特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<20> 摂南大学
総合大学のメリット生かす
社会のニーズ 学生の可能性 学部横断型Pを推進
「知のネットワーク」としての総合大学をめざす。摂南大学(今井光規学長、大阪府寝屋川市)は六学部、学生数約7000人の関西の中規模な大学。「どの学部に属していても、大学の中を自由に横断して、未知の世界を訪問し、知の多様性を体験することができます」とアピールする。きめ細かい就職指導で成果をあげて来たが、昨年度から文部科学省の就業力育成事業に採択された「キャリア・フライデー」という独自のプロジェクトを展開している。さまざまな大学改革に取り組み、学生の活発な地域連携活動やボランティア活動などを反映して「つねに動きのある元気な大学」といわれている。2012年には看護学部を開設(設置認可申請中)、既設の理工学部生命科学科や薬学部と連携することでライフサイエンス分野の基礎研究から臨床研究までできるようになる。「動きのある元気な大学」のこれまでとこれからを、「一人ひとりに似合う総合大学にしたい」という元気な学長に聞いた。(文中敬称略)
きめ細かな就職指導 キャリア・フライデー展開
摂南大学は、1922年に創設された関西工学専修学校を発祥とする学校法人常翔学園が運営し、1975年、大阪工業高等専門学校を発展させる形で開設された。同法人の設置する大学には大阪工業大学、広島国際大学がある。当初は工学部(土木工学科、建築学科、電気工学科、機械工学科、経営工学科)のみの大学だったが、1982年、国際言語文化学部、経営情報学部、83年、薬学部、88年、法学部を増設、2005年、国際言語文化学部を外国語学部に名称変更した。
2010年、経済学部を増設、経営情報学部を経営学部に名称変更、工学部を理工学部に改組した。こうした学部の新設・改組により、現在、6学部12学科を擁する関西有数の総合大学に。薬学部が枚方キャンパスに、本部とその他の学部は寝屋川キャンパスにある。
学長の今井が大学を語る。「スマートでヒューマンな大学をめざしています。慣例に捉われることなく、知的専門職業人の育成、社会的ニーズの高い教育・研究、多様な社会貢献活動に取り組んでいます。学生には、豊かな人間性と揺るぎない倫理観を身につけてほしいと指導しています」
こう続けた。「総合大学のメリットを生かすべく、教育・研究、地域貢献が一体となった学部横断型プロジェクトを推進しています。社会のニーズに応えるとともに学生の可能性を広げることがねらいです」
学部横断型プロジェクトは、全学部の学生が参加する「フォーミュラプロジェクト」や学生・教職員が先端教育を他学部学生や地域住民に分かりやすい言葉で定期的に講演する「全学最先端研究フォーラム」がある。
2012年4月に看護学部を新設予定。「本学の強みである薬学部と同じ枚方キャンパスに開設。既設の薬学部との教育・研究におけるシナジー効果を期待しています。薬学に強い看護師を育成したい」
「キャリア・フライデー」プロジェクトのキャッチコピーは「摂南大学の金曜日はキャリアの日」。キャリア科目を金曜日に集中配置することで、学生および教職員のキャリア意識を高めるのがねらい。
学生の就職状況については、2010年度の就職率は93.3%、就職満足度は92.5%。「就職率、満足度ともに全国でもトップクラスです。学生一人ひとりの個性に合わせた指導で、就職と資格取得をサポートしてきました」
今井が「キャリア・フライデー」を説明する。「これまでも教育活動のなかで就業力向上に向けた取り組みを実践してきたが、専門教育、教養教育と就職指導の連携が十分に機能しているとはいえず、プロジェクトを構築することになった。学生の就業力と就業意欲の飛躍的向上と大学構成員の支援意識向上をめざします」
具体的な取り組みは?「キャリア科目数を大幅に増やし、専門、教養につぐ三番目の群として『キャリア形成科目群』を独立させます。コア科目を必修化し、進級、卒業に必要なキャリア科目単位数を定め、学生全員にキャリア教育を行います」
さらに、入学時および各学年進級時にプレイスメントテストを実施し、就業力の変化を可視化。優れたキャリア教育経歴があり、実社会でも採用や社員研修の実施経験のある人材を専任教員として採用するなど多彩に取り組む。
「つねに動きのある元気な大学」について聞いた。まず、地域貢献。2010年3月、和歌山県すさみ町と包括連携を締結、町の活性化のために学生の力を活用するPBL型プロジェクトが始動。「学生は自ら課題を発見し解決する能力を磨くことができ、地域貢献だけでなく実践教育の面でも成果をあげています」
オリックスと連携
2011年、プロ野球球団のオリックス・バファローズと、教育に関する連携協定を締結。「大学の持つ知的資源を地域貢献に結び付ける取り組みを促進したいという思いと、地域密着、ファン目線重視という同球団の思いが一致。球団職員による講義を設け、球団による経済活動などを学びます」市民と薬草見学会
薬学部の附属薬用植物園では、毎年、春・夏・秋に関西一円の市民を対象に「薬草見学会」を開催。同植物園は、総面積約1万㎡の敷地に薬草など約1500種類の植物を栽培。「見学会は毎回、100名を超える応募があるので抽選で実施しています」地域貢献の形はさまざま。この5月、寝屋川キャンパスで新1号館の竣工を記念した国際シンポジウムを開催。経済学、生命科学、住環境デザイン学の分野でそれぞれ世界的に活躍するサスキア・サッセン教授、ハンス・ウルリヒ・デムート教授、ハッシェム・アクバリ教授の3人を招聘した。「地球と人類が直面する困難な諸問題をテーマに講演してもらいました。本学学生のみならず、他大学や企業、研究者、一般市民の方々なども参加、単なる大学のシンポジウムに終わりませんでした」
ランドセルP展開
学生たちも、「つねに動きのある元気な大学」を実践している。東日本大震災では、早い時期に大学独自の取り組みとして「ランドセルプロジェクト」を展開した。「枚方市内の家庭からランドセルをご提供いただき、本学の教員、学生らが修理し、同市内の小学生らの手紙を添えて被災地に届けています」文科省の「グローバル人材育成プログラム」では、同大の「人間力育成のためのPBL型実践教育」が採択された。「PBL型実践教育という問題解決型授業で、多くの学生が在学中に青年海外協力隊の採用試験に合格。過去四年間に27人が開発途上国で活躍しています」
大学や専門学校などでデザインを学ぶ学生が感性と想像力を競う今年の「第43回毎日・DAS学生デザイン賞」では、建築部門で、同大大学院生の北川真梨(22)が部門賞に輝いた。「非常に権威のあるコンテストで部門賞を獲得したのは本人だけでなく大学にとっても栄誉です」。今井は顔をほころばせた。
女子学生増やしたい
「北川さんのように女子学生の活躍はうれしい。今後、女子学生を増やしていきたい。看護学部には、そうした期待もあるが、近い将来、もう一学部つくりたい。中規模の総合大学として、一人ひとりを指導、きめ細かな教育研究のできる、ちょうどいい大きさの大学になる」今井には、総合大学へのこだわりがある。こう結んだ。「大学全体が一つの生き物のように、温かい血を通わせ、心を通わせ、熱い思いを通わせている。まだ完全とは言えないが、この素晴らしい個性をさらに強めていきたい」。総合大学のメリットを生かして発展させる、という強い意思がみなぎっていた。