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大学は往く 新しい学園像を求めて

<42>東京外国語大学
  今春から二学部体制に
  27言語を教育全地球カバー 「強い国際人」を育成へ

 我が国屈指の外国語・地域の教育研究拠点である。東京外国語大学(亀山郁夫学長、東京都府中市)は、国立大学唯一の外国語単科大学だった。今年4月から外国語学部を再編して、言語文化学部と国際社会学部の2学部体制に。中央アジア、アフリカ、オセアニアの3地域が新たな教育対象に加わり、ベンガル語が新たな地域言語となった。全地球をカバーする14地域・27言語からなる地域研究のための教育拠点ができあがった。大学の歴史は古く、淵源は1857(安政4)年の蕃書調所にさかのぼる。爾来、多くのグローバルな人材や、著名人、指導者を輩出してきた。各国からの留学生が毎年、550名程度在学、東京外大からは、公費留学および私費留学合わせて、毎年200名以上が世界の大学に留学している。「今回の学部再編は、創立110年余を経てようやく可能となった歴史的な改革」という学長に2学部体制や秋入学、大学のこれからを聞いた。
(文中敬称略)

歴史は古く安政に開校 グローバル人材多く輩出

 東京外国語大学は、過去150年以上におよぶ歴史のなかで、再編・統合を繰り返してきた。「(学校名も)開成学校、東京外国語学校、東京外事専門学校などの時代を経て、戦後の1949年に東京外国語大学としてスタートを切りました」と学長の亀山。
 卒業生(中退含む)には、作家の二葉亭四迷、永井荷風、島田雅彦、米原万理、詩人の中原中也、日銀前副総裁の藤原作弥、三井物産元社長の清水慎次郎、フジテレビ前社長の村上光一…文学、学界、マスコミ、外交、教育など幅広い分野にきら星のごとくいる。
 キャンパスは、2000年10月、東京都北区西ヶ原から府中市に移転。現在、府中キャンパスに、3800人の学生が学ぶ。これまでの外国語学部は26専攻あり、専攻語に加えて人文・社会科学、自然科学(主に情報科学)を学ぶ。
 亀山が大学を語る。「本学は、①Communication(多言語社会に貢献するコミュニケーション能力)②Imagination(多文化社会をみつめるリアルな人間的想像力)③Exploration(グローバルな地域社会にひろがる精緻なリサーチ力)④Cooperation(地球社会と協働する果敢な行動力)という四つの能力養成と、それに見合った優れた国際人の育成をめざしています」
 「この四つの能力の創造的な育成のうえに、地球社会化時代に通用するPresentation(卓越した自己表現力)を涵養します。国際ビジネスの最前線で活躍できるグローバル人材を育てることが、新たな国家の、そして本学の責務だと考えています」
 教育および研究面について。「世界中の言語を研究・教育するため、多くの語学専門家が所属しています。狭義の語学だけにとらわれず、地域研究にも力点を置き、当該言語圏の政治、経済、社会、文化、習俗などについても教育・研究を行っています」
 歴史的な改革という二学部体制のねらいは?「外国語学部という看板では言語のみに価値があると受け止められかねません。英語はもとより、世界のさまざまな言語によるコミュニケーション力に優れ、創造性と気概にあふれたグローバル人材を数多く世界に送り出す、こうしたメッセージを発信したかった」
 改革の骨子は、四つ。①1、2年次は、選択した言語とその地域の基礎的な教養を学ぶ世界教養プログラムを学ぶ②世界を14地域に区分、新たにアフリカ、オセアニア、中央アジアの3地域を加え、新たな地域言語としてベンガル語を加える③言語教育+地域教育+教養教育を有機的に組み合わせ、グローカリズム(グローバル+ローカル)教育を徹底する④3、4年次は、本学がめざす人材育成の目標に照らした六コースで学ぶ。
 学部改編のもうひとつのねらいが英語力の強化だった。「国際教養大学(秋田県)の少人数の英語教育に学べ、と1、2年次は学生8人に1人のネーティブ講師をあてて英語の授業をします。『右手に英語、左手にフランス語、ベンガル語』というように“両効きの人材”を育てたい」
 二つの学部の違いは?「言語文化学部は、世界諸地域の言語と文化に通じ、優れたコミュニケーション能力と人間的な想像力を備え、国際社会の舞台で言語間・文化間の媒介者として活躍できる人材を養成したい。
 国際社会学部は、世界諸地域の歴史や社会の仕組みに通じ、そこに内在する問題をグローバルな視野で解決できる能力を備えるとともに、国際ビジネスの舞台で幅広く活躍できる人材を養成したい」

志願者、偏差値アップ

 初年度の志願者はどうでした?「2学部とも偏差値がランクアップし、国際社会学部の倍率は3.7倍とアップしました。どっちかの学部が上がれば、それに引っ張られてもう片方の学部も必ず上がります。2学部体制は、競争関係を作り、大学を活性化させるのがねらいでもあります」
 受け入れる留学生が約550人で送り出す留学生が約200人。「在籍している留学生に対しては、学習・研究効果の向上を図るとともに、日本人学生と親しく交わる機会を設けるためチューター制度を実施。来年には、留学生と日本人学生が一緒に住む寮(国際交流会館)が完成します」
 「送り出す留学生が200人だと少なく見えますが、学生数の割合では33%と東大(0.4%)と比べても高い方です。100%の学生を留学させるのが目標で、送り出しの拠点となる海外事務所の設置も検討しています」
 学生生活には東京外大らしさがある。毎年5月、戸田オリンピックボートコース(埼玉県)で新入生を迎え学内対抗競漕大会を行う。東京外国語学校時代の1902年に始まり、戦時中に一時中断されたものの、12年で99回を数える。
 外語祭も、12年で90回を迎える歴史ある学園祭。「多くの民族舞踊サークルの学生たちが、工夫を凝らした発表を行います。1年生が中心となって自分たちが勉強している地域の特色ある料理をふるまうための各国料理店が並びます」
 学生の利用する図書館は、明治維新前後に日本で出版された外国事情・外国語研究書および南アジア関係を中心とした世界的にも重要な図書を所蔵。160を超える言語の資料があり、多言語対応の電子図書館的機能の拡充を行っている。

秋入学の必要性は?

 東大が提唱する秋入学について。「秋入学で国際化は進むと思う。本学にとって大切なのは学生の送り出し。希望すれば2年の秋から1年間留学して、3年の秋に帰国してもとの勉強が再開できるシステムがあります。4年間で卒業できるし、秋入学を導入する必要性は、さほど感じていません。
 留学生の受け入れでは、9月から始まるプログラムを順次、準備しています。本学に求められているのは、日本文化を発信できる質の高い日本語教育者で、留学生の数を多く受け入れることを目指すべきではないと思っています」
 大学のこれからについて聞いた。「本学のグランドデザインには、『地球社会化時代の未来を拓く教育研究の拠点大学』を掲げています。この目標に沿って今後、グローバル化、少子高齢化などが生み出す厳しい競争的環境を乗り越え、教育研究面でのより一層の充実と、その社会還元、さらには国際貢献に努めていきたい」

ハブ空港のような大学

 こう続けた。「強い国際人をつくりたい。言語能力を基本に学生の質を保証、就職率100%をめざしたい。東京外大を世界の言語、地域の教育拠点にし、日本語、日本文化の発信拠点にしたい。学生だけでなく企業までも、本学にアクセスすれば世界の言語や地域のことがリアルタイムで知ることができる、ハブ空港のような大学にしたい」。亀山は、最後をこう結んだ。「改革はこれからです」。これまでにない断固たる口調だった。