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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<30>椙山女学園大学
  学生の自己実現を支援
  伝統の就職力 低学年から細かくサポート

 「人間になろう」が教育理念である。常に時代の先を見据え、女性により高い教育を提供してきた。椙山女学園大学(野淵龍雄学長、名古屋市千種区)は生活、教育、看護など女子大で日本最多の7学部を抱える。100年を超える歴史があり、創造的感性と自立精神をもった有能な女性を育て、社会に送り出してきたという自負がある。「就職の椙山」が伝統で、低学年からガイダンスやセミナーを開催、個別面談できめ細やかなサポートを行っている。2011年4月、文化情報学部に新たに「メディア情報学科」を増設。メディアの発達が人間や社会に与える影響について考え、情報社会に的確に対応できる能力を養成する。今後も女子の総合大学のメリットを生かし、人間教育の伝統のもと、「一人ひとりの学生の自己実現を支援する大学づくり」を目指す。椙山女学園大学の歩んできた道のりと改革、女子大学のこれからを学長に聞いた。
(文中敬称略)

女子大で日本最多の7学部 理念は人間になろう

 名古屋駅から地下鉄東山線で星ヶ丘駅で降りると、アメリカ西海岸の街のような風景。星ヶ丘テラスと呼ばれ、ブランドもののファッションの店やお洒落なレストランが並ぶ。この坂道を登り切ったところに星ヶ丘キャンパスがあった。
 椙山女学園大学は、1905年、椙山正弌と妻の椙山今子が名古屋市富士塚町(現、東区泉)に設立した名古屋裁縫女学校が淵源である。1930年、椙山女子専門学校が開校。椙山女学園大学は1949年に開学した。
 NHKの河西アナウンサーの「前畑がんばれ」で有名な1936年のベルリン五輪女子200メートル平泳ぎで金メダルを獲得した前畑秀子さんは椙山女学園の出身。椙山歴史文化館には、前畑さんの五輪での記念品などが展示されている。
 「大学にはプールはありません。付属中高にはありますが、水泳部は前畑さんがいた時代と違って強豪ではありません。大学スポーツも数年前、女子駅伝で活躍しましたが、スポーツ推薦などは行っていませんから…」と学長の野淵。
 その野淵が大学を語る。「本学は一貫して教育理念『人間になろう』のもと、少人数教育ときめ細かな学生支援をモットーに、一人ひとりの学生の自己実現の具現化に努めてきました。卒業生は社会一般から高い評価を得ています」
 「人間になろう」について尋ねた。「人間尊重のヒューマニズムの精神を学園教育のなかで活かしていくこと。理事長(椙山正弘)が常々いわれるように、人間は教育と学習によってはじめて人間になることができます。『人間になろう』の『なろう』とは単に呼びかけだけの意味ではありません。学生自らがすすんで努力をする主体性、自主性が強調されるという意味がこめられています」
 それを、学生には、どのように教えるのですか?「1年次は、『人間とは何か』を追究する『人間論』が必須科目(2単位)となっています。キャリア教育、食育、環境教育といったさまざまな学問領域も人間論の授業に組み込み、初年次教育の一環として取り組んでいます」
 さて、椙山女学園大は、70年代から文学部、人間関係学部、国際コミュニケーション学部、現代マネジメント学部…学部学科を増設。2007年に教育学部、2010年に看護学部を開設。現在、7学部に5800人の学生が学ぶ。
 教育学部と看護学部を新たに設置したねらいは?「ともに時代の要請と社会のニーズに応えたものです。教育学部は、幼稚園から大学院まで擁する総合学園のメリットを活かし、人間性豊かな保育士、教員の養成が目標。人間的魅力と教育実践力を併せ持った教員や保育士を育てたい」
 「看護学部は、少子高齢化という社会状況の変化に対応、『人間になろう』の教育理念の一翼を担おう、と設置。臨床心理学、栄養治療論など他の学部で培われたノウハウを織り込んだカリキュラムを組み、人間性豊かな看護職を養成したい」
 メディア情報学科を増設した文化情報学部は今年度、文化情報学科をリニューアル。「情報通信ネットワークを自在に活用し表現する能力を養成。文化・情報の領域のなかに新たに『観光』の分野を加えて総合的に学んでいきます」
 「就職の椙山」について聞いた。就職率(2010年3月卒業生実績)は、91.7%(就職希望者944名中866名就職)と、全国の女子大学の中でも、高い就職率を達成している。
 「安定した就職実績は、本学の伝統です。就職情報を伝えてくれるなど卒業生の協力も役立っています。同窓会は人材バンクを立ち上げて支援してくれています。おかげで、卒業生は業界を問わず多くの企業から評価されています」
 就業力では、文部科学省の平成22年度「大学生の就業力育成支援事業」に、同大の「トータルライフデザイン教育の構築と推進」の取り組みが選定された。  
 「女子総合大学として社会的・職業的自立のための教育実践をもとに、経済状況をも踏まえた就業力育成の支援体制をさらに整備・強化。大学の機能別分化の一つである『幅広い職業人養成』に比重を置く大学として確立していく、といった面が評価されました」 
 具体的には?「学生の就業力育成・向上のために、授業での『キャリアの学び』、インターンシップでの『実地の学び』、職業的自立に関わる『情報の提供やサポート』を有機的に関連させ、ライフステージ毎の課題に見識を持ち、トータルな人生の中で就業を考えることで、『トータルライフデザイン教育』を目指します」

地域貢献も積極的

 地域貢献も多様で積極的に取り組む。名古屋市昭和区にある桜山商店街。経済産業省の「新・がんばる商店街77選」にも選出され、さまざまな商学連携を行っており、2008年度から現代マネジメント学部の岡田ゼミが参画する。
 「学生や地域住民などで構成する外部団体が、各店舗を接客・快適性、環境への配慮、地域貢献、サービスなどを審査、優良店舗の認証する取り組みを行っています。商店街の、より一層の活性化に、学生たちが頑張っています」
 教育学部では「教育ボランティア」(担当:山田真紀准教授)の授業の一環として、名古屋市名東区役所と連携して、地域コミュニティ作りを応援する「チーム名東」という活動を展開する。
 「名東区が主催する各種イベントに参加し、取材して広報活動を手伝うとともに、今後の改善策について提案。名東区民アンケートを実施し、地域の現状を知るとともに、地域コミュニティ作りのための具体的な提案をしています」
 日本にある女子大学のなかで、学部数はトップ。学生数は武庫川女子大、大妻女子大、同志社女子大、日本女子大についで5位。女子大冬の時代などと言われる。「共学化について考えたことは?」とちょっと嫌な質問をした。野淵は穏やかに応えた。
 「それを検討したことは否定しません。しかし、本学は幼稚園から大学院まで擁する女子の持つ総合学園です。基本的な枠組みは変えるつもりはありません。女子大のよさを伝え、引き続き女子の能力開発に取り組んでいきたい」
 これからについて聞かせてください。「今後、少子高齢化、国際化・グローバル化、情報化等 が一層進む中、社会人や外国人留学生を含め、現代女性の新たな学びのニーズに適切に応えることができるよう、改革に鋭意取組んでいきたい」

未来の在学生に満足を

 具体的には?「社会の変化が早く、多様化しています。1学年の定員1300人規模の大学を維持していくには、在校生の満足度を上げるのは当然ですが、未来の在学生に魅力を感じさせる大学にする必要があります。そのために、どうすべきか、教職員の英知を生かし、同窓会とも連携して考え、実施したい」
 時代の先を見据え、女性により高い教育を提供していくという女子大で日本最多の7学部を抱える椙山女学園大学の決意に揺らぎはない。