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大学は往く 新しい学園像を求めて

<68>地域発展の基礎は教育
 キーワードは農業とデジタル Gパン学長、改革へ舵
 八戸大学

 「地域発展の基礎は教育にある」。創立者のヨゼフ中村由太郎の思いは脈々と受け継がれている。八戸大学(大谷真樹学長、青森県八戸市)は、徹底した個人指導と、地域と学校の連携でキャリア(仕事)とスキル(技能)を身につける。学生は、米軍三沢基地での語学インターンシップや地域ブランドの推進と商品開発、ケーブルテレビの番組製作といった地域づくり活動を展開する。巨人軍の坂本勇人選手らを輩出した高校野球の強豪、光星学院高等学校は同一学校法人。2012年に就任した若き“ジーパン学長”は「地域に根ざした活動や挑戦をする上での視点や考え方は、グローバルであるべき」と『第二の建学』を謳い、校名を変更するなど大胆な改革の先頭に立つ。この4月から学校名は、八戸大学から八戸学院大学になる。「今年度は、改革の更なる前進と結果を出す年であり、重要なターニングポイントになる」と語る学長に改革の話を中心に聞いた。
(文中敬称略)

大学名を変更 4月から八戸学院大に

 八戸大学は、ヨゼフ中村由太郎が1956年に開学した光星学院高校が淵源だ。71年、八戸短期大学を設置、八戸大学は、81年、商学部商学科の単科大学として開学。04年、ビジネス学部ビジネス学科に学部学科名称を変更。05年、人間健康学部を設置。2学部に約460人が学ぶ。
 ヨゼフ中村由太郎は、1986年、八戸市生まれ。30代から事業家として活躍、私塾の経営を機に教育事業に転じ、60歳のとき学校法人光星学院を創設。「若人の未来の幸福を願い、郷土青森の文化の発展向上に貢献したい」という思いから、全財産を投げ打って教育に献身した。
 学長の大谷が大学を語る。「建学の精神『神を敬し、人を愛する』にあるように、教育の基本は、人の志を愛し、地域を愛することにあります。本学は、大学は地域をつくっていく志ある若者の未来を担う場であると考えています」
 教育について。「現代ビジネスに貢献する実践力のある人材育成をめざし、学問だけではなく日常生活を通して広く豊かな教養と正しい道徳観、高い知性を育む人間教育を実現。少人数制のゼミによりきめ細かな指導を行っています」
 2010年度から、資格取得と職業イメージを明確化したコース制を導入。ビジネス学部は、ビジネスのスペシャリストをめざす経営と公務員や商業・情報科教員などをめざす公共コース、人間健康学部は、保健体育教員やスポーツ指導者などをめざすスポーツ科学と養護・保健・看護教諭や社会福祉士をめざす健康科学コース。「資格取得は就職力向上につながっています」
 大谷は、1961年、八戸に生まれた。「父親が青森県警の警察官だった関係で、6歳まで過ごしました」。学習院大学経済学部卒。民間企業を経て、ベンチャー企業を起こし、市場調査業界2位に押し上げた。01年、起業家のアカデミー賞といわれる『アントレプレナーオブザイヤースタートアップ部門優秀賞』を受賞。
 八戸大学との関わり。「会社の一部門を八戸に置きました。生まれた街でもあり、企業誘致など地域活性化のお手伝いをしました。会社はヤフーに売却して07年に引退。産学連携の観点から08年に八戸大学客員研究員になりました」
 10年に八戸大学・八戸短期大学総合研究所所長(教授)となる。研究所所長のとき、企業を起こす、いわゆる起業家をめざす社会人向けの講座を始めた。「学生も受講するなど八戸が元気になってきた、と感じる」
 この起業家養成講座は、受講生の3割が女性。「ゼロから起業に成功したり、第二の創業で活躍中の女性リーダーもいます。この八戸で起業成功例をつくっていくことが次に続く人たちに勇気を与えることになります」
 2011年、八戸大学学長補佐に就任。12年4月から学長に。フォーマルな席でもジーパンで通し、自ら「ジーパン学長」と呼ぶ。
 大学改革について。学校名まで変えるのはなぜ?「本学は、幼稚園、高校、短大を持つ総合学園なのですが、高校は質実剛健、大学はカトリックというようにメッセージがバラバラでした。一体感を持つ必要があると思い、それには校名からと決断しました」
 「校名変更より、大事なのは、改革の中身です」と続けた。「大学の存在感を示すには、ひとつは、地域の大学として地域からより多くの学生を集めること。もうひとつは、全国から学生を集めるためのコンテンツを用意すること。そして、魅力ある大学にしたい」
 八戸大学は、硬式野球、サッカー、ラグビー、バスケットボールなどスポーツが強く、全国各地からスポーツを志願して入学する学生が多い。硬式野球部は、東北リーグを制し、全国大会でベスト4の実績がある。「昨年度からラグビー部が発足、女子には日本代表候補に選ばれた学生もいます」
 「スポーツはこれからも強化する」としながら、「学生に魅力ある大学は、魅力あるコンテンツがなければだめです。キーワードは、農業とデジタルコミュニケーション。これを前面に押し立てて、働き方、ライフスタイルまで学生に提案していきたい」
 具体的には?「農業といっても、農作業ではなく農業ビジネス、儲かる農業を考えています。青森県では様々な農作物が採れます。これを、どう売れば付加価値が高められるか、加工から流通販売まで提案したい。県内には農業高校も多く、経営的なものを農業に取り入れ、若者を農業に目を向けさせたい」
 もうひとつのデジタルコミュニケーション。「いま、青森でデジタルを学ぶには東京や仙台に行かなければならない。本法人は、昨年、デジタルハリウッド(株)と包括協定を結び、最先端のデジタルコミュニケーションを学ぶことが可能になった。農業生産物をインターネットで販売するのも、新しい農業の形だと思う」

地域貢献に全力投球

 地域貢献の話になると、一層力が入る。「八戸が発祥の地である、ご当地グルメでまちおこしの祭典!B―1グランプリでは、教員と学生が八戸せんべい汁研究所のサポーターとして頑張っています。八戸はイカやサバも有名だが、ブランド力では弱い。地域と一緒になって青森産のブランド力向上に寄与したい」
 首都圏のビジネス界第一線で活躍する経営者らによる「日本一受けたい集中講義」を地域住民にも開放。「最終日には地域の未来を担うリーダーたちとの大交流会もあります。延べ1200人の受講者が刺激的な気づきを得る事ができたのではないでしょうか」
 国際交流も盛んだ。「三沢基地ウィークエンドインターンシップ」がユニーク。「基地内のショッピングセンターで就業体験、アメリカ人を相手に売り場やレジなど接客業務を担当、海外研修の準備として参加する学生もいます」

実践活動で教育変える

 大学のこれから。「地方と都市部の教育格差は、情報量にあった。インターネットによって、それがなくなった。これからの学びは、消費者行動と同様に、『気づく、興味を持つ、検索する、行動する、情報共有する』時代。学生の学習への動機づけ、情報リテラシーの向上、地域社会をフィールドとした実践活動によって教育を変えたい。過去を否定するのでなく、感謝しながら改革を進めたい」
 こう結んだ。「私は『挑戦する権利・失敗する自由』という言葉が好きです。私自身もそれを実践したいと思うし、学生にも大いに挑戦と失敗を経験して欲しい。八戸学院大学を『この学校だから挑戦できた』と思えるような、ベンチャーマインドを大切にした学びの場にしたい」
 挑戦するジーパン学長の声には、「失敗を決して恐れない」と言う強い決意がみなぎっていた。