特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<48>神奈川工科大学
学生本位主義を貫く
毎年高い就職率 考え、行動する技術者育成
力と自信がつく教育で「自ら考え、行動する技術者」を育成する。神奈川工科大学(小宮一三学長、神奈川県厚木市)は、「学生本位主義」という理念を掲げる。学生のことを真に想い、教育や勉学の環境づくりに傾注、学生一人ひとりの可能性を見出し、導き、伸ばす。時代が求める技術に対応した最新の設備と、学生が快適に過ごせる施設を誇る。キャリア形成から就職までをサポート、毎年、高い就職率をあげている。就職満足度も高く、個々の適性にあった就職を実現。2010年には科学的センスをもつ管理栄養士の育成をめざす「栄養生命科学科」を設置するなど新しい動きもある。「学生本位主義」の中身や、「KAIT工房」、「就職力」のこと、これまでの大学の歩みとこれからなどを学長に聞いた。
(文中敬称略)
最新の設備と施設誇る 栄養生命科学科を設置
神奈川工科大学は、1963年に大洋漁業(現マルハニチロホールディングス)社長の中部謙吉が設立した幾徳工業高等専門学校が淵源である。1975年に幾徳工業大学として開学、88年に大学名を神奈川工科大学と改名した。
2006年、工学部再編により、自動車システム開発工学科、ロボット・メカトロニクス学科、応用バイオ科学科を増設。08年、学部再編により、創造工学部、応用バイオ科学部を設置、ホームエレクトロニクス開発学科を新設。
09年、航空宇宙学専攻、人間福祉健康科学コース、情報セキュリティコース新設。10年、栄養生命科学科を新設。現在、工学部、創造工学部、応用バイオ科学部、情報学部の4学部に大学院生まで含め約5000人の学生が学ぶ。
学長の小宮が大学を語る。「大学全入、少子化と厳しい時代、豊かな教養と幅広い視野を持ち、創造性に富んだ技術者を育て、科学技術立国に寄与することが大事。学生を甘やかすのでなく、学生の持っている力を見出し、伸ばすことに力を注ぎたい」
学生本位主義の中身は?「何を教えるかより、何を学べたかを主眼に置いています。カリキュラムは、社会人の基礎となる人間力を養う『4年間全学共通基盤教育』と、学生が中心になって学ぶ『基礎と応用をつなぐユニットプログラム』が柱です。後者は小グループに分かれての課題解決型学習です」
独自の教育支援制度もある。オフィスアワー、1年次生アドバイザー制度、クラス担任制度、県別アドバイザー制度などで学生へのケアに対応。数学や理科などの基礎学力強化を行い、専門高校からの入学生への対応も行っている。
教育とともに研究にも力を入れる。同大には、八つの研究所、センターがある。東日本大震災のあと、我が国では、ものの豊かさより、心の豊かさ、安全安心な世界が叫ばれるようになった。
「環境・エネルギー、情報、生命の三つの分野を重点研究にしました。環境は太陽エネルギー、情報はロボット、生命はバイオなどが含まれます。この三分野で安心安全の技術、心の豊かさにつながる研究を行い、日本再生の一翼を担いたい」
ロボットで、介護者を“力持ち”にする「ウェアラブルパワーアシストスーツ」の開発(山本圭治郎教授)や、太陽光発電システムの発電効率を上げることのできる新型MPPT制御方式(板子一隆准教授)など研究成果もあがっている。
「工科系大学の使命のひとつは、新しい技術で社会に貢献することだと思います。研究を充実させることは学生の教育にも役立ちます。学生も参加することで、学ぶ意欲につながります」
教育、研究とともに、地域貢献も熱心だ。学生の地域でのボランティア活動も活発。「教育・研究を通じて地域社会との連携強化に努めたい」と話す。ユニークなのは、大学が全額出資して設立した(株)神奈川工科大企画。
「地域の住民のみなさまと企業と本学が三位一体となった『大学の町づくり』に貢献し、より豊かな地域社会の発展のため設置しました。ITを中心とした職業訓練講座や市民を対象とした公開講座や資格取得講座を実施しています」
ところで、その大学を象徴する建物というのがある。東大の安田講堂、早大の大隈講堂などがそうだ。神奈川工科大学のそれは「KAIT工房」。学生のものづくりに対する夢や希望をかなえ、気軽にものづくりの楽しさを体験できる場所。
08年に完成。広さ約2000平方メートルの平屋で、ガラス張りのお洒落な空間。内部には旋盤やフライスなどの設備が整えられている。専門スタッフが学生の自主的・創造的活動を促進していくための指導、助言を行う。
夢の実現に資金援助
03年、「夢の実現プロジェクト制度」を設けた。学生の“夢”を追いかける情熱に対して経済的な側面から支援する。毎年春に公募があり、プレゼンテーション審査会を実施、その審査結果で最大で100万円の資金援助が受けられる。
「KAIT工房が完成し、夢の実現プロジェクトに採択されたチームは、ここで自由にものづくりなどの活動を行っています。それまで部活やサークル、研究室依存のプロジェクトが学生主体のプロジェクトとなりました」
2011年度は一二のプロジェクトが採択された。「KAITソーラーカープロジェクト」はDreamCupソーラーカーレースに出場、「フォーミュラSAEプロジェクト」は全日本フォーミュラ大会に出場するなど、学生は夢に向かってチャレンジしている。
工科系大学らしく学園のIT化は進化している。06年、全国で初めて携帯電話を用いたモバイル学生証を導入。すべての授業の出席は、各教室にあるFeliCaの端末にICカード学生証(携帯電話を持たない学生用)、またはモバイル学生証をかざすことで出席確認を行っている。
「授業開始五分前から授業開始30分後まで動作し、その間に学生証をかざす必要があります。これにより、リアルタイムで学生の出欠を確認できます。また、本学の公式サイトから行ける在学生用サイトであるKAIT Walkerと、携帯アプリのKapliが連動して、自分の出席状況や試験情報、休講情報を見る事ができます」
「就職に強い大学」は、強力できめ細かい就職支援プログラム。1年次から就職準備の為の講習会、3年の後期には毎週キャリア就職課による講習や演習、企業による説明会などを開催、学科ごとに違うプログラムを準備している。就職支援スタッフが各学科におり、個別相談や面接の練習などができる。
「毎年『高い進路決定実績』をあげています。さらに満足度も高く、個人の適性にあった就職が実現しています。また大学院に進学する学生も多く、国立大学の大学院へ進学する学生もいます」
卒業生支援課を設置
昨年4月には、キャリア就職課とは別に卒業生支援課を設け、二人の専属職員を置いた。「卒業生支援をより明確に打ち出すために設置しました。内定を得ずに卒業した学生はもちろん、起業したいと言う卒業生や転職希望の卒業生にも全力でバックアップします」グローバル化への対応も独自。大学主催の海外研修がある。アメリカ、イギリス、シンガポールの大学で行われる海外専門分野研修プログラムである。「語学を学びながら専門技術を学ぶことが出来ます。海外機械工学研修や海外バイオ研修など、専門分野のプログラムが組まれている制度」
小宮が大学のこれからを語る。「学生本位主義は、本学の根幹であり、他大学にない特長です。これを堅持しながら、真に社会で活躍できる人材を育てていきたい。これからは、ものの豊かさばかりでなく、心の豊かさに貢献できる技術者を育てていきたい」。
「心の豊かさとは、安全安心な社会をつくることです」と付け加えた。「学生本位主義」は、時代がどんなに変わろうと、神奈川工科大学にとって不変の理念である。