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大学は往く 新しい学園像を求めて

<14>東北薬科大学
 東北の薬学教育をリード
 薬学6年制に伴い改革 2学科制、最新機器設置


 薬科系大学は新しい時代に突入した。06年から薬学6年制という戦後最大の改革が実施された。東北薬科大学(高柳元明学長、宮城県仙台市青葉区)は、私立薬科大学では唯一の附属癌研究所を設立、私立薬科大学では最初の大学院を設置するなど改革の歴史を持つ。薬剤師国家試験の合格率は、薬学部がある全国の大学の中でも上位。就職難といわれるなか、高い求人倍率・就職率を誇る。創立70周年記念事業として、新キャンパスを整備、モダンでアカデミックな建物、最新の機器・設備を取り入れた研究施設が出来上がった。薬学六年制に伴い、06年から生命薬科学科(4年制)・薬学科(6年制)の2学科制をとる。二年前から卒業生を出している生命薬科学科の就職率は100%、来年、卒業生を出す薬学科の薬剤師国家試験合格率や就職率に関心が集まる。伝統を誇る研究・教育、薬剤師国家試験と就職、新キャンパスや薬学部の将来などを学長に聞いた。
(文中敬称略)

モダンなキャンパス
高い就職率を誇る

 東北地区の薬学教育を長年リードしてきた。東北薬科大学は1939年に設置された東北薬学専門学校が前身。49年、新制大学に移行、東北薬科大学(薬学部薬学科)となった。62年、大学院修士課程開設(薬学研究科)、64年、大学院博士課程開設(同)を設置した。
 学長の高柳が大学の歴史を語る。「大正期から昭和初期にかけて、仙台にあった国立薬学教育機関が廃止されたあと、東北・北海道に薬学教育体制が存在しない時代がありました。東北薬学専門学校は、東北地方に薬学教育機関を設立することを目的に誕生しました。現在も『東北地方の薬学教育・研究の先導的役割』を掲げています」
 正門から入ってキャンパスモールの正面に見えるのが06年に完成した教育研究棟。モダンで先進性に富んだ建物に圧倒される。学内には「われら真理の扉をひらかむ」という大学創設者、高柳義一の言葉を刻んだ「開真の碑」がある。
 65年、衛生薬学科、71年、製薬学科を増設。06年、学科を再編、6年制の薬学科と4年制の生命薬科学科の2学科体制へ移行した。現在、1学部2学科に約1700人の学生が学ぶ。
 「開学以来、基礎系学問の研究にも傾注してきました。私立薬科系大学では文科省などの科学研究費獲得でも上位にいます」と高柳は述べる。
 平成21年度の文部科学省の学生支援推進プログラムに「薬学部4年制学科の学士力向上を目指したキャリア形成教育」の取組みが採択された。新しいキャリア形成教育に基づく学士力の確保と学生の個性を生かした就職支援プログラムである。
 平成22年度の文科省の「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」に9つの薬系大学・薬学部とともに申請した「大学連携による6年制薬学教育を事例とした標準的な基盤教育プログラムの開発」が採択された。
 さて、薬学6年制について、高柳が総論を話す。「薬学6年制は、チーム医療など医療の高度化に伴い、臨床や実務実習を強化するため採用されました。“六年制だけだと研究者が育たない”と旧帝大が反対して4年制が残りました。薬学部を持つ私立大学58のうち4年制を創ったのは12校です」
 続けて各論。「6年制は卒業が2年延びたことで学費が1.5倍になりました。現在、薬学部は7年前の小泉政権の規制緩和策による薬学ブームで2倍に増え、18歳人口の減少もあり、定員割れを起こす大学も出ています」
 東北薬科大は、生命薬科学科と薬学科の2学科制の英断を下した。「薬学科は、社会に貢献できる薬剤師の養成、生命薬科学科は、基礎薬学を土台に医学と薬学の二つの領域にまたがる生命科学の高度な専門知識を修得させるのが目的です」
 先に卒業生を出した生命薬科学科の就職はよかったとか?「1、2回生とも就職率は100%でした。製薬会社、食品や化粧品などの会社で薬の専門家として業務に就いている学生が多い」
 薬学科のほうはどうか?「来年の春に初めての卒業生を出しますが、薬剤師国家試験合格率をよくしようと全学挙げて取り組んでいます。これまでの合格率は維持できると確信しています」
 薬剤師国家試験合格率は、新卒でずっと90%前後を保ってきた。就職難と言われる時代が続く中、就職は好調に推移。それは求人件数からも明らかだ。08年度の求人件数は1184件、求人数は1504名で、就職(進学)率97.8%と高い。
 経済誌や週刊誌の「就職ランキング」でも、理系の大学では北海道・東北地区では3位、全国で16位、大学専門誌の「就職率が高い大学(院卒含む)」では全国で7位、女子就職率上位50大学では4位となっている。
 就職指導は三位一体
 「就職指導は、学生、配属教室責任者、就職部の三位一体で行っています。学生の能力と適性、将来の志向をしっかりと見つめ、豊富な情報収集やガイダンスを通じて就職活動をサポート。入学後の早い時期から製薬工場、調剤薬局や病院、保健・福祉施設等を見学する『早期体験学習』を実施しています」
 薬学6年制と歩調を合わせるように、09年、新キャンパスが完成。中央棟は、1階に、さまざまな学生相談に応える事務室、就職情報コーナー、保健管理センターなどを設置。教育研究棟にある臨床薬剤学実習センター(模擬薬局)は、実際の病院薬局、保健薬局さながらの環境を備えている。
 薬学科の5年次に行われる「共用試験」に備え、図書館・情報センターの2階には、180台のコンピュータ環境を備える情報教室や自習室を設置。ポストゲノム研究の拠点となる「分子生体膜研究所」をはじめ、先進の機器・設備を取り入れた研究施設も出来上がった。
 こうした最新の教育研究施設が、「大学のこれから」を支える。「薬学6年制は高度医療の技術を持つ薬剤師を育てるという面から医療現場には役立つはず。この目的を果すために研究施設を整備しました。薬学系大学ではトップクラスの施設と自負しています」と高柳。
 生命科学研究の拠点
 分子生体膜研究所は、59年に開設された癌研究所を引き継いだ。ポストゲノム時代における生命科学研究を本格的に探求する拠点。同研究所の共同研究プロジェクト「生体膜の糖鎖機能と疾患に関する薬学的研究」は06年度から文科省の学術フロンティア推進事業に選定された。
 創薬研究センターは、05年度の文科省のハイテク・リサーチ・センター整備事業に採択された「分子標的制御によるがん・加齢性疾患および難治性疼痛制御の研究」を学内共同研究で行う。これを発展させた「癌および加齢性疾患の制御とQOL向上をめざす創薬」研究は10年度の文科省の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に採択された。
 大学のランドマークといえる教育研究棟の名称は「VERITAS(ウェリタス)」。ラテン語で真理を意味する。大学創設者、高柳義一の言葉である「われら真理の扉をひらかむ」と重なり合う。
 学長の高柳は、真理の探究をしきりに語った。「真理の探求は、まさに大学の使命である教育・研究の原点で、この建学の精神は今後も薬学教育・研究において取組む姿勢と努力を求め続けるものです」
 高柳の言葉には、こんな思いが込められている。東北薬科大学は、薬学部が新しい時代に突入したなか、真理の探究という建学の精神は不変である―と。

 東北薬科大学の取材は3月11日の東北地方太平洋沖地震の起こる前に行いました。このたびの震災で、東北薬科大学は学生や教職員らの人的被害はありませんでしたが、建物の一部および擁壁等に被害があったとのことです。現在、実家に帰った学生の安否を確認中とのことでした。