特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<65>倫理感持つ学生を育成 総合大学へ相次ぐ改革
人気の通信課程、強豪の女子駅伝
佛教大学
人間を見つめる大学、京都の学び舎として100年を超える歴史を誇る。佛教大学(山極伸之学長、京都市北区)の建学の理念は仏教精神である。1912年、高等学院として開学、現在では7学部14学科、学部生・大学院生約7000人を擁する総合大学に。2006年の保健医療技術学部、10年の仏教学部・歴史学部の設置、11年の二条キャンパスの開設、12年の保健医療技術学部の看護学科設置など近年の改革は目覚ましい。歴史学部は、日本初となる学部。約1万3000人の通信教育生を抱える通信教育課程、強豪の女子駅伝はつとに知られる。「教育、研究、社会貢献の三領域で、仏教精神に基づく多様な活動を時代に即して行いながら、世界文化の向上と人類福祉の増進に貢献していきたい」と話す学長に100年の歩みと改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
日本初の歴史学部 仏教精神が心の支え
昨年末、佛教大学がマスコミに大きく取り上げられた。二条駅西側のキャンパス予定地が京都市埋蔵文化財研究所の発掘調査で平安時代の貴族、藤原良相邸宅跡と確認され、ここで出土の土器片に日本最古級の平仮名の文字が書かれていた。
「京都は歴史の街、どこを発掘しても何かが出てきます。やっぱり出てきたかという思いです。貴重な資料なので日本の歴史を解明する手掛かりになればうれしい。遺跡に配慮したキャンパスにしたい」と山極学長。
二条キャンパス(中京区西ノ京)は、JR二条駅東側にあり、保健医療技術学部がある。大徳寺や金閣寺に近い紫野キャンパス(北区紫野)は、仏教学部・文学部・歴史学部・教育学部・社会学部・社会福祉学部がある。
佛教大学は、1868年に知恩院山内に設けた仏教講究の機関が淵源である。知恩院三門前に「建学の碑」がある。その後、教学の振興と僧侶の育成を担う浄土宗の高等教育機関として発展を遂げ、学制改革で何度か校名を変更した。
1912年の専門学校令により設置された高等学院が開学となる。1913年に佛教専門学校と改称、49年の新学制により佛教大学となった。2012年に開学100周年を迎えた。最初に、学長の山極に問うた。
仏教精神とは?「仏教を開かれた釈尊(ゴータマ・ブッダ)と浄土宗を開かれた法然上人に共通する生き様と考え方を指します」と、こう続けた。
「身の回りにいる人たちの痛みや苦しみをしっかりと受け止めることができ、様々な立場で悩み苦しむ人たちに対して、自分は何をなすべきか、何ができるのかを正しく判断し、自然に手をさしのべる気持ちがもてる人材、そして気持ちだけでなくそのための行動力と技術をあわせもった人材の養成を目指します」
各学部の学び。仏教学部。「日本人の心に根ざした仏教と深いかかわりを持つ文化・芸術の研究など、仏教を中心に据えた幅広い学びが特長です。複雑な現代社会をよりよく生きるために、豊かな心を養います」
文学部。「言葉・文化・思想などの領域から人間や社会の本質を探ります。日本文学科では、『原典』に触れる科目や京都ならではのフィールドワーク科目を開講。中国学科と英米学科では、専攻言語圏への語学研修や留学制度もあります」
歴史学部。「日本史、東洋史、西洋史のフィールドから、考古学、地理学、民俗学、文化人類学、さらに芸術文化や地域性を生かした『京都学』の領域まで多様な学びを展開します」
教育学部は、小学校をはじめとする教員養成や教育に関する活動を考察する教育学科と、心の専門家を養成する臨床心理学科の2学科を設置。「実践と理論を融合させたカリキュラムを通して人間力を育成します」
社会学部は、現代社会学科と公共政策学科を設置。「身近な出来事から地球規模の問題まで、その解決に向けた実践的な研究を展開します。また、まちづくりや地域の活性化といったテーマも研究の対象です」
社会福祉学部。「1年次は春学期に社会福祉に関する知識の基礎を固め、秋学期に将来の目標や興味・関心に応じて主専攻とするコース(科目群)を選択。複雑化する福祉領域への対応も視野に入れ、専門知識を深めます」
保健医療技術学部は、理学療法学科、作業療法学科、看護学科の3学科がある。「専門的な学びに、本学ならではの福祉や仏教精神を融合させ、臨床教育の充実や社会・地域貢献をめざします」
地域貢献活動も活発
地域貢献は各学部とも活発だ。「京都府南丹市と京都市上京区北野商店街の2地域と協定を結び、正課以外に米作りや酒造り、お年寄りとの交流などを通して地域活性化に一役買っています」近年の改革のねらいについて聞いた。06年の保健医療技術学部。「医療の周辺分野で人材の養成が求められ、仏教精神に基づく医療や福祉領域にも取り組む必要があると判断しました」。12年には看護学科を設置した。
10年の仏教学部と歴史学部の設置。「戦後の新制大学は仏教学部として開学、その後、門戸を広げようと文学部の仏教学科にしました。開学100周年を機に、もう一度、当初の理念に帰ろうと学部に戻しました」
「歴史学部は、文学部の歴史学科として伝統と実績もありましたが、独立させて大学のブランド力を高め、社会のニーズに応えるのが狙いです。“歴女”という言葉があるように、京都のことを、京都で学びたいという学生は増えています」
二条キャンパスの開設。「ずっと紫野でやってきましたが、大学の規模、学生数が増え、キャンパスが手狭に。二条駅近くに用地が確保できたので、第2キャンパスとして活用することにしました」。紫野キャンパスもリニューアルが進行中だ。
通信課程に1万3000人
通信教育課程について。「1953年に仏教精神に立脚し社会人に開かれた通信制大学として開設。現在、6学部10学科4研究科12専攻などで約1万3000人が在籍。大学通信教育の中では取得可能な教員免許・資格が多い。「私立大学の通信教育課程としては全国有数の規模を誇ります。3万6000人を超える卒業生が全国各地で活躍しています」
女子駅伝チームは、陸上競技部の女子中長距離部門。硬式野球部とともに大学から強化指定され、立命館大学と並ぶ名門。第27回全日本大学女子駅伝で初優勝を飾り、翌年の第28回大会でも優勝して2連覇を果たした。
今年は、準優勝。先のロンドン五輪女子マラソン日本代表の木﨑良子(ダイハツ工業)もOGだ。「女子駅伝の活躍は、大学のブランド力向上だけではなく、在学生はもとより通信教育課程の卒業生の母校愛にもつながっています」
就職について。「教育、福祉、保健・医療といった資格の取れる学部は、資格を手に就職は堅調ですが、人文系学部は今の社会状況を反映して厳しい。佛教大学で学び、意識、無意識にかかわらず身についている仏教精神を生かしてほしい。『さすが佛大さんだね』と言ってもらえるようになれば…」
大学のこれから。「あらためて現代を省みたとき、社会はますます混迷の度を強めつつあります。大学も厳しい現実が迫っており、岐路に立たされています」と現状を述べ、続けた。
出来ることから変える
「これまでに培ってきた体制を維持しながら出来ることから変えていきたい。社会は、大学が送り出す学生の姿を見ています。教育、研究、社会貢献の各分野で中身を充実させたい。中身が見えてこそ、社会も評価します」
山極は、最後に、また仏教精神に戻った。「混迷の時代だからこそ、仏教精神にのっとり、自分の欲望に支配されず、社会の混乱に立ち向かっていける高い倫理観を持った人材を育てたい」。佛教大学は、これからも仏教精神とともに歩む。