研究所が「オープンアカデミー」といった公開講座を開催して地域発展に寄与。学生は、千葉市主催の「親子三代夏祭り」で、ゴミ分別ナビゲーターとしてボランティア活動に取り組むなど積極的だ。
学生のサークル活動も活発だ。「千葉という地域特性を生かしたサーフィン部が強豪で、全国大会で個人6位、団体3位という成績を残しました。硬式野球部も県内リーグ一部で頑張っています」
特別活動に奨励賞制度
学生に対する特別活動奨励賞制度がある。「ボランティアや学友会、オープンキャンパスなどで模範となる活動で大学に貢献した学生に対するもので、学業には関係なく表彰します」。学業面では理事長賞がある。大学のこれからを聞いた。「大学のユニバーサル化、全入時代を迎え、大学は厳しい立場にあります。社会人基礎力を持った人材は、地域に根ざし、地に足のついた人材でもあります。こうした人材のニーズはこれからも求められています。こうした人材を、これからも育てて送り出したい」
こう続けた。「知識偏重では駄目です。インテリジェンスでなくエモーショナル、感性、ハートのある人材をこれからも育てたい。それは、論語の『仁』にも通じます。合わせて地域に貢献できる、地域と密着した人材であることはいうまでもありません」。小滝は、「IQよりもEQ」に最後までこだわるのだった。