特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<31>二松學舍大学
長期ビジョンを作成へ
教員採用を強化 学部学科再編など検討
即戦力となるプロフェッショナルな人材を育成してきた。産業能率大学(原田雅顕学長、神奈川県伊勢原市)は、マネジメント分野の教育・研究では80年以上の歴史を持ち、即戦力の人材を社会に送り出し、産業界の発展に貢献してきた。総合研究所で企業の人材育成を支援する一方、大学通信教育課程の学生数が多い大学としても知られる。大学の特長は、エンターテイメントやスポーツなど話題の業界の現場に触れたり、フィールドワークで観察・分析する「カリキュラム」や、グループワークなどを通じて1年次から“納得のいく就職”を目指す「就職力」だという。このところ、産業能率大学は盛んにマスコミに取り上げられている。大学広報の面からプラスだし、何より元気な大学であるのことの証左だ。学長に、独自のカリキュラムや就職力、これまでの学園の歩みとこれからを聞いた。(文中敬称略)
マスコミの取材相次ぐ 強い企業との関係
産業能率大学は、創立者の上野陽一が1925年に創設した日本産業能率研究所が淵源だ。50年に産業能率短期大学、63年、通信教育課程を開設。産業能率大学は1979年に日本で初めて経営情報学部をもつ大学として開学した。
原田が創立者の上野を語る。「わが国における産業心理学のパイオニアであり、アメリカのマネジメントの思想と技術をいちはやく日本に導入。これを学問として究めたばかりではなく、自らも経営コンサルタントや講演や著作活動を通じて、教育界・産業界に多大な功績を残した実践者でした」
続けた。「創立者は研究所で弟子を育てるのには限界があると学校教育で後進を育成することにしました。最初は短大でしたが、学生の多くは4年制大学を卒業した社会人で、彼らにマネジメントを実践指導しました」
89年、法人、大学、短期大学の名称をそれぞれ、(学)産能大学、産能大学、産能短期大学に改称した。「産業能率だと響きが硬いという意見もあって、『能力を産み出す』という思いを込めて変えたようです」
2000年、法人名を(学)産業能率大学に改称、経営学部を開設。06年、大学の名称を産業能率大学に戻す。「改称後にわかったことですが、産業能率という言葉が意外に浸透していました。創立の原点に戻ろう、ということになり戻しました」
07年には経営情報学部を情報マネジメント学部に改称した。「経営情報学部は、コンピュータが高度化・巨大化するのに合わせマネジメントも高度化するというコンセプトで設置しました。しかし、コンピュータはネットワーク型になり、情報化社会の中でマネジメントを考えようということから変えました」
現在、情報マネジメント学部(湘南キャンパス)と経営学部(自由が丘キャンパス)の2学部に2900人の学生が学ぶ。通信教育は、正課(卒業すると学士になれる)に約4000人、生産管理などテーマ別(企業の社会人)に約25万人が学んでいる。
「情報マネジメント学部では、学生は、マネジメントを効果的に推進するための情報技術や情報環境の活用法を学ぶとともに、価値ある情報を生みだすためのマネジメントのあり方についても学びます」
「経営学部では、学生は、企業経営や経営管理の理論や方法だけを学ぶのではなく、実践的なビジネスの考え方と方法を学び、現代のビジネス社会の最前線で活躍できる人材を目指しています」
2011年3月卒業者の就職内定状況(3月末現在)は、就職希望者473名中、就職内定者435名で、就職内定率は92.0%。就職力について尋ねた。
「企業との関係づくりがバックボーンとなっています。1980年から専門に入る前の2年生からインターンシップを行っています。学生は実習し、大学は企業の方を講師に招き、マネジメントの題材を提供、授業の科目もつくります。これらが就職に結びつきます」
企業の授業科目といえば、Jリーグの湘南ベルマーレとコラボレーションとして行っている「スポーツビジネス」の授業がそうだ。同大は、2004年、湘南ベルマーレのスポンサーになり、07年、横浜ベイスターズと業務提携した。
インターンシップや企業とのコラボと学生の就職の関係について聞いた。「ダイレクトに就職につながるケースもありますが、プレゼンテーションなど、こうした場で体験したことが企業から評価されて就職につながっています」
07年、スポーツマネジメント研究所が発足した。「マネジメントは広がりをみせています。そのひとつがスポーツ分野で、スポーツマネジメントを手掛けようと、ビーチバレーの選手育成や普及を目指しています。湘南ベルマーレや横浜ベイスターズとの提携に続くものです」
女子ビーチバレー部は同大の強化クラブにした。日本のトッププロが参戦するJBVツアー2011では、溝江明香選手(情報マネジメント学部3年)が田中姿子選手(エコ計画)とのペアで3度優勝し、2年連続総合優勝を果した。
クラブ活動も盛ん
クラブ・サークル活動は盛んだ。スポーツ系・文化系、合わせて約30団体が活発に活動。女子ビーチバレー部のほか、サッカー部、バレーボール部や軟式野球部を強化クラブに指定。サッカー部は2010年、2011年、神奈川県大学サッカー春季および秋季リーグで連続優勝した。ところで、冒頭の同大がマスコミに盛んに取り上げられたというケースはこうだ。「AERA」(10/31号)では、情報マネジメント学部の小野田准教授のゼミにおける就職支援の取り組み、「週刊東洋経済」(10/22号)の特集「本当に強い大学」では、経営学部の授業「新事業・商品企画の実践演習」が掲載された。
サンデー毎日(9/11号)「進路指導教諭が勧める大学はここだ」では、就職に力を入れている大学で「全国12位」、「関東・甲信越4位」とランクされた。読売新聞社発刊「就職に強い大学2012」(7/29号)には、同大のアクティブラーニングに関する記事が載った。
アクティブラーニングとは?「フィールドワークやグループワーク、プレゼンテーションを取り入れた実践学習をいいます。『教員が何を教えたか』ではなく、『学生が何を学び、できるようになったのか』を考え、カリキュラムを構築。アクティブラーニングと知識理論の学習とを補完関係にし、体系的に連携させていることが評価されて取り上げられました」
最後に、大学のこれからを聞いた。「学生の就職についての考え方は、これまで文科省、厚労省、経産省の間で分れていましたが、文部科学省が数年前から『就業力』を言い出しました。就業を重要視する考え方は、我々がずっと考え、実践してきたことです。これからも『社会に出てすぐ役立つ教育』という路線は強化していきたい」
具体的には?「就業力を持った学生とは、どういう姿なのか、卒業時の評価を数値化できないものかと思いました。学生の自己評価と教員の評価を合わせて品質保証するようなシステム作りを考えています。ディプロマ・ポリシー(学位授与方針)を強化していくことも大事だと思います」
「就職内定の早期化がいわれています。企業の『就職すれば、自分のところで育てる』という考え方もわからなくもありません。大学としては、内定から卒業までの間に、業界の研究など社会に出てすぐ役立つ就業力を身につけさせることも検討しています」
「知識は実際に役立ってこそ価値がある」と述べ、それを自ら実践した創立者、上野陽一。この教えは、いまも確実に受け継がれている。