特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<15>明星大学
「教育の明星」の旗幟鮮明に
「MI21」で新たな改革 2012年には経営学部開設
「教育の明星」の旗を高く掲げる。地域と連携しながら「教職インターンシップ」などの体験教育を行い、実践的指導力を備えた教員の養成をめざす。明星大学(小川哲生学長、東京都日野市)は、毎年多くの学生が現役で公立学校教員として就職するなどの成果をあげている。また、大学入学後すぐに始まる全学的な初年次教育科目「自立と体験」を設け、学生は学部・学科横断型少人数クラスで学び、就職力や地域貢献にも力を入れる。「教育の明星」は、その旗を掲げながら、2005年と2010年に学部学科の再編などの改革を行い、教育システムを強化してきた。2012年4月、経済学科と経営学科で構成の経済学部から分離させて経営学部を開設する。これまで大学の歩みと改革の中身や成果などについて学長に聞いた。
(文中敬称略)
就職力と地域貢献 教員採用に高い実績
取材で訪れた日野キャンパスは豊かな自然に囲まれたなかに、モダンな高層棟が屹立。教育・研究に専念できる環境が整っている。IT環境を完備した教室だけでなく、レストランやカフェテリアなどの談話スペースも充実。図書館は、資料館と合わせて約80万冊の書籍を所蔵する。明星大学は、1923年、成蹊学園の創立者、中村春二の薫陶を受けた児玉九十によって創立された明星実務学校が淵源。1964年、理工学部一学部で明星大学が開学。65年、人文学部を開設、2学部8学科となり、総合大学の道を歩みだす。
現在、教育学部、人文学部、理工学部、経済学部、情報学部、造形芸術学部の6学部に、大学院や通信教育部を備える総合大学になった。通学課程に約8000人、通信課程に約7500人の合計1万5500人の学生が学ぶ。
学長の小川が学祖、児玉九十を語る。「児玉先生は東大で陽明学を学び、郷土の二宮尊徳を尊敬していました。江戸後期の儒学者で咸宜園をつくった広瀬淡窓にあこがれ、私塾を創ろうと明星実務学校を開設。実践躬行(口で言うことを実際に行う)がモットーです」
理工学部一学部で大学を開学した理由は?「明星実務学校が開学40周年を迎えたのを機に大学をつくりました。時は、まさに高度成長期で、中堅工業技術者が足りないという時代背景があったようです」
小川が続けて明星大学について話す。「建学の精神は『和の精神のもと、世界に貢献する人を育成する』です。ただ知識を詰め込むだけでなく、問題を見出し、解決に向けて取り組む判断力や実行力を身につけさせる教育を行っています」
改革の嚆矢は、05年の学部学科の改組。情報学部経営情報学科の経営分野を移行し経済学部経営学科を開設、情報学部の情報分野を集約し情報学科3コースを開設(日野校舎へ移転)、日本文化学部造形芸術学科を造形芸術学部に昇格させるなど6学部14学科2専修3コースにした。
2010年の大改革は、人文学部心理・教育学科を分割、教育学部を開設した。日本文化学部言語文化学科を日本文化学科として人文学部に組み入れ、人文学部人間社会学科の社会福祉学分野を移行し福祉実践学科を開設。理工学部6学科を集約し総合理工学科を開設、6学系のコース制に移行するなど6学部11学科6学系の体制にした。
一連の改革の動機を小川に尋ねた。「95年ごろからのバブル経済崩壊、少子化によって中小規模の大学には向かい風が吹きました。そこで、持てる教育資源を集中して特色ある学部学科にしようと改革の動きが起き、それが05年と10年の改革につながりました」
それぞれの改革について語る。「05年は、教育の中身に重点を置きました。学生サポートセンターを設置して初年次教育に取り組みました。さらに、教育課程を再編成して、全学に『自立と体験』科目を導入。10年の学部学科再編に伴う大型改革の目玉は、教育学部の設置です」
教育学部開設の意図は?「近未来の学校教育と、それを担う教員のあり方を見越して設置しました。40年におよぶ教員養成の実績とノウハウに裏づけられた初等教育に加え、中等教育、特別支援教育、そして保育をも網羅した重層型カリキュラムを組み、複数の免許状・資格を同時に取得できる体制を整えました」
教員採用に強い歴史は、65年の人文学部(心理・教育学科)設置と67年の通信教育部開設にさかのぼる。「通信教育部には、教員志望の社会人の方が多く入学、一生懸命勉強されて卒業後、小学校の教員になりました。その数は2万から3万人にのぼります」
この伝統は、いまも健在だ。教員採用試験における高い現役合格率は数字が物語る。2010年度の東京都公立小学校採用試験では、東京都全体の合格率28.8%を大きく上回る47.9%(合格者36名)となった。
なぜ、教員採用試験に強いのかを聞いた。「これまでの教員養成の実績やノウハウもありますが、いまや卒業生の多くが校長や教頭になっています。このOBが大学に教えに来てくれるなど現役学生の支えになっています」
教育学部が突出しないですか?「各学部が均衡に発展すれば良いが、現実はそうではない。私学には、看板学部というのがあって、それが全体を底上げする、というやり方があっていいし、どの大学もやっている。明星大学イコール教育と色がつくのは、無色よりもずっといいと思う」
一般企業への就職についても語った。「就職サポートを行うキャリアセンターを設置、教員とも連携しながら個別相談を中心に行うことで学生との密接な関係を築いています。エントリーシート、筆記試験、マナー対策などを指導。就職内定の学生もアドバイザーとして活動しています」
学生への支援として「学内合同企業セミナー」を実施。年15回以上、約600社の企業が事業内容や採用過程をレクチャー。夏休みを利用した3年生のインターンシップも充実。「多くの学生が一般企業・団体での就業体験を積むことで、就職活動に弾みをつけています」
地域貢献では、〈造形芸術学部の学生がデザイン、地元メーカーが製造、授産施設が包装したタオルを青梅マラソンの会場で販売〉という話題が新聞に大きく載った。09年に開設された「連携研究センター」は、産学公連携を戦略的に展開して地域社会に貢献。「学生も参加して、学生にとっても良い実習の機会になっています」
大学のこれからについて尋ねた。現在、「MI21」(明星イノベーション21)が進行中だ。21世紀における明星大学の改革。「外形や体系でなく教育研究の中身をよくしたい。トップダウンでなく、教育の現場からの改善のための戦略をつくりたい。経済学部から分離させて経営学部を開設する2012年4月は、中身を変える絶好のチャンスでもある」
小川は「苦しいときもあったが、さまざまな改革で乗りこえてきた。教育の明星の伝統を生かしながら全体を底上げしたい」と述懐。「教育の明星」にこだわりを見せながらも全体のかさ上げを誓った。
いわき明星大にも被災学生 東日本大震災を全面支援
明星大学を設置している学校法人明星学苑(蔵多得三郎理事長)は福島県いわき市にいわき明星大学(関口武司学長)を設置している。このたびの東日本大震災により、東北一帯は大変な状況になっている。同法人が設置している両大学にも、今回の大震災で被災した学生が出た。明星学苑では、被災した学生が修学を継続できるよう、学校法人あるいは大学としてできる限りの支援を行うことを決定した。
また、明星大学は、いわき明星大学やいわき市に対して地震発生後すぐに、明星大学の備蓄品や生活用品等を支援物資として搬送。今後は要請に応じて、物資のみならず大学の知財を含めた支援を行う。
明星大学の学生や教職員からも、支援をしたいとの声があがり、義援金を募り経済的に支援をしていくことやボランティア活動等の支援を行えるよう態勢を整えている。