特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<35>敬愛大学
「チバイチバン」推進
高就職率をめざす 徹底したキャリア教育
西郷隆盛が唱えたとされる「敬天愛人」(天を敬い、人を愛せよ)が建学の理念で、学校名もここに由来する。敬愛大学(土井 修学長、千葉市稲毛区)は、少人数教育=面倒見の良い大学を標榜する。現在(いま)、最も力を入れているのは「チバイチバン」プロジェクトと名付けられた就職支援の推進だ。徹底したキャリア教育、就職指導プログラムによって高い就職率の実現をめざす。07年、国際学部に小学校教員免許が取得できる地域教育こども専攻を設置。09年、佐倉キャンパス(千葉県佐倉市)にあった国際学部を経済学部のある稲毛キャンパスに移し、キャンパス統合を実現。2011年、スポーツビジネスコースを開設。今年度から地域教育こども専攻を「こども学科」に再編するなど改革の動きも急だ。多くのマスコミにも取り上げられた「チバイチバン」プロジェクトを中心に大学の今とこれからを学長に尋ねた。(文中敬称略)
「敬天愛人」が建学理念
敬愛大学は、1931年に開校した千葉関東商業学校が淵源である。1950年、千葉敬愛短期大学が開学。66年、千葉敬愛経済大学が開学。88年、大学の名称を敬愛大学と改称。97年、国際学部を設置。09年のキャンパス統合は、学生数が増え学園活性化につながった。
学長の土井が敬愛大学を語る。「ゼミナールを必修化し、ゼミでのアットホームな雰囲気を通して小規模大学・少人数教育のメリットを最大限生かし、就職力を前面に出した『面倒見の良い』大学を目指しています」
現在、経済学部と国際学部の2学部に1490人の学生が学ぶ。国際学部は、国際教養を身につけ、実力派のビジネスパーソンを目指す。「海外スクーリング、ボランティア、海外留学などを通して国際的センスの涵養を図っています」
今年度から国際学部はこども学科を開設、国際学科とこども学科の2学科体制に。こども学科は従来あった地域こども教育専攻を学科に改編。「国際感覚豊かで英語を教えることのできる小学校教員養成を本格的に推進します」
経済学部は、「人間性と創造性豊かな経済人の育成」が目標。来年度から、経済学科を経済専攻(公共経済、金融・情報、現代日本経済の三コース)と現代マネジメント専攻(アジアビジネス、地域企業経営、スポーツビジネスの3コース)に分ける。
「スポーツビジネスコース」について。「スポーツ関連産業の市場規模は年々拡大。スポーツビジネスコースは、スポーツを経済学や経営学の視点から考えるとともに、スポーツ科学理論やスポーツ実技を総合的に学びます」
さて、「チバイチバン」プロジェクト。「イチバン」を目指し、自分自身に誇りと自信をもって欲しい、という願いが込められている。二年連続で「チバイチバンの全学的推進」プログラムが文科省の就業力育成プログラム(GP)に採択された。土井はまず、「チバイチバン」の総論を語った。
「学生は原石です。ダイヤモンドはなかなかいないが、様々な鉱石があります。まず、原石であることに気づかせることです。ここで重要なのが自信づくり。次に、磨き方。モノづくりや人や知識との出会いによって、ゆっくりと磨いていきます」
「チバイチバン力」の「チ」はチームワーク、 「バ」はバイタリティー、「イ」はイノベーション、「チ」は知識・知恵、「バ」はバランス感覚、「ン」(notice)は気付きで、六つの力があるという。
「社会や企業が求める社会に出たときに必要とされる社会人基礎力を卒業するまでに身につけること。これが本学の就業力育成プログラムの目標です。そのために必要な力を『チバイチバン力』と呼んでいます」
具体的には?「学生一人ひとりの将来の進路を見据えて、専門科目とキャリア科目の、どの学びがどの力の習得に役立つかを明示。学力偏差値とは別の独自の評価制度をつくり、チバイチバン力がどこまで身に付いたかを自分で確認できるようにしています」
企業出身の外部の人材が学生を指導する。「就職するときに必要とされる就業力育成授業は研究・教育に取り組んでいる教員よりも、ビジネス経験が豊富で、求める人材像を熟知している企業出身者の方がふさわしいですからです」
他者との関係の中での「イチバン」ではなく、頑張っている自分が“イチバン”好き、という「イチバン」を目指しているという。「チバイチバン」プロジェクトを中核にした学年ごとのキャリア教育・就業力育成について聞いた。
少人数の基礎ゼミ
1年生は、正課のキャリア教育科目(必修)として入学生全員が15人から18人ずつのクラスに分け、15コマの「キャリア基礎ゼミ」を受講。ディスカッションやグループワークで「自分を知る」、「学生生活への夢、希望を語る」ことなどから始め、将来目標を持つことの大切さを学ぶ。1、2年生対象に行われる新聞づくり。企画からアポ取り、取材、執筆、印刷会社とのやり取りまで含めてすべて学生が担当する。「社会で働く大人たち相手の取材や制作作業には社会人基礎力が凝縮されているとの考えから取り組んでいます」
2~3年次のキャリア教育科目では「文書作成能力」、「読解力」、「問題解決能力」などを育む授業。「『日経ビジネス』の特集記事などを読ませ、時事問題についてディスカッションし、読解力などを付けさせています」
3年生は毎週1回、全15回の「業界研究(キャリア特殊講義)」がある。「各業界で活躍する一流企業の営業部門の管理職(部課長)をロールモデルとして招き、生の経験談を学生にスーツを着用させて聞かせています」
「成田で職をゲット」
4年生には、4月下旬から5月にかけて「成田で職をゲット」というインターンシップがある。「成田空港に関連する企業20~30社の協力で毎年行っている採用直結型インターンシップで、採用に直結するケースもあります」チバイチバン力では、新たな仕組みもつくった。「それぞれの専門科目を受講すれば、どのチバイチバン力を伸ばすことができるのかシラバスに提示。学生たちは自身の目標を設定した上で、伸ばしたい能力、伸ばしたい専門知識を考慮して科目選択することができます」
「チバイチバン」プロジェクトの成果は?「具体的な成果がでるのは3年後ですが、学生は毎年、各能力の成長度合いを自己評価し、能力表に記入しています。卒業時には修得したチバイチバンの総合力、即ち社会で活躍するための“卒業偏差値”を把握できるようにしたい」
地域貢献・社会貢献も熱心だ。「高校生論文コンテストは8年目。毎年多くの応募があり、論文の質も非常に高くなっています。社会人対象の生涯学習講座も年々受講者が増えています。今後とも、さまざまな地域の知的ニーズに対応していきたい」
学長は、最後に語った。「建学の精神「敬天愛人」のもと、人間性の涵養と専門知識の習得を通して人間力を強化し、社会に有為な人材の育成に努めていきたい。これからも学生一人ひとりの面倒を教職員が全面的にサポートする面倒見の良い大学、地域を愛し地域に愛される大学であり続けたい」