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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<60>行動伴った知性を育む
  大学名変更 男女共学化 学部の再編
  2010年の大改革の成果上る
  至学館大学

 「挑戦と成長」が大学のモットーである。至学館大学(谷岡郁子理事長・学長、愛知県大府市)は、2010年に大学名の変更、男女共学化、学部再編という大改革を断行、その成果は着実に上がっている。教育理念は「人間力」。健康を軸に、運動・スポーツ、栄養、こどもの成長を専門的に学習できる学びを展開。女子レスリング部は、世界的にも名門として知られており、先のロンドン五輪では卒業生3人が金メダルを獲得した。大学の特長は、三つのサポート。学生の夢の実現を目指す就職サポート、在学生スポーツ選手を強力にバックアップするサポート、資格取得を支援し、学生のチャレンジ精神をサポート。学長は現職の参議院議員でもある。「青春『至学館大学』、自らの大学は自分たちでつくります。名実ともに学生が主人公のもっともっと元気な大学を目指したい」と話す学長に大学の歩みとこれからを尋ねた。
(文中敬称略)

名門の女子レスリング ロンドン五輪で金3個

 学長の谷岡への取材は国会そばの参院議員会館で行った。田中眞紀子文部科学相が3大学の設置を不認可すると述べた翌日だった。教育問題に詳しく大学学長ということもあって取材・問合せが殺到していた。
 本題に入る前に、この田中問題を尋ねた。「学問の自治を守るため、大学設置は審議会を設けて厳正に行ってきた。それをひっくり返した。教育に政治が介入するという大きな問題。権力の行使には節度が必要だが、それを無視した暴挙です」
 至学館大学は、1905年創立の中京裁縫女学校が淵源である。21年、中京高等女学校を併設、44年、中京裁縫女学校を中京実業学校に名称変更。47年、中京女子中学校を開設(新制)、48年、中京女子高等学校を開設。
 50年、中京女子短期大学(体育科・家政科)を開設。63年、中京女子大学(体育学部)を開設。65年、中京女子大学に家政学部を設置。05年、中京女子大学附属高校を至学館高校と校名変更し、男女共学に。
 2010年の大改革。中京女子大学大学院、中京女子大学および中京女子大学短期大学部を至学館大学大学院、至学館大学、至学館大学短期大学部に校名を変更。至学館大学は男女共学にし、学部再編を行い、健康科学部(健康スポーツ科学科、栄養科学科、こども健康・教育学科)1学部に。現在、1164人(男子392人/女子772人)の学生が学ぶ。
 谷岡が大学を語る。「本学は中京女子大学の名で独自の明るくて元気、チャレンジ精神旺盛な学風を培ってきました。この『中女(チュウジョ)イズム』をしっかりと受け継ぎ、これからは男女すべての若者のために人間力の形成の教育理念を掲げ、さらに教育の肩車を積み重ねていきたい」
 3年前の大改革を聞いた。名称の変更。「3年前から、中京女子大は男子の入学も可として何人かの男子が入学。彼らが卒業するとき、就職では変な奴と思われるし、結婚の際、女子大出身ではね。彼らの卒業に合わせて校名を変えました」

共学化でも校風変らず

 男女共学。「これ以前に、附属高校は共学にしています。100年余の歴史で培った『人間教育・文化』のノウハウを男子学生とも分かち合い、伝えていきたかった。共学になったからといっても校風は変わりません」
 学部再編のねらい。「従来あった人文学部は、性格が違っていたので大学の一体感がなかなか創れなかった。地方の小さな大学として、存在感を高めるには、健康をキーワードに健やかさを希求すべきと考えました」
 その成果。「女子大時代は、大和撫子というより、元気、明るさ、チャレンジ精神の学生が多い大学というイメージでした。こうした伝統は引き継がれ、男子が加わったことで切磋琢磨し合い、視野を広げ、新しい歴史が築かれつつあります」
 健康科学部は、健康スポーツ科学科、栄養科学科、こども健康・教育学科の3学科から構成される。各学科の学びを聞いた。
 健康スポーツ科学科は、健康の保持・増進のための運動・スポーツの指導者を目指す。学生自身が自らの体で取り組んでいくユニークな実技、演習、実習の各科目を開講。理論と実践の両面から、リーダーシップを備えた指導者を育てる。
 「中学校教諭(保健体育)・高等学校教諭(保健体育)の教員になる道のほか、インストラクター、リハビリ・トレーナー、介護職から一般職まで多彩な進路が開けています」
 栄養科学科は、健康運動の実践指導ができる「健康運動に強い」、ナショナルチームのアスリートもサポートできる「スポーツ栄養に強い」、チーム医療で活躍できる「臨床栄養に強い」、食品産業の分野で活躍できる「食品科学に強い」、四タイプの管理栄養士の育成を目指す。
 「管理栄養士の国家試験合格率は全国平均を大きく上回ります。健康運動実践指導者やアクアフィットネスインストラクター、食品衛生監視員・管理者など、食、健康、スポーツに関する様々な資格が取得できます」
 こども健康・教育学科は、乳幼児から青少年に至るまでのこどもの発達や保育・教育について総合的に学ぶ。授業では、幼児期、児童期、少年期、青少年期の発達や保育・教育を学びながら、体育に強い小学校の先生を養成する。
 「保育士・幼稚園教諭・小学校教諭・中学校教諭(保健体育)という進路に合わせて選べる保育・初等教育コースと初等・中等教育コースという2コースを設置しています」
 女子レスリング部。さきのロンドン五輪で、吉田沙保里(55キロ級)、伊調馨(63キロ級)、小原日登美=旧姓:坂本(48キロ級)の3人が金メダルを獲得した。国民栄誉賞を授与された吉田は、卒業しても同大を練習拠点としている。
 「吉田は入学当時、小原にコロコロ負けていた。小原がいたから吉田が大きく育ちました。小原は48キロの妹が引退したので、階級を下げて48キロに出場して金メダルを取った。吉田、伊調の金メダルより、うれしかった」
 女子レスリングが強くなった理由。「88年、同好会でスタート。それまで女子のレスリングは、男子とは食べ物も、筋肉も柔軟さも違うのに一緒に練習していた。これでは強くならないと食事や練習に科学的要素を取り入れた。日本は女子柔道は強いし、レスリングも強くなるという確信がありました」

女子レスを国体種目に

 卒業生3人の金メダルで喜んでいると思いきや。「世界で、女子のレスリング人口が増えている。日本では指導者が少なく、裾野が広がっていない。国体やインターハイの種目にして、競技人口を増やさないと外国勢に勝てなくなる」
 国会議員と学長の兼務について。「月曜日の1限目に1年生を対象にした『大学論』の授業を持っています。月曜午後から金曜日までは国会で、土曜日に理事会などを開きます。幹部会や教授会などはテレビ会議で対応していますので、まったく問題はありません」
 大学のこれからを聞いた。「これからの学生は日本人同士の競争でなく、世界の学生との競争になります。日本で優秀だからといっても世界では通用しません。世界に通用する学生を育てていきたい」
 具体的には?「たくましさ、意欲、当事者能力を持たなければなりません。それは座学だけでは学べません。自己管理、フェアプレー精神といったスポーツ力を合わせた、行動を伴った知性を身につけさせたい」

教育理念は「人間力」

 その原動力になるのが、教育理念である「人間力」だという。「健康力、知的視力、社会力、自己形成力、当事者力の五つの力を乗じ、総合的に応用・展開することができて初めて真の『人間力』になります」
 谷岡は、冒頭の田中文科相問題での発言のように、「行動を伴った知性」を体現しているように映った。この言葉を自分に言い聞かせるように繰り返し語った。二足のわらじを履きながら、谷岡の「挑戦と成長」はまだまだ続く。