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特集・連載

私大の力

<61> 私大協80周年 其の四
記念事業の浜本委員長
多様な価値の適切な評価を

平山一城

■「令和8年熊本地震」で問われたもの

 日本私立大学協会の「80周年記念事業実行委員会」委員長をつとめる副会長、浜本隆之(東京理科大理事長)は7月24日の私大協理事会で、準備を進めている12月1日・2日の記念事業プランの進捗について説明し、了承を得た。
 その4日後である。令和8年熊本地震と名付けられた大地震は起きた。偶然にも、私大協70周年の2016(平成28)年にも、震度7の地震で被害を受けた熊本地方にとっては、この10年の復興努力に冷や水を浴びせられるような衝撃だった。
 九州だけではない。日本の各地で、地震や水害が毎年のように繰り返される。そのたびに地域の復興にとっての大学の役割が問われ、大学当局も学生たちも地元の人たちの期待に応える努力を重ねている。
 地域にとって欠かせない人材、いわゆるエッセンシャルワーカーがどれほど重要かは今回の熊本地震でも表面化した。
 政府が「プッシュ型支援」を掲げ、食料品や緊急物資を現地に送っている。しかし、それらを被災した人たちのもとに届ける人材が足りない。自治体の職員も医療従事者も警察官も、日本各地からの、あるいは地域間の応援によってやりくりしている。
 私大協はじめ地方の大学の関係者は、普段から、このことの大切さを訴え続けていた。被災経験やその特殊性を教訓に、「知の拠点」としての大学は、地域に根差した人材をいかに育て輩出するかに心血を注いでいる。
 80周年事業の実行委員長として浜本にインタビューしたのは地震前の7月21日だったが、そのときも「私大協は、私立大の魅力と存在意義を広く社会に発信するとともに、各大学が、地域の知の拠点として、我が国の一層の発展と人類社会のために貢献できるよう力づけ、応援する存在でありたい」と力説している。
 そして、浜本がとくに訴えたのは「中央と地方のバランスの中で、日本の高等教育の在り方を考えていく、各地の大学を一律の基準によってではなく、多様な地域性や各分野に応じたそれぞれの価値を評価してほしいということ」だった。
 今回、10年の間に2度も、震度7の地震が同じ地域を襲うような災害大国・日本の死活的な課題として浮き彫りになっている論点だろう。

■「未来に向けたメッセージ」の場に

 「80周年の記念行事は、単なるお祝いにとどめずに、『未来に向けたメッセージ』を打ち出す節目にしたいというのが我々の思いです。それは、今年のスローガンを『新たな時代へのチャレンジ ~私大を魅せる~』とした時からの決意でもあります」
 全国400余の大学が加盟する私大協には7つの地方支部があるが、実行委員会に支部の代表たちも交えて意見集約を進める中で、浜本が重視したのは「地域と大学との関係性」ということだった。
 いま大学はいくつもの困難に直面しているが、それは、日本の地方・地域の縮図そのものと言ってもいいだろう。そして、それぞれの地域の課題を知っているのは、その最も近いところにある大学に違いない。
 地域の産業、文化と近い距離で社会と向き合い、人材育成や研究を通じて社会に貢献できる存在、それこそが地域に根差した大学の存在意義であり、80周年の式典では、その前向きなメッセージを打ち出したいと考えた。
「私立大の存在意義を訴えるには、地域との関係をさらに深めていくことが必要ということです。全国の8割近い学生は私学に在籍しており、とくに、地方におけるその役割には圧倒的なものがあるのです。財務省では、少子化を背景として大学の規模適正化に関する議論が進められており、私立大については250校程度の再編・縮減が必要との試算も示されていますが、もしもそうなったら日本の国のかたちはどうなってしまうか、を考えてほしいのです。大学数だけではなく地域的な役割も踏まえた議論が求められています」
 「東京にある我々のような学生数2万人の大学と、地域にある2000人の大学とどちらが大事なのか。単に絶対値だけでの比較をすると、物事を見誤ることになりかねない。小規模校が、その地域において大規模校の10倍以上の価値を持つこともありえます。画一的な評価ではなく、地域性に応じた適切な価値評価が必要なのです」
 検討すべきテーマはいくつもある。多様化する社会的要請に応えるには、「教育の質」を高めて学術研究を活性化し、地域に新たな価値を創り出していく。国際社会にも目くばりをして国内外の幅広い人たちと連携しながら、次代を見据えた取り組みを進める。
 そのように私立大が地域と関係を深化させ、地域における高等教育の中核として一層の信頼を受ける組織となっていく。
 すでに現在でも、経済産業省のデータ(大学発ベンチャーの数など)を見ると、国からの支援が極めて少ない中でも有効なアウトプット(成果)を生み、「投資効率の高さ」を示している私立大も少なくない、と浜本は強調する。
 そして「私学は、それぞれの『建学の精神』を基盤に据える多様な存在ですが、社会を支える公共機関として、持続可能な経営を確立することも求められます。経営面での『透明性』や『持続可能性』の観点も重要になってきます」とも指摘した。

■私大協との「長く深い縁」を大切に

 浜本は東京理科大工学部を卒業した後、東京大大学院を経て、母校の助教授、教授となり、2021(令和3)年から理事長をつとめている。
 在学中の理科大の理事長は橘髙重義だった。私大協で1984(昭和59)年から16年に渡り第8代会長をつとめ、この間、日本私立大学団体連合会の会長にも就任した私学界の実力者だった。
 「橘髙先生は私の入学時も、卒業の時も大学の理事長であり、そのつど、お話は聞いていました。当時から理科大は、私大協との間で長く深い関係を築いており、そのご縁を大切にしてまいりました。私としましてもそれを受け継いで、しっかりやって行こうと考えておりますが、そうした中での今回の80周年事業担当のご指名でしたので、身の引き締まる思いです」
 そして浜本は「私は80周年をひとつの通過点として、未来へのメッセージを打ち出していきたい」と重ねて強調する。
 「私学は、戦後復興、高度経済成長、国際化、そして急速な少子化など、その時々の社会課題に向き合いながら、多様な人材を育成し、日本の発展を支えてきました。全国には規模も地域性も、建学の理念も異なるさまざまな大学がありますが、その多様性こそが私学の最大の強味です。その私大の価値をアピールできるよう努力することです」
 その上で、取り組まなければならない最大の課題として、「国立大と私立大とをどう位置づけていくのか、ということ。基本的には、国立大と私立大が果たしている役割を踏まえた財政支援の在り方を検討してもらうことです」と訴える。
 OECDの国々に対する公財政支出の比較でも、日本の国立大への支援はトップクラスにある一方で、私立大への支援は最低クラスという「大きな格差」があることが分かる。
 私学助成(経常費補助金)は年間の総額約3000億円で長年固定されており、インフレが進む中では実質的な減額であり、結果として学費の値上げを招かざるを得ない状況を生んでいる。
 「実は、国立大には国際的に見ても豊かな手厚い支援があるのに、私立大への投資は比較にならないほど少ないのです。私立が8割の学生を抱えているという現状を踏まえると、高等教育に対する公的支援の在り方について、改めて議論が必要ではないでしょうか。この国の高等教育に対する財政支援のバランスには課題があります」
 「日本の高等教育の在り方を社会全体が再認識した上で、現在の行政支援の仕組みについても見直しを進めていかなければ、高等教育そのものの持続可能性が損なわれかねません。そのような危機感を社会全体が共有していく必要があります」と訴える。

■大学の価値はAIに置き換えられない

 人口減少やAI(人工知能)によるDXの進展など急速な社会変化が進む中で、高等教育を取り巻く環境も大きく変化している。しかし、浜本は「大学の価値がAIによって代替されることはない」と力説する。
 「知識の獲得はAIでもできますが、異なる価値観を持つ人々と対話し、課題を発見し、解決策を生み出す力は、大学という学びの場だからこそ生まれるものです。繰り返しますが、地域に根差した大学は、その地域の課題や産業、文化と最も近い距離で社会と向き合い、人材育成や研究を通じて社会に貢献できる存在です。それぞれの大学が持つ特色や強味をさらに磨き、地域とともに新たな価値を創造する『知の拠点』としての役割を一層発揮していくことが重要だと考えています」
 そして、これからの私大協には、加盟大学をつなぐ「協働のプラットフォーム」としての役割がこれまで以上に求められる、と言う。
 私大協には、大都市の大規模大から地域のニーズに応える大学まで多様な特長を持つ大学が加盟してきた。その多様性こそが組織としての私大協の強さであり、それぞれの大学が培ってきた知見や実践を共有し、互いに学び合うことで、日本の高等教育全体の発展につながる新たな価値を生み出すことができる、と確信している。
 「地域に根差した大学には、その地域だからこそ育成できる人材や研究、社会とのつながりがあります。一方の大規模大には、広域的に産官学が連携して教育研究を実践するといった力があります。私大協は、それぞれの特色を尊重しながら、大学間の連携をさらに強め、多様な私立大がともに発展し、日本の未来を支える力となるネットワークであり続けたいと考えています」
 私大協の80周年事業を、日本の高等教育の将来像を描く「未来へのメッセージ」の場にするためのプランづくりが進行している。