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大学は往く 新しい学園像を求めて

<27>国立音楽大学
  今春、ジャズ専修を開設
  新校舎も使用開始 音楽文化の向上に足跡

 私立では日本初の音楽の高等教育機関である。国立音楽大学(庄野 進学長、東京都立川市)は、1926年創立の東京高等音楽学院がルーツで、以来80有余年、わが国の音楽界や音楽教育界に数多くの人材を送り出してきた。著名な音楽家も多い。卒業生は演奏者あるいは教育者として、またビジネスパーソンとして、日本の音楽文化の向上に大きな役割を果たしている。大学の基本的理念は、「自由、自主、自律の精神を以て良識ある音楽家、教育者を育成し、日本および世界の文化の発展に寄与する」。2011年4月、音楽学部演奏学科にジャズ専修が誕生した。同年九月からレッスン室、アンサンブル室、演奏スタジオを備えた豪華な新校舎(新1号館)が使用開始された。音楽大学として、「何よりも音楽を愛し、音楽へのこだわりと夢を信じ、自らの信念を貫き通す人々の学舎であること」をめざす。国立音大の歴史とこれからの歩み、音大の就職状況などを学長に聞いた。
(文中敬称略)

就職支援にも特色 音楽通じた能力生かす

 大学名は、1970年代まで国立市にキャンパスがあったことに由来する。「こくりつおんだい」と呼ぶ人もいるそうだが、正しくは「くにたち」である。1978年、現在の立川市に移転した。
 キャンパスは、西武線・多摩都市モノレールの玉川上水駅下車、徒歩8分。キャンパス内にある二つの学生食堂や喫茶室、ロビーは憩いの場。2000人の学生が学ぶ。図書館は、蔵書数約14万冊のほか、楽譜約13万冊、レコード、CDなどAV関係資料が約8万点。
 学長の庄野が国立音楽大学を語る。「豊かな音楽性を持ち、確実な技術や専門知識を備えた良識ある音楽家、教育家や、幅広い分野において音楽文化を支えることのできる人材を育ててきたという自負はあります」
 どんな学生に来てほしいか?「高い目標を持ち、自らの能力を常に高め、新たな可能性に積極的に挑み、専攻の基礎能力をしっかりと身につけ、意欲的に勉強に取り組む学生です」
 国立音大は、1926年、東京・四谷に東京高等音楽学院として開校。その後、国立市に移転。47年、国立音楽学校と校名を改称。50年、新制大学の国立音楽大学として発足した。
 1928年、声楽専攻の学生が新交響楽団(現NHK交響楽団)と共演、ベートーヴェンの『交響曲第9番』を合唱した。「毎年12月に開かれるNHK交響楽団の第9コンサートには、声楽専攻の学生が出演しています」
 2004年、従来の7学科を演奏、音楽文化デザイン、音楽教育の3学科に再編する改革を行った。「学生の質を重視するため定員を削減して競争倍率を確保、教えたい学生を集めるのがねらいでした」
 演奏学科は声楽専修、鍵盤楽器専修、弦管打楽器専修、ジャズ専修。音楽文化デザイン学科は、音楽創作専修、音楽研究専修、音楽療法専修。音楽教育学科は、音楽教育専攻、幼児教育専攻とした。別科として調律専修がある。
 同時に、カリキュラム改革を実施した。「初年次教育として基礎ゼミを設けました。1・2年次の基礎課程で、音楽の基礎能力と基礎知識を鍛えます。3・4年次の専門課程で、卒業後の進路を視野に入れた多様な目標に応じた教育を推進、“学びのスタイル”をカスタムメイドできます」
 2011年4月に誕生したジャズ専修。「音楽はジャンルを越えて常に進化しています。社会的意味のある新しい領域を開拓しよう、クオリティーの高いジャズ教育は意味あることだと設置しました」
 こう付け加えた。「どんなジャンルや形態の音楽を理解し、演奏し、創造していくことのできる、大きな視野を持った学生を育てることが目的です」
 授業は、ジャズ専門実技、ジャズ史、即興演奏、専門楽器奏法が共通。ピアノ専攻ではピアノ・ボイシングス研究、ベース専攻ではベース・ライン研究、ドラムス専攻ではリズム・パターン研究など、各専攻楽器別クラスで専門技術を学ぶ。
 指導教員には、教授に小曽根 真(ピアニスト)、准教授に池田 篤(サクソフォーン)。栗山和樹(作曲)。招聘教授には、山下洋輔(ピアノ)、渡辺貞夫(サクソフォーン)といった著名な音楽家がいる。
 「素晴らしい演奏家の講師が自分達の習熟している知識や技術を学生に直接伝授します。海外の一流演奏家によるワークショップも計画。卒業と同時に世界の音楽家達とコミュニケーションがとれる演奏家になることも全く夢ではありません」
 ときに、ジャズ専修の招聘教授である山下は国立音大の卒業生。著名なOBには、作曲家では久石 譲(招聘教授)、佐藤 勝、神津善行、声楽家の佐藤しのぶ、錦織 健、歌手の菅原洋一、秋川雅史らキラ星のごとくいる。
 新校舎(新1号館)を見学した。地下1階、地上4階。レッスン室(108室)、アンサンブル室(小:4室、大:8室)、オペラスタジオ、合唱スタジオ、オーケストラスタジオとゴージャス。この校舎には圧倒された。
 「音楽を極めるには、ソフトとハード両面で、優れた教育環境が必要です。音響の専門家とともにモデルルームを作り、実験を重ねたデータを基に建設しました。これまでにない最高の音響環境(音響空間)ができたと誇っています」

音大らしい地域貢献

 地域貢献は、音大らしい。今年度は「音楽づくりの現場から『心に癒しを、社会に潤いを』」をテーマに、連続市民講座(読売新聞立川支局との共催)を開催。「講座講師は、全て本学教授陣で、『どのようにしてコンサートができるのか』、『音楽は病を癒せるのか』などを講義しています」
 「音大生は就職が難しいのでは…」といった声を耳にするが、卒業後の進路を尋ねた。3万人を超える卒業生を社会に送り出してきた。教員として活躍する卒業・修了者が多く、2010年度公立学校教員採用候補者選考では現役、卒業生を含め全国で30人以上が合格した。
 「幼稚園教諭でも、本学の特色ある教育内容や学生の優れた資質などが認められ求人数が希望者を大きく上回り、毎年、希望者全員が各地の幼稚園に就職しています。その他、音楽教室講師や自宅教師、調律師などで専門分野を活かして活躍しています」
 キャリア支援は、「入学時の基礎ゼミから始まり、3年生からのコース選択も視野に入れ、卒業後を見据えながら学生が4年間の大学生活を自ら考え、歩んでゆけるような環境を整備しています」
 音大の卒業生の就職の難しさは?「『音楽』を追究する過程で技術や知識、教養とともに、継続力や人に物事を伝える、という社会人として必要とされる基礎的な能力を自然と身につけてゆきます。その『音楽』を通じて培った能力を進路選択に活かすよう指導しています」

3割が一般企業に就業

 2010年度は、就職者のうち約3割が一般企業・団体に就業した。「音楽関係はもとより金融・保険業、不動産関連業、福祉・医療関連業、サービス業等の様々な分野で、音楽を通して身に付けた専門性と多面的な思考を発揮しています」
 国立音大のこれからを聞いた。「本学は80年代から将来計画委員会を設けて以来、数々の教育改革に取り組んできました。学科の再編、ジャズ専修の開設、新校舎建設などがそうです。音大としての音楽の向上はもちろんですが、一般大学としてどうすべきかも、突き付けられています」
 庄野は、力強く結んだ。「自主的に改革してきた伝統を生かして、音楽大学として新たな領域がないかをみつけ、社会的な意義があれば、それにチャレンジしていきたい」。日本初(私立では)の音楽の高等教育機関である国立音楽大学は、これからも挑戦し続ける。