特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<45>和洋女子大学
「行動できる女性」を育成
五つの力を身につける 女子大初の学群制導入
創立115年という歴史を誇る伝統ある女子大である。和洋女子大学(岸田宏司学長、千葉県市川市国府台)は、「和魂洋才・明朗和順」の理念を掲げ、高い技術と強い精神を持った卒業生を数多く輩出してきた。いま、ここにも改革の波が押し寄せている。2008年から従来の学部・学科制をやめて「学群・学類制」を導入した。多角的な視野を身につけ、人々のために行動できる人材を育てるのがねらい。昨年度が完成年度にあたるが、当初のねらいは結実しているという。昨年度からは、大学生活4年間で「自分を知り誇りを持つ力」、「人を理解し、自分を表現する力」など「五つの力」を身につけることを目指す教育を開始した。人々を支える「心と技術」を習得し、「行動できる女性」をめざすという。学長に「学群・学類制」、「五つの力」などの改革や学生生活、就職、大学のこれからなどを聞いた。
(文中敬称略)
和魂洋才 明朗和順 創立115年の伝統の力
和洋女子大学は、1897年、創設者の堀越千代が、東京の麹町区飯田町(現在の千代田区富士見)に設立した和洋裁縫女学院が淵源である。1949年から実施された新教育制度に基づき四年制大学(家政学部)としてスタートした。
1961年、家政学部を拡充して文家政学部とし、英文学科を設置。98年、文家政学部を人文学部と家政学部に分離。人文学部に英文学科、日本文学科、国際社会学科、家政学部に服飾造形学科、健康栄養学科、生活環境学科を置く。
卒業生(中退含む)には、大妻女子大学や明和女子短期大学、 郡山女子大学、鹿児島女子大学などの創設者がいる。「上京して和洋で学び、郷里に帰り学園を設立された方が多い」(学長の岸田)。女優の小川眞由美、高木美保らもOGだ。
女子大初の学群制は二つの学群からなる。人文学群(英語・英文学類、日本文学・文化学類、心理・社会学類)と家政学群(服飾造形学類、健康栄養学類、生活環境学類)。2年次以降、専修、コースに進む。
「学群・学類制は、高度な専門性と豊かで幅広い知性を身につけるため、科目選択の幅を広げ、一人ひとりの適性や可能性に合わせたオーダーメイドの学びを実現するシステムです」
「適性や将来を高校時代に無理に絞り込まず、入学後にじっくり考えることができます」。入学してからの1年間は学類に所属。そこで基礎的な知識や技能を養った後、2年次から専修やコースで、将来の目標に合わせて専門性を深める。
自分の専門以外の他学類の科目を履修できるようにした副専攻制度を設けた。学類の枠を超え、第二の専門を持つことが可能だ。専門の枠にとらわれない幅広い知識や教養が得られ、多角的な視点や柔軟な思考力を養う。
「日本文学を専攻した学生が、日本伝統の服飾を学びたいと思ったら、副専攻で服飾造形学を学ぶことができます。学群制の課題は、管理栄養士や幼稚園の先生をめざす資格系学類の学生が国家試験の勉強で忙しく、副専攻をとる時間がないことです」
続いて、「五つの力」について聞いた。「自分を知り誇りを持つ力」、「人を理解し、自分を表現する力」のほか、「基礎学力と文章力」、「課題を解決する力」、「社会に役立つ専門力」を加えた五つをいう。
昨年度から、大学の新しい使命(Mission)として『人を支える「心」と「技術」を持って行動する女性の育成』を打ち立てた。「和魂洋才・明朗和順」という建学の精神を現代に置き換えた、といっていいかもしれない。
「五つの力を高めることで、人を支える『心』と『技術』を持って行動できる女性を育み、建学の精神である『和魂洋才』を体現することができ、多様な社会の中核となって活躍する女性を輩出することを目指しています」
さて、和洋の学びを支えるひとつがメディアセンター。2004年、それまでの大学附属図書館と情報処理センターを統合。あらゆるメディア(媒体)が集まった大学の中心的施設として、利用者の学習、研究を多方面からサポートする。
各学科・学類に沿った資料から、裁縫関連や、西洋服飾関係や各国の家政学関連資料、19世紀以降の英文学関連資料、欧米の挿絵本、日本文学中心の和古書等のコレクションなどの蔵書やインターネットによる最新情報も学内で手に入る。
「同時に、学内のソーシャルネットワークを整備、学生は様々なITサービスが受けられる。過去の問題などが閲覧できて国家試験の勉強に利用できるし、自宅のパソコンからレポートが提出できます。ポートフォリオもペーパーレスです」
就職力。早期から万全の体制で準備。インターンシップや資格対策講座も充実している。「近年、地域の中の大学を意識しています。学生の65%が千葉県出身ということもあり、地元に恩返しする意味からも県内の就職も増えています」
就職の支援体制は?「学生一人ひとりと個人面談するなど学生に合った進路を歩ませるよう指導しています。本学は、教員の研究室と教室が同居していることもあり、ゼミの教員が学生の相談に乗るケースも多いのが特徴です」
農業体験で実践力修得
学生生活について。家政学群の学生は、昨年度から「農業体験学習事業」に取り組む。「PDCAサイクルを体感できる農業体験を行い、農作物作りの計画、栽培、収穫、加工までを学び、実際に問題解決しながら、実践力の修得をめざしています」千葉県・神崎では、米作りに取り組んだ。「田植えや稲刈りを中心に行いました。収穫した米は、脱穀して、大学内で精米し、健康栄養学類3年生の給食管理実習の給食に使われました」
長野県・立科では、レタス、りんご、長芋に取り組んだ。「レタスは早朝から収穫・箱詰め作業、りんごの葉摘みや収穫を行いました。秋に収穫した長芋を使ったレシピの開発も行いました」
人文学群の日本文学・文化学類には書道コースがある。「書道コースの4年生は、自分の住む町で4年間の学習成果を発表する書道展を開くことになっています。書道展の企画、運営も自分で行います。作品の批評を受けるのはもちろんですが、課題解決力につながると考えています」
卒業時には成長の跡
家政学群の服飾造形学類の4年生が開くファッションショー。「4年間で学んだ技術、知識、経験を結集して卒業制作に取り組み、その成果を発表。その時の学生の目つきは、自信に満ちています。入学時に比べ、成長の跡が見てとれます」学生の地域・社会貢献。個人またはサークルでボランティアを行い、地域の活性化に一役買っている。一昨年に開催されたゆめ半島千葉大会(全国障害者スポーツ大会)では、選手団担当ボランティアとして100名もの学生が参加した。
企業との連携も活発だ。東武百貨店船橋店とは、レストラン街でのメニュー開発に参加。「ビューティーメニュー」、「スイーツフェア」などのイベント時に、健康栄養学類の学生たちがメニューを考案。山崎製パン(株)とは、新製品の共同開発を始め、新製品を発売している。
大学のこれからを聞いた。「かつて、和洋と言えば、資格や技術を持った自立した女性というイメージがあった。いまでも、教職や和裁洋裁といった資格や技術に重点を置くのは当然ですが、新しい時代の変化に対応する力も必要になります」
その力とは?「教養を高めることだと思います。この幅広い教養と、専門性を備えた技術という二つの力を持った学生を育てていきたい。4年間で、二つの力を合わせた生きる力を身につけさせたい」
これまでの改革を進化
「教養は生きていくうえで必要なもので五つの力に重なります。学群・学類制は、広く教養を身につけ、その中から専門性を見出していく学びのシステム。これからは、これまでやってきたことを、より進化させることです」。岸田は、これまでの改革に間違いはなかったことを強調した。