特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<16>筑紫女学園大学
二学部体制で新生図る
人間科学部新たに開設「社会の担い手育てたい」
「筑女(ちくじょ)」と地元の人は愛着と親しみを込めて呼んでいる。筑紫女学園大学(小野 望学長、福岡県太宰府市)は、学校法人筑紫女学園が運営、同法人傘下には幼稚園、中学校、高校、短大がある。仏教とくに浄土真宗の教えを建学の精神として設立された。「就職の筑女」といわれるように高い就職率を誇る。これには、100年を超える伝統の力もあるが、就職が内定した先輩による「先輩ゼミ」や1泊2日の「就職活動強化合宿」、保護者同伴の「就職ガイダンス」など手厚い就職支援がある。さらに、学科ごとに専任スタッフを配置、きめ細かな一人ひとりの夢の実現に向けたサポートを行っている。躾のしっかりとしたお嬢さん大学というイメージがあるが、2011年、人間科学部(人間科学科)を開設。文学部との2学部体制に改革、新たなスタートを切った。
これまでの大学の歩みと改革などを学長に聞いた。
(文中敬称略)
就職の筑女 伝統と手厚い支援
最初に、話題にしたのは、往年の名スイマーで、筑紫女学園高校OBの田中聡子さん(現在、竹宇治聡子さん)のことだった。高校時代、200m背泳ぎで世界新記録をマーク。高校3年の1960年ローマ五輪100m背泳ぎで銅メダル。「偉大な卒業生で、学園の誇りです。しかし、いま高校にプールはなくなり水泳部はスイミングスクールで練習しています。今、うちの高校で強いのは女子駅伝で、全国大会出場の常連になっています」と学長の小野。
大学スポーツはどうか?「うーん、全国レベルのものはないですね。弓道部、軟式テニス、バレーボール部が頑張っています。田中聡子さんがいらした時代とは比べられません」いささか脱線したので軌道修正。
小野が「筑女」を語る。「学園創立80周年を機に大学を開学。自ら考え行動する人材を育てるため、『人とことばと心の教え』を女子教育の基盤とし、各学科で時代に沿った幅広い教育を展開することで将来の可能性を広げています」
筑紫女学園大学は、1907年、創設者の水月哲英が開設した筑紫高等女学校が前身。1965年、筑紫女学園短期大学を開学。88年、筑紫女学園大学が開学した。現在、4年制に約2700人、短大に約400人の約3100人が学ぶ。
小野が創立者について話した。「浄土真宗本願寺派の北米布教の責任者として駐在していた水月哲英は、アメリカの女子教育の進歩に啓発されて高等女学校として本学園を創設。その半月後に英語授業が始まりました」
この歴史と伝統は生きている。ひとつは、仏教の浄土真宗の教え。「仏教の教えを基に社会に生きるしなやかな感性と教養を身につけ、新しい時代を創造する女性を育てています」。「仏教学」と「親鸞・人と思想」の授業は1、2年次の必修。
もうひとつは、語学力と国際感覚を養う国際交流。「カナダ・中国・オーストラリアへの留学、職業体験ができるオーストラリア研修、インドの国立大学などを訪ねる思想と文化研修、学科のオリジナル研修などがあり、貴重な経験を得ることができます」
教育の特長は?「他学科の専門科目や併設短大部の科目も学ぶことができ、卒業単位として認定されます。所属する学科に限らず、枠にとらわれない学び方ができ、より幅広い知識を修得することができます」
2011年の人間科学部開設に先立ち、2002年に文学部に発達臨床心理学科、05年に英語メディア学科を開設というように漸進的な改革を行ってきた。人間科学部開設の狙いを尋ねた。
「新学部の基礎は、これまでの発達臨床心理学科と人間福祉学科にあります。人間科学とは、人間を中心に据えた新しい総合科学。人間科学部開設によって、人間が人間らしく生きることのできる社会づくりの担い手を育てていきたい」
具体的には?「これまで本学は、幼稚園と中高の学校教員を育ててきました。新学部では、小学校教諭も養成できます。また、4年間かけて保育士や幼稚園教諭をめざす幼児保育コースを設置したことも大きな意味を持っています」
さて、「就職の筑女」。これを支えるのはキャリア支援プログラム。「早い段階から就職や進学に対する支援に取り組んでいます。早期に活動を開始することで夢や目標をいち早く発見し、より具体的な活動に取り組むことが可能になります」
「先輩ゼミ」は、就職活動を控える下級生を対象に90分のゼミナール形式で実施する。「企業選択や業種選択で悩みが出始めるこの時期の学生にとって、就職の内定した先輩は身近で心強い存在。体験者ならではのアドバイスや熱心な指導が大きなメッセージとなって伝わります」
「就職活動強化合宿」は、就職活動が本格化する大学3年生を対象に1泊2日で実施。就職内定者の大学4年生が同行する。「先輩の体験談発表やグループ・ディスカッション、スピーチ、発声練習などを行います。学生は自分の課題に気づき、将来の目標を明確にしていきます」
保護者同伴の「就職ガイダンス」は、前年の就職実績の報告や就職支援プログラムについて説明、就職活動を終えた4年生による体験談などの発表がある。「保護者からは、日頃の不安が解消されたという声を聞きます」
就職支援には、卒業生の力も大きい。卒業生が就職体験をレポートした就職活動報告冊子「アヴニール」(300頁)は、同窓会「紫友会」が作成、学生に配っている。
先輩と後輩の絆を小野が語る。「就職支援に限ったことではありませんが、学生生活で培われた先輩と後輩の関係(絆)を非常に大切にしています。その結果、社会へ出てからも多くの企業から高い評価を受けています」
今春の就職実績を聞いた。「昨年よりは上向きました。厳しい状況が続く教員採用では、過去3年間に40人以上の教員を輩出しています。インターンシップでは、地場企業を中心に就業体験します。そのまま地元企業に入る学生もいます」
卒業式の日(3月18日)に、学生たちは東日本大震災の募金活動を行った。卒業式の冒頭、出席者全員が起立して東日本大震災の被災者に一分間の黙祷。式場前で、筑紫女学園大学・短期大学部学友会CJBA聖歌隊に所属する学生が中心となって、災害見舞金の募金活動を実施した。
小野は、取材の冒頭に「筑女」を語った際、「うちの学生たちは自らの可能性を探し出すため、積極的に課外活動を行っています」と述べた。それは、聴覚障がいを持つ学生の隣で授業内容を文字で書き表し伝えるボランティア活動の「ノートテイカー」、地域と連携して小学校などで活動する「学生サポーター」、「九州国立博物館ボランティア」だという。
こうした普段の地域貢献、ボランティアといった課外活動が、今回の卒業式での東日本大震災の募金活動につながったのではないか。小野は、大学のこれからを語った。
「100年前、創立者の水月哲英がアメリカの女子教育の進歩に啓発されて本学をつくった意義を受け継いでいく必要がある。女性がどう社会で生きていくか、このことを常に考えていきたい」
最後に「共学化する女子大が多いが?」と問うと、「様々な分野で活躍している100年にわたる卒業生がいます。これは学園の伝統の力であり誇りです。これからも、女子教育で頑張っていきます」これまでにない力強い口吻だった。